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violinsさんのフェイクアズール・アーコロジーの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
フェイクアズール・アーコロジー
ブランド
あっぷりけ -妹-
得点
78
参照数
494

一言コメント

ただただ単純に楽しい娯楽作品。ラノベ的なテキストと、軽めながらも世界観が(娯楽という範囲で)充分に作られているSFストーリー。レティ、あきらという頭脳派ながらも楽しい事大好きなおちゃめキャラが二人いる事で日常で何度にやにやさせられたことか。軽快なBGM、表情豊かなキャラと魅力はたっぷりあるのだが、惜しむらくは演出面と主題歌が一曲であること。

長文感想

やらなきゃ分かんないだろ、程度のネタバレは含んでいます。未プレイ者は問題ないでしょうが、途中の方は見ない方がいいかもしれません。




伏線が散りばめられているわけでも、シリアス一辺倒でも、先が気になってしかたがないわけでもない。
純粋にこの作品で描かれる世界に興味を持ち、魅力あふれるキャラ達のやり取りににやにやし、いつの間にかストーリーが進んでいく。
作品に浸る、のめりこむ。
ユーザーを引き込む力は充分に秘めている。



アーコロジーという閉鎖された空間を舞台に、「閉じた空」の向こうを夢見る、そんな千尋が主人公の物語。
SFものとしてはありがちなのかな?と思うものの、あくまでライトユーザー向けとしてはよくできている。
アーカイブという本編に含まない形で用語解説を行ったり、本編中でも日本の名残を残しながらも近未来型の要素を取り入れた世界を見せていく。
ここら辺の説明も無味乾燥にならないよう、しっかりキャラたちに喋らせているのが好感触。



また、システム的な面として章の繋ぎとして閑話を入れる形式をとっているのだが、結構よくできていた。
利点として時系列をばらばら(実際はそれほどでもないが)にできるし、特にシリアス面の途中で(さほど重要でない)エロシーンを入れる事で意識がそがれないようにもできる。
本作では単純に複数のイベントが見れるという面が強かったが、楽しかったので良し。

※但し、閑話と本編の矛盾がないわけではない。
例えば、千尋と莉音の過去を、莉音が他ヒロインへ話す場面が閑話であるのだが、後の本編では伝えてないことにされる部分や、莉音√の「なかなおり」で莉音は裸ワイシャツのはずだろ、とか。



キャラに関して。ここが本作の強み。
知的ながらもおちゃめな、いじくりキャラをレティ、あきらと二人配置したのが素晴らしい。
これが一人だったらまず80点は付けなかった。
典型的幼なじみのいじられキャラ莉音との相性も当然よく、この三人+千尋(ただのヘタレではなく、自分の意志を貫く好青年)の絡みが楽しい楽しい。
…春子はあんまり絡まないんだよ、悪くはないんだけどね(こそっ

※確かにラノベ調のテキストであり、地の文が多めだったり、一言一言が長めであるためテンポが悪いと感じる面もある。
しかし、それ以上に楽しさを感じたのは事実。


そして、浅海朝美の描くキャラの表情、特に目が良い味だしてます。エロい顔してるし。
立ち絵の種類はさほどないものの、目を細めて「にっしっし」してるレティとかあきらがかわいいったら。
日常が楽しい上に、シリアス面もちゃちなものになっていない。


屋上での莉音とレティの対峙は見事。
ありのままの感情に依る莉音と、理性的でありすぎるが故に軸が弱いレティ。
莉音√ではただの理解者になるのではなく、あくまでむき出しの感情を千尋にぶつけてくれたのもgood.
莉音以外の√では「千尋のことは好きだよ」と語らせたり、「自分こそが千尋の理解者なんだ」と自負しては自己嫌悪に陥ったりと、汚い部分も見せる。
所々見せる感情表現がまた上手い。
テキストはともかく、内容的には魅せるライターであるのかな。

とはいえシリアス面全て良かったというわけではないが。
夏祭りの最後の件や、莉音√のラストとかは「う~ん」と思わなくもないが、全体的には良かった。
春子√とか呆れて笑ってしまう観客の一人の気分だったし(笑)



BGMにせよ、テキスト(「何処」とかの漢字を使いたがることを除けば)・シナリオにせよ、キャラの立ち具合にせよ、総じてレベルは高い。
が、弱いのは演出面かな。
空中戦など、BGMによってなかなか興奮するのだが、瞬間最大風速は弱い。
ナツユメナギサ羊√のように、ここぞという時の熱い曲と日常曲との差異を大きくできないことも原因のひとつか。
とはいえ、軽快な曲が合う作品なのでどうしようもないんですがね。
何よりEDソングは欲しかったなぁ。

他には誤字脱字(とはいっても5~10くらいか)、上で述べた閑話との整合性の問題あり。※パッチは'10年8月現在出ていない

あきらかわいいよあきら。