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violinsさんの赫炎のインガノック ~What a beautiful people~の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
赫炎のインガノック ~What a beautiful people~
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
83
参照数
570

一言コメント

桜井女史のリズムの良い、詩的で劇的なテキストが綴る《異形都市》インガノックを生きるひとたちの群像劇。高品質のBGMと作風を見事に彩るグラフィックが作品全体の完成度を高めている。しかし後半の惹きつけの弱さが勿体ない。※プレイ後にはOHPで公開中のノベルも忘れずに。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

喝采せよ! 喝采せよ!


うむ、桜井女史のテキストはリズムミカルであるとともに、読み易さが際立つ。
スチームパンクシリーズの一作として、造語などやや難解語が多様されるのにも拘わらず読み疲れさせない点は充分評価できる。
作柄上似た場面の繰り返しが多いので必然的に同じ台詞回しも増えるが、くどさは感じなかった。
とはいっても、飽きを感じる方も少なからずいるだろう。



次にシナリオ面に関しては、泣くまではいかないまでも心打つ優しく切ない群像劇。
キーアを筆頭として、キャラの位置づけ及びその描き方が素晴らしい。
キーアに対するルアハの感情はまさに秀逸。
「なぜ」ルアハがキーアに心を開いたのかが、納得のいく形で語られる。
更にキーアの対としてケルカンを持ち出すことでルアハの人間性・人間としての迷いを見事に描いている。

>大脳の一部だけが、ワタシです。
>他のものは、すべて、置換されています。


また言うまでもなく、ギーに対するアティの感情も丁寧であり、どのキャラにも愛着が湧こう。
単なる「悪」ではなく、考え方が違っていただけ、だと。



アティにしてもルアハにしても、18禁要素に意味を持たせた使い方をしてる点も良い。
確かに実用性は全くないものの、シナリオへの組み込み具合は他社にも見習ってほしいほど。

また、世界観に沿ったテーマとして人間性の喪失と非人間性の進行。
この両者のせめぎ合い、後者による前者の浸食が巧い。
人間関係のみならず、多様な人間の内面を見せる複数視点の有効な使い方であった。



マイナス面に関しては、
・戦闘のチートさ
・パートボイス(尻切れではなく主要な部分に関しては特に問題ない)
・終盤に至るにつれ穏やかさが増し、迫力に欠く点。
 但し、締め方は良いのでプラスにもマイナスにもなる
・ゲームパートの必要性は弱かったか。演出としては良かったが
・エロシーンの実用性のなさ。ま、ライアーだし(ry
ぱっと思いついたのがこれくらいか。

世界観の背景・練り込みに関しては他のスチームパンクをやってから突き詰めてみたい。