特典のライターが豪華である事で注目を集めた本作であるが、さすが深沢氏。あくまで本編を楽しむものであり、その質が非常に高い。システムと融合したシナリオ。――物語は綴られてゆく。
<プレイする上での注意点>
・BGM、Voiceともに最大に設定しても他の作品より
小さいので、ヘッドホン・イヤホン推奨。
特にBGMは良曲が多いので尚更に。
・パートボイス
基本的にFragmentモードではVoiceなし。
・プレイヤー自身が物語をある程度覚えていないと進めにくい箇所があるので、
メモを取るか、時間がある時に一気にやってしまうと良い。
・単純な選択肢型のノベルゲーではなく、より能動的に参加できるシステムが用意されている。
※難易度的には低いと言える。物語を最後まで進めるのは容易だろう。
但し、「どこまで読める」か、考察していくか、となると・・・
<特典小説の補足>
予約特典として文庫がついてくるが、ゲーム本編があればおまけにて読むことが可能。
内訳
唐辺葉介 1~38頁
市川環 39~98頁 ※市川氏だけ改行が多いので実質頁数の6割ほど
田中ロミオ 99~140頁
海猫沢めろん 141~200頁
元長柾木 201~346頁
<本編>ネタバレなし
”15分の記憶”という「点」を生み出し、語り、物語という「線」になっていく。
ひとつのセクションでの繋がりは勿論のこと、いくつかあるセクション同士も繋がっていく。
ミステリーでおなじみの点と線。
プレイヤーはこの過程に「能動的」に参加する。
システムとシナリオの融合。・・・未だにYU-NOが名作として確固たる地位を占めている理由の一つである、と聞いています。
(この点に関しては自転車創業も力を入れているそうで。「lost colors」を買ったはいいがいつ崩そうか)
序盤~中盤にかけては比較的スローテンポで物語は創られていく。
”15分間の記憶”を語り、あらすじを作成することを繰り返して。
スローテンポとは言ったものの、BAD ENDを経由する必要があるし、単純に「青春」ものとしての切なさ・甘酸っぱさ・楽しさを堪能できる。
癖が少なく平易ながらも凝ったテキストで綴られる物語にも十二分に魅力がある。
前作「忘れものと落し物」ほどではないものの、しっかり”傷”もありますし。
そして終盤、そのシステムが一変し、物語は加速する。
ピースが繋がっていく。
シナリオを進める為のシステムであるだけでなく、起承転結の「転」さえも表現する。
これが、興奮せずにいられようか。
能動的な参加により惹きつけた心を更に揺さぶる。
そして最後の最後に待ち受ける”結末”。
これを粋と言わずして何と言おう。
――――――――――――――――ネタバレ注意――――――――――――――――――
以下、致命的なネタバレを含みます。
本作はネタバレをくらうとかなり面白みが減少してしまいます。
未プレイ者・プレイ途中の方はこれ以上読み進めないでください。
まだ一周終えたばかりの、考察全然していない状態での疑問点などなど。
<ミスリード>
1)「ナオヤが物語に含まれていない」こと。
まさにひっかけられました(笑)
セカンドノベルというタイトルの意味が明かされるとともに、サクラーアヤノ両者に関係のある人間が”物語”の登場人物であるかのように見せる。
違和感なくミスリードを誘う点など、脱帽です。
※サブキャラとしては片方にだけ関わっている存在も登場している。保険室の先生など。
2)学園と病院の類似性
序盤は「庭師が一緒」くらいのヒントだったが、なるほど。
宇宙人が地球にやってきたら同じに見えるものとして、学校・軍隊・病院が挙げられることが少なくないようで。
「制服・統率性」という点で類似性が高いが故に、ね。
とある有名なエロゲでもオチとして使われていたように、使い勝手のよいネタなのかな。
<疑問点・一言>
語られた時点で脚色された”物語”である、ということはひとまず置いておいて・・・
1)どこが”現実”でどこが”物語”なのか。
”物語”上の「ユウイチ」は「ナオヤ」であるとの記述があり、それに従うのは「サクラ」が創った”物語”上での場合なのか。
それとも”物語”全体で当てはまることなのか。
「サクラ」、「アヤノ」関係なく、”物語”の一部分で当てはまることなのか。
とりあえず、目に付いたのがアヤノが屋上から転落する場面である。
意識を失った状態から覚めたばかり、ほとんど無意識状態で「ユウイチ」を求めている。
これは”物語”上だけでなく、「ナオヤ」が「ユウイチ」になりすます場面(=現実と思われる場面)でも変わらない。
アヤノはナオヤを好きだったんじゃないの?なぜユウイチの名が先に出るのか。
ここら辺が特に混乱してる(汗)
2)セクション8
千秋の身体にサクラ(の魂)が降りてきた?
「15分も保たない」とは?
そして千秋とナオヤ(と思われるキャラ)とのキス。
――これが千秋が綴った”物語”なのか。それとも・・・
3)千秋の家庭環境
胸にぐさりとくる設定ですが、果たしてこの設定は必要だったのか?
千秋というキャラクターを描く上でこの設定があると非常に説得性が増す。
しかし、必須かと言われるとそうではない。
この設定があったからこそナオヤと千秋の距離は縮まり易かったと言えるが、親をここまで悪く見せる必要はなかったのではないか。
こんな風に思い返して「あれ?」と思ったが、ぶっちゃけ千秋が予想以上にかわいく見えたので非難する気は全くなかったり(笑)
4)EX2
魅せ方巧いなぁ。
「忘れものと落とし物」では気付かぬうちにプレイヤーを取り込んでいる。
本作では自然と取り込んだ上で、更に積極的な関与をする余地を与える。
最後の最後でこのカタルシスとは。
5)「失われた夢の物語」「忘れものと落とし物」
前者はあらすじのひとつとして。後者は文章の中で2回登場しているが、関連性はあるのだろうか。
後者しかやっていない身としては、特に関連性を見いだせなかったので単なるファンへのサービスかと思うが、それでも前者は気になる。
というか「書淫~」高すぎ・・・
6)true color,
ここで言う”色”は”誰も見たことのない夕陽”=朝焼け で良さそうだが、果たして合ってるのか。
そしてカンマに続く部分。ここは”あなた”の物語でも埋められるし、千秋(を筆頭としたキャラ)の物語で埋めたいとも思う。
――”物語”は続いてゆく。