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violinsさんのあの、素晴らしい をもう一度/再装版の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
あの、素晴らしい をもう一度/再装版
ブランド
自転車創業
得点
77
参照数
1785

一言コメント

自転車創業のウリであるANOS+記憶管理を使ったゲーム性に関しては「LOST COLORS」に軍配が上がるが、シナリオ面では本作が優る。そして何よりリトがかわいい。うん、リトがかわいい。リt(ry。(長文感想の後半に詰まりそうな場所のヒントを載せました。)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

リメイク前は未プレイです。
変更点はOHP見て下さい。一番大きいのは「記憶管理」の導入でゲーム性が向上した点でしょうが。


○システム

元々はANOSシステムのみで記憶管理が無かった故のシナリオ作りの名残か、ゲーム性という点で「LOST COLORS」には一歩劣っている。(慣れを含めても)
それでも頭を使ってプレイしないとまず詰まるだろうし、「ゲーム媒体」が活かされた謎解きもある。
理不尽な謎解きは無く、違和感・疑問を見つけ如何に論理的に考えるかが勝負であり、醍醐味。
ほとんどが総当たりでも行けるのだが、「なぜこの場面でこの『記憶』を使うのか」を考えてないと作業になりかねない。
筋道付けてプレイしてこそ。
"過程"を楽しむ、そういう作品です。

 ※記憶管理:手持ちの記憶から"ひとつだけ"主人公に強く意識させることで、新たな展開を切り開くシステム。






○シナリオ

時と構成を司る天使が地獄に落ち、堕天使となった世界。
世界の崩壊の危機に立ち向かう主人公一行は一度その役目に失敗する。そして――


>目覚めたとき、おれには『過去』が無かった。そして傍らにいた少女には『未来』が無かった―――――



主人公ライは『過去』がない、つまり勇者としての自覚を持てない上、以前の戦闘で堕天使を弱らせた法術の効果が切れる前に再戦しなければならない切迫した状況。
そんな状況の中、「世界を救う」という大義ではなく、リトの失われた『未来』を治すためという個人レベルに落とした願いでもって挑むので話に入りやすい。

>リトはおれに『過去』をくれた。一日でもだ。
>おれは彼女に『未来』をやらなければいけない。神だろうが、天使だろうが、関係ない。おれはやる。

また、リトというキャラが魅力に溢れており、ユーザーとしても救いたい衝動にかられる。
リトはよく動くし、おちゃめだし、機微を読み取り憂いを秘め、時には控えめ時には満面の笑みを浮かべ、そしていつも側にいる。
もうね、かわいいの。幸せになって欲しいと願わずにいられない。

一回の話(ループの開始地点から終わりまで)が短い分、要所の押さえ方が巧い。
一方、短さ故に話の広がりがない点が好みを分けるかと。
私は自転車創業に謎解きの楽しさとそれに見合うシナリオを求めていて、ライとリト中心の狭く深めのシナリオは好きな部類。
加えて、クリア後にも考察要素がより多めに残されている点で、シナリオ面では「LOST COLORS」より楽しめた。

 ※謎解きではなく単に"読み物"として求めるならば肩透かしを食らう…かもしれません。








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      以下、ヒント・考察(もどき)の順で書きます。

      自力で攻略するその過程が最も大事とも言える作品なので、未プレイ者の方は見ないでください。































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○ヒント


・そもそもフスルト方面へ行けない場合 (私はここに2時間以上かけてしまいました(汗。サクッと行く人はサクッと行ってるのでしょうが)
→「弱点」だけでは足りないです。「弱点」というキーワードが出てきた話を読みなおしてみましょう。どこかに洩れはありませんか?


・フスルトがいると思われる建物に入れない場合
→1人で旅をしている訳ではないですよね。
また、それでも有益な話を聞けなかった場合、ループ手前でライが噛みしめていた言葉を思い出しましょう。
そして、「物語に詰まったらANOSに頼り切らない」という基本に立ち返ってみましょう。


・弱点は分かったが、あの人に加護をかけてもらえない場合
→双月の剣は既に加護を受けていることを頭に入れましょう。
あとは、「何に」かけるかの話題が出る時を探してみましょう。


・タイトル画面変更後、過去の話は選択肢なし・ANOS使用不可で一本道。
なので、ラストの「記憶」を別のものに変えたからといってその過去話に変化はなし。
ただ、本編ではまだ累積要素が残っており(グランド)エンディングまで辿りつけば自動でゲーム終了します。


・ヴェルと新たな話ができない
→「記憶」を使う場面はもちろんヴェルがいる最初の町。
まだ使っていない「記憶」を試してみましょう。これは気付きにくいかも。




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       ヒント終わり。次は考察をば。

       容赦なくネタバレするので注意。






















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○考察


1) タイトル「あの、素晴らしい をもう一度」に入る語句
 →「旅」かな、と。
  「あの、」で句点が入ってることから経験したことであり、(過去の話においてフスルトは)リトの笑顔に生きる意義すら見出している。
  それまでは人を殺すしか能がなく、勇者に選ばれす、姫様とはまともに口すら聞けず、ライからは罵られながらも、ただリトという存在に希望を、幸福を感じて。
  そしてこのタイトル通り願ってできたものがあのループ世界。
  たった三日間の旅でも、(初めはANOSの入手も意図しておらず)ただの繰り返しと分かっていても。
  自分(たち)の(堕天使討伐後という)未来を捨て、リトの記憶(=『未来』)を奪ってまで閉鎖世界を創り上げたことに、その意志に悲しみを覚えずにいられない…


2) ミレイユ姫とライとリト
 →「結婚を控えているのに」というリトの発言から(旅に出る前、周囲には知らせない形で)ミレイユ姫とライは婚約。
  ミレイユ姫「……それから、リトには気を付けなさいよ」は、ライとリトの仲を疑う気持ちと、嫉妬。また、異界の力を使う存在に気を許していないのだろう。
  >あの泥棒猫…………(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル


3) ヴェル
 →知識で敵わないと言っている相手は(知識に1人で入る方法すら知っている)「フスルト」に対してであろう。
  脚の傷については過去の話でフスルトに原因があるとライが指摘しているようなので、知識を与えなかった云々か。  
  但し、ライに向けて、記憶喪失を騙ってるのではないか?という場面から、フスルトも交えた三者間で起こった出来事だと思われる。
  過去の時点でライに二面性があることに気づいていた証左かと。
  だから、>個人的問題、話がややこしくなる とライに対しても濁した。
  
  また、ヴェルの目的は『(やつ以外は知らない筈と言う)はしか』という言葉からも世界の深淵を、ANOSの深淵を知る事ではないか。
  散歩中の会話で、ライの「何度も繰り返している」に対して「目的に一部に触れた」と言っている。
  >しかも相手がお前か。いや、本当にオレの考えが正しいのならば、またお前か…
  ここからもヴェルが入れ替わりに気づいていることが見て取れる。


4) 「(ループ世界での)フスルト」が座っていたANOS
 →発言・共鳴したことからANOS本体の力を秘めている。
  「フスルト」にはループ世界前の記憶をほとんど失っておらず、世界が循環型であることに気づいていながらその状況を甘んじて受け入れている節がある。
  傷を負って動けない為というのが一番だろうが、それでも傷を癒すには一月かかる、つまり一月後はやってこない世界であると分かっていながら。
  これは首尾よく堕天使を倒し、ループ世界を作っているANOSの力が消えることを、堕天使のANOSの中に宿る意志が叶い、世界が動き出すことを待っていたのか。
  故に、嘘は教えず「弱点」に関するヒントを与えたりと協力的でもあった。


5) リトとフスルト(及びライ)の「あの事」
 →弱点を聞きにフスルトの元へ行く場面で。記憶の事は伏せると発生。
  >それだけで済むと……思ってるの?
  >え?
  >ライは……もう、大丈夫なの……?
  
  この危惧は勇者の選定による確執についてか。"ライ"に向けて言うのが引っかかるが。
  リト本人の口からだからリトを巡っての話題ではなさそうだが…。


  次に過去の話。
  『それ』を口に出そうとすると、リトは限界を超えそうな表情になる。
  >……ごめんなさい……やっぱり……考えたんだけど、それもいいかとも思ったんだけど、やっぱりだめなの
  >その方があたしも楽になれるとは思ったんだけど、それじゃだめなの。逃げているだけなの。それはやっぱりあたしの中のかりそめの幸せなの。
   代わりでもいいなんて、あたしには耐えられない。今そのまま流れてしまったらあたし、一生後悔すると思う
  >あいつは…
  >ごめんなさい。彼のことは悪く言わないで
  >…じゃあ、代わりでもなく…
  >…ごめんなさい。でも、あの時の話は、ほんとに楽しかったし、嬉しかった。それは嘘じゃない
  >……
  >それじゃあ……また後でね。あたし、日蝕の話絶対に忘れないから

  逃げ・かりそめの幸せとの言葉から、ANOSを使ってリトの魔法使いとしての過去を消す(又はそれに類する)ことか?
  しかし「代わり」との言葉からは恋愛要素が見いだせるのでは。  
  リトはライに惹かれていたが、ミレイユ姫の手前気持ちを抑えていた。
  むしろ付き合っていたのかもしれない。ライとフスルトの会話からリトとの事にけじめを付けていないと取れる。
  
  それを知った上で、日蝕の日、フスルトはリトに告白したのではないか。
  「ライの代わりでもいいから」と。  
  リトもフスルトのことを悪からず思っており、揺れている。

  >…じゃあ、代わりでもなく…(俺が、ライ本人ならば……)

  

  「ライじゃなくても勇者じゃなくても関係ない。一緒に歩いてきた、『あなた』が好きなの」


  この言葉を聞きながら死を迎えられたフスルトが、幸せでないと言えようか。