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violinsさんのアトリの空と真鍮の月の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
アトリの空と真鍮の月
ブランド
TOPCAT
得点
83
参照数
1072

一言コメント

前作『果て青』で特出していたノスタルジーが減退した一方、シナリオ分量が倍程度になり解り易く細部まで描けている。キャッチコピーである「せつなく『優しい』ミステリー」性に主眼が置かれ、一貫性をもった名作といえるだろう。作品がら埋もれざるを得ないだろうが、多くの人にやって欲しい作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前作『果て青』から6年後のストーリ―。まさに前作の評価を受ける形で作っていったであろうことが明確に解る。
まず一言、スタッフに感謝。これほどの分量でありながら目立った矛盾・粗がなく、ストーリ―・音楽・キャスト・CGどれも高レベルに纏まっている。
それにしてもキャスティングの見事さは『果て青』でも感じていた事だが、今回も見事な配置ぶり。作品の良さを高めるようなキャスティングは誠に嬉しい限りです。そして立花に西田こむぎさんを当ててくれるとは。ありがとうございました。



まず、前作と今作の相違点から。
・分量が倍以上になったことから明らかなように、物語の解り易さ大幅に上がっている。
果て青では行間を読むとしても、(あえてでしょうが)描かれていない部分も多かった。
それが今作に関しては神や倦族などが前面に出てくるなど、細部まで背景が理解できるようになっている。
・春夏秋冬を描くことに代わりはないが、今作では春・夏のボリュームがアップし、これらの季節からもう深い面が垣間見られている。
・月乃・文乃を隠し√とすることで、最後に全容が解るようになっている。
・「タイトル」「学校」「卒業」「告白」「藍がいない」など、前作は飛び抜けてすばらしい楽曲が多かったが、今作は全体的にいいBGMが多いが突出したものは少ない。故にノスタルジーさが大きく減退している。
・たかみち絵という大きな作風の喪失

このように、一長一短あると思います。どちらの評価を高く見るかは個々人で変わってくるだろう。


今回際立ったのは何より鷹取さんのシナリオだろう。true end後のDLコンテンツで明らかにされていますが、7回も書き直すという徹底ぶり。温めに温めたシナリオということがよく伝わってくる。
最終的な目的・結論が同じものであるため、2週目以降は終盤に行くに従い重なる部分も多いが、個人的にはあれだけの深みを描きながらも各√を進めるごとに更に深みが見えてきて十分楽しめた。確かに(前作と比較しての)1週目の感動は最も大きかったが。

true endでまさかの伏線・謎を明確に残すとは…。CG自体は他√から推測しうるものの、文乃と月乃が伝えた事は果たしてどういう意味を持つのか…。FDなどは出さずに想像に任せる形だと自分としては嬉しいですかね。

それにしても何故体験版に体力測定をいれてくれなかったのか。あれを入れれば月乃人気からアトリを手に取る人が増えただろうのに(笑