さすが田舎+伝奇ミステリーの傑作
特出すべきは、ノスタルジック且つ伝奇としての世界観・雰囲気の出来の良さ。OPから一貫して高レベルの作風が出せている。SYUNによる楽曲、たかみち絵、鷹取兵馬氏によるシナリオなど、スタッフが見事に織りなしてくれた世界。
そして、声優陣の配役も見事というしかない。特に雨音(松田理沙)、藍(金田まひる)、文乃(かわしまりの)の三者は特にキャラを巧みに描き出している。
●ストーリー
構成は起承転結=春夏秋冬の王道。共通部分は少なめで、各√5~6時間程。各√でそれぞれのヒロインは各々の苦境に立つことになるが、根底の伝奇部分は濃淡の差が結構あり、文乃√が伝奇のメインとなっている。攻略順さえ間違わなければ、小出しで物語を深めていく方針はgood.
個人的には藍>>文乃>>雨音>>>明日菜>悠夏 (攻略は雨音・悠夏・藍・明日菜・文乃の順)かな。確かに文乃√で伝奇の全貌が明らかになり内容としても濃いが、ラストの描き方があっさりとしすぎていたきらいがある。一方、藍√は作品全体にわたる、良い意味での淡々とした切なさ・ノスタルジック感と同様に、じわじわと心に沁み亘る感じが見事に描けていた。
全体としては、和ホラー・田舎ものらしいじわじわ感・ノスタルジック感が一貫してあり、一つの伝奇に各ヒロインを其々の形で絡ませている点は評価できる。しかし、(夢という扱いではあったが)井戸の傍らで幼い雨音と文乃が争う場面など、伏線回収の甘い部分や矛盾点はやや目立っていた。あえて描かないというのも解るのだが、それでも描き足りない感は拭えない。
また、時代背景からすれば妥当なのだろうが、堂島などの悪役があまりに「洗練」されていなかった為、中途半端な悪に終わってしまっている。個人的には「悪趣味」と感じるほど極端な描写の方がより好きであり、「死」に関してももっと丁寧に重く描いて欲しかった。
●キャラ
癒しキャラの金字塔ともいえる雨音の笑顔は最高でした。そして時としてクールな仮面が剥がれる文乃はかなりかわいいです。しかし「わたしの存在価値なんて……この世のどこにも、かけらさえ存在しないの」に代表される名言の数々は期待程心に響かなかったのが残念。
●総評
色々欠点も書いたが、世界観、雰囲気の良さを考慮して86点。なんだかんだで名作には変わりなし。ドラマCD・おまけのようなギャグ要素を本編中で使わなかったのは嬉しかった。雰囲気ゲーはやはり一貫性が重要。ノスタルジックや伝奇ものが好きな人は是非やって欲しい一作です。