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violinsさんの翠の海 -midori no umi-の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
翠の海 -midori no umi-
ブランド
Cabbit
得点
76
参照数
1124

一言コメント

ここは、茫漠とし絶えざる波がうねる母なる海ではなく、地に根を下ろした流れのない閉塞した翠の海。我が家を殻(shell)とするならば、ここは籠(cage)の中の「楽園」。青い鳥は、青い鳥になる。「いらっしゃい。ようこそ、楽園へ」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

音声ほぼ全て聞いた時間。体験版部分も飛ばしなし。「クリック後もボイス継続」あり。
2:22/一章(=体験版終わりまで、ここまで選択肢なし)
1:11/二章(End2つ)
5:45/三章(End4つ)
11:15/四章(End5つ)
2:40/五章(End5つ)
0:20/おまけ
計:23時間33分

CG:80枚(差分含まず)
BGM:15曲+OP,EDのインスト



◯エロシーン

<内訳>
双子(陸乃、空音):双子丼の本番1、ダブルフェラ1、空音足こき1、陸乃本番1
沙羅:本番2
灰奈:本番2、シックスナイン1
紡:本番1、指マン+おしっこ1
真希奈:本番2
知紗:本番3、パイズリ1
みちる:本番3、フェラ1

<エロ総括>
コミュニケーションのひとつ・延長としてのSex。抜き用ではないです。
喘ぎは抑えめで、けどじゃれ合いでもなく、会話主体と言うとやや言い過ぎで・・・
薄く広くって感じ。あと尺はやや短め~普通。
2回戦?フェラのあとに本番?なにそれおいしいの?
あと、CGは数そのもの(1シーン当たり1~2枚)もそうだが差分不足。
フェラの時舌が届いてないとか色々。

けど灰奈一回目とかシナリオ的に(あと半歩欲しかったけど)望んだ形だったし(ネタバレ
につき後述)、沙羅などエロシーンでキャラがしっかりたってたりと好印象なのもちらほらと。
一方でみちるのラストエロの配置はおかしい。台なしですよ。

あとどうでもいいけど、ニ箇所だけ「お◯ん◯ん」(知紗)って出てきたんだが、
ぴー×2は初めてかも。



◯シナリオ

概要:主人公が放り込まれたのは、記憶喪失者が住まう不自由なく暮らせる外界と切り離された館で、
孤立していてはありえない違和感・館のシステムの謎と、「楽園」の「気持ち悪さ」から、
<外>(と<内>)を意識し始める。


3章半ばまでは「みんな」での行動が結構あるが、攻略段階に入ると一対一関係が中心。
 ※最終√は除く
主人公の過去[抱えているもの]とヒロインを対比させたり(=同じ苦しみ故に。双子)、
主人公との「支え合い(≠依存)、灰奈」がよく出せていたりと
「お似合いの」関係、「見合った」関係になれてるのが過半数を占めていて良いですね。
逆に性急なもの、心理描写とか他√との整合性・キャラ付け的にイマイチなものもあるが(紡、真希奈)。

目立った設定ミスも見当たらず(拓真の境遇はお見事。思いつかなかった)、
各√を越えたキャラのブレも少なめ。
BGM同様なだらかな起伏で進む物語は、それなりの背景をもっており、そして深く
刻み込んでくるわけではないが哀愁がゆっくり染み渡る感じ。
そして(キャラゲーに比べると弱いが)キャラ萌え要員も控えている。

が、メインの一角である知紗の扱いがねぇ‥‥
知紗なら「こう動くな、こう考えるな」という整合性ある展開ではあるんだが、如何せん
メインに持ってくるキャラ設定として受け入れがたい。
ぶっちゃけ印象悪め。人気投票(12/9まで受付)でガタ落ちが目に見えてる。

そしてシナリオ面では、最終√で爽快感が得られるかというと疑問。
一応「システム」の全容が明かされるし、展望も開ける。
しかし「なだらかな起伏で進む物語」らしい穏やかなEND。
そもそもミステリーに対比したサスペンスではなく、広義のサスペンス作品ではあるが、
「ヌルい」と言えばヌルい。
小◯生二人についてはレイプ目くらい用意してくれればなーとも思った。
そうすれば拓真などの存在について脳が自動的に処理する仕組みを表せたんじゃないかなーと。


全体的に、「粗が少ない・中々良くできている」という消極的評価が合っていて、
突出した部分は少ないかなぁ。
が、「この世界・キャラ」に思いを馳せた時のやりきれない苦しさってのはくるものがある。


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 ※以下、ネタバレ注意























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4章、紡√
 >どうせこの場所は繰り返しで、生きることは同じ時間を繰り返していくことで、
 >それ以外に何も無いことはわかりきっていて。

時間により規律された日常と、日にちの感覚のない日常。
一日単位で時は巡る。同じ日の繰返し。
湖。澄んでいようとも、そこは流れのない、止まった世界。
湖(=死水)と水道。停滞と循環。
元々澄んだ「水」が得意なメーカーですが(「はるとま2」のOPなど)、
他よりエフェクトかかったこの両者が巧く「楽園」を表してるなぁと。

(古典的)ユートピアって基本的に理想の「共同体」像であって、「個人」じゃないんですよね。
その「共同体」を破壊しようとする者は初めから考慮の外に置かれている。異物ですらない存在。
しかし、みちるが創り上げようとした「楽園」に送られてくるのは、選ばれた人間なんかじゃない。
では、適応できなければどうするか。
「楽園」が崩れ去るのをみるか、「異物」を排斥するか。
根本的欠陥を抱えたシステムに「楽園」を築こうというそもそも破綻した願いは、代償なしに叶わない。
「お前はこっち側にくるな」と籠(cage)で境界線を引かれたこの場で「幸せ」を望むとなったら、
誰かが籠の秩序を維持しなければならなくなる。
非難するのも、目を背けるのも簡単だ。その恩恵を享受しているのなら尚更に。
‥‥やりきれないなぁ
‥‥それを真正面から受け止める覚悟を決めた直後に、「協会で」フェラに及ぶ二人を思うと
殴りたくなってくるw


エロシーンの所で書いた灰奈一回目については、ちゃんと傷痕を見せる全裸にしたのがGood.
そしてキスマークを持ってきたのは凄い。
しかし、だいしゅきホールドがあったら尚良かったのに、と。
せめてテキスト上だけでもいいから抱きしめ包み込んであげてくれと思わずにいられない。
灰奈いい子ですよねー。
もちろん空音も陸乃も沙羅もかわいいけど。


知紗は可哀想だとも思うんですよ。
彼女を館に追いやった「じいさん」は、いくら寂しかったって身内ではない知紗を巻き込んだ。
しかも財産のほとんどを相続させる(偽の)遺言なんか残したら知紗がどういう立場に置かれるか
一目瞭然であるはずなのに。
それなのに我を通した。たとえ自己中だからといって知紗が被るほどの苦労じゃないだろう。
まあこんな風に擁護しても、自己中ヒロインを好きになれるかというとまた別で。
「一度折られた翼ではもう飛べない」という櫂はもうみちるの支配下よ(確か【赤い塔】)END
なんかはすっごく感情移入しやすくて良い一面を見せてくれたりもしたんですけどね~。
「しあわせだから笑うのではない。笑うからしあわせなのだ」(アラン)
「みんなを幸せにするために、自分が幸せになるために、笑ってるの。」(紡、みちるEND)
その後に自己中な面が顕在化するTrueENDが待っているという不幸な役柄を背負っているけれども、
「楽園」の中でもっとも楽しさを伝播させた「しあわせ」の起点として活躍したチシャ猫さんは
「楽園」から消滅し、余裕ある「にやにや」笑いができる生活に戻っていくのでしょう まーる