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violinsさんのクロノウサギの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
クロノウサギ
ブランド
Star Gazer
得点
75
参照数
788

一言コメント

フリーウェア。プレイ時間6時間19分。確かに要所の盛り上げには欠けるのだが、〇〇◯ものによくある飽きを感じさせない工夫及びアンドロイドという題材の混ぜ方が上手い。 「アンドロイドってさ、『思考』するんでしょ?それだったらあたしたち人間と同じじゃん」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

5章構成で(サクサク読むと)1章あたり1時間10分~1時間半ほど。 ※OHPには全体でプレイ時間8時間ほどとある。

ルビを見ればわかる(例えば「鈍い」レベルの漢字にもふられている)が、対象年齢に低年齢層も含んでいる。
そもそも全年齢向けではあるが、単にエロシーンなどがないからというだけではなく。
しかしながら内容面では若者しか楽しめない、ということはないように思う。(だからといって大人向けでもないが。)
何かと説明が多かったりするわけでもなく、終盤に関しても「犯人=こいつ」とは明言しないといった、自主的に読み取る部分も残されている。
また、アンドロイドはヒトと何が違うのか?といった(王道のネタだが)考えさせられる要素もあるのは良いものです。





鬼門は1週目。
日常の退屈さと、この世界が「ループ世界であること」の分かりやすすぎる伏線の張り方。
最初3分の掴みはさほど悪くないもののそれ以後の日常が退屈で投げたくもなった。
しかし、2週目からはループ世界の構造が(暗喩というには余りに直接的だが、一応濁した形で)語られ始め、主人公の既視感が明確になり違和感は肥大化する。
更にそこへアンドロイドという特殊な存在が表に出てきて、アンドロイドも含めたマルチサイトで描かれ始める。 (※主人公以外の視点は補助+α程度で群像劇ほどではない)
平凡な日常に過ぎなかった世界が、日常から離れ・隠れた多角的な様相を呈していく。
物語は加速する。
2章以降は十分楽しめた。
…逆に言えば、導入部――ここで投げる人も数多くいるだろう1章――がちとつまらすぎるってことでもある。



1章が余りに勿体無く感じるのに対して、ループものの中では飽きさせない工夫がよく出ている。
何より、同じ文章・展開を抑えているのが好印象。
既読スキップがないことに最初は不安を覚えたが、使いたいと思った場面はほとんどなく、あっても数十秒くらい。
5章構成、つまり5週するのだが、ループものの中でも途中でダレないという点で一歩抜きん出ている。
……しかし、同じ展開が少ないというのはつまり、各キャラの行動に変化が起きすぎているとも言える。
ループ構造に気づいてる、記憶の保持者が多いということを示唆することにもなるという欠点もあるのだが。



映画など様々な分野でお馴染みの、アンドロイドと感情。
自身が抱く感情に戸惑い、動作に支障が生じる一方、感情が高ぶったときはそれを"意識せず"に「憎い」とつぶやく。
戸惑う…つまりはそれを認識し、どういう種類の感情かを判断し、分析できる状態にある。
フィルターを通した感情。
しかし、感情の赴くまま、理性も制御もなく思考・行動するならば。
この段階に至って、ヒトとアンドロイドの違いとはなんなのか。
そもそも『思考』する存在。
所与が前提となるAutomatonでもなく、"自ら"。
このネタに関しても特に詳しいわけではないので深く言及しない(というかできない)が、あり得る未来の話って興味をそそられる。



全体の展開としても中々よく出来ていると思う。
4章はそれまでの流れを変えてアンドロイドとヒトがメインに据えられるのだが、
ループ世界の構造→キャラの関係性・思い→ループ世界の鍵は「思いの強さ」という流れが自然に受け入れられた。
各章で置き去りのキャラがいたことは事実だが、スポットの当て方としては問題ないかと。



まとめ。
巧みな伏線回収などによる大きな驚きはなかったが、比較的に綺麗に纏まってるし、何より2章からは飽きずにプレイできた。
上で述べた欠点はあるものの、ループものなのに飽きない作りはやはり素直に面白かったと言える。楽しかった。

以下、ちょっとしたこと。ネタバレ成分多めなので注意。















惜しかったのは、ループの前提が崩れている箇所
・5章はじめからハルカの感情制御が解除されている(ループ"途中"で解除したものなので5/3時点では継続なしのはず。事実、直前のループ終点時にあった損傷は回復している)
 たとえ精神的な面でも、記憶保持と制御の解除(という外部的な働きが必要なもの)は違う。
 また、ループ世界の綻びとして処理するには大きく変わりすぎてる面も否めない。
・5章はじめの永倉英司がカルディアに抱く疑いに関しても同様。こっちは思い込みで解決できるが。


戯言
・金無い子どもなのに麻薬簡単に手に入りすぎだろ(汗
・結局モノリスは謎の物質として扱われたが、物語以後も他の人の手に渡りそこで過去の改竄が(ry
 まあ、朱乃の手を離れる描写としては十分なのでそれで良し、か。
・ボウガン上手すぎ(笑
・ウサギの中の人は会話などでその片鱗をもうちょっと見せてよかったかと。過去の話自体は良いのだが、仮面を被っていない姿は普通に過ぎる。
 見落としかも知れないが、◯イ◯イくらいでしか判断できなくないか?
・クロノウサギ…世界の終焉が黒に包まれたことと、クロノスを掛けているのだろうが、ウサギは道化の象徴で良いのかしら。
・記憶が残っていないからこそ、朱乃は助けられたときに見た「蒼哉の笑顔」をどう捉えていたのかを匂わせてくれればなぁ…