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violinsさんのナツユメナギサの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
ナツユメナギサ
ブランド
SAGA PLANETS
得点
78
参照数
1170

一言コメント

幻想に包まれた物語は、ただの幻で終わらず現実にも痕跡を残す。優しく、そっと背中を押してくれるお話。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

後半で『ナツユメナギサ ~NOSTALGIE~』のネタバレも含みます。
これは新キャラが登場する外伝小説であり、加えてゲーム本編の後日談がちょろっと載っていたりします。
ゲームと同じく幻想的な雰囲気を伴った作品であり、ゲーム本編が気に入った方の多くが楽しめるものになっているかと思います。





常夏の島、ペンギンが溶け込み蝶が舞う風景、謎の手紙と謎の依頼。
良質なBGMに乗せられた幻想的な雰囲気に包まれた、淡く儚くも優しい夢の物語。

「美浜、愛してる!! 私も愛しているー!」「好みのタイプ?髪は短くオッドアイで…」「そうなると、わたしが娘役ということに…」
些細な日常のワンシーンが、一言が、そこに籠められた想いが、物語を大きく動かし、決定づける。

触れたものの感情を読み取る歩の能力は「特殊な体質」で片付けられてしまったけれど、
相反する感情を持ったどの夢[想い]も"時"を司る大樹の叶える夢として、主軸にブレはなく。
 ※真樹の想いの核心は「女として渚と接する」こと。理想の姿形を取ったことは二の次。


つかさ…親に甘えたい、けれどその一歩が踏み出せない。甘えたいという願望が膨れ上がった幼児化。

羊  …他人を信じたい、受け入れたい/受け入れてもらいたいという気持ちと、裏切られた傷跡。
    アイドルでいられた時期と、病院から出られない日々。火傷の傷は癒えぬまま、伸ばされた手を受け入れる。

はるか…死の病に逆らわない祖父と同じ生き方をするか、治療に臨むか。セミでも良い。自分自身で力で生きたい。
+アリア…父親と一緒に、幸せに生きていきたいという気持ちと、自分が母親をこの世から奪ったとの思い。
     叶わぬはずの母親とともに過ごす日々。母親と向きあう日々。

真樹 …男として接してきた過去と、女としての自分。渚の理想像を形どって、初めから女として出会う彼女。

歩  …渚を慕う心と、渚との出会いすら否定する心。君がいた夏、君がいない夏、君といる夏。



最終的な結論として、"CG鑑賞の"最後のCGに歩以外のヒロインの側にいる[いた]のが渚と断定できる要素はない。
 ※CG鑑賞にある並びは本編中のCG順と異なる。意図的なものだろう。


つかさ…"雪降る街で"母親と抱き合う。

羊  …火傷は治っていないものの、"誰か"が手を差し伸べ、それを受け入れている。社会への回帰。

はるか…崖から落ちる所で"誰か"に手を差し伸べられる。
    崖は死への諦めの象徴であり、助けられてでも生にしがみつく姿は、短いながらも輝きを見せるセミを思わせる。

真樹 …渚の恋人としての夏を思い出の夏として、男として接してきた現実に戻る決意をする。

歩  …渚への想いも、出会いも受け入れて、"雪降る"中で願いを囁く。

※はるかについてはエピローグから察するにアリア幼少期のCGがラストとも言える。
 だとすればアリア(有田)の後悔が晴れた、母親が託した幸せを享受できたとも考えられる。
 また、はるかに関しては"時"が全面に出ていないが、はるかの夢というよりはアリアの夢であったと捉えれば、
 アリアの存在自体が"時"を超えていたと言える。
 はるかは亡くなったアリアの母親、というのが素直な理解か。
 


雪が降っているということはまさに夢(=常夏の世界)ではなく、"現実"であることを示している。
渚は死んでしまったけれども、ヒロインたちは"夢"のおかげで立ち直れた。
儚く消える夢であっても、その夢と同じような行動を、現実でも取ることができた。



……渚死亡は外伝小説で否定されちゃいましたけどね(汗
いや正確には、それぞれのヒロインの心を占めているのは"渚"であるということが明確になり、かつ渚が助かる可能性が示されたってことですが。
自分としては受け入れがたい結末なので、ハッピーエンドで終わらせたかったという意図があったものと勝手に思っています。
これもひとつの夢。物語。



歩の願いも、音々の願いも、きっと「渚のいた夏が永遠に続けばいい」「あの時に戻りたい」といった後ろ向きなものじゃない。
夢でもフィクションでも2次元でも3次元でも、自分の心に残った「何か」は事実であり、現実の在るもの。
渚と共に過ごし、ヒロイン達はそれを"現実"として前に進めた。
晴れやかで前向きな、そんな物語。