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uziteru3104さんのFORTUNE ARTERIALの長文感想

ユーザー
uziteru3104
ゲーム
FORTUNE ARTERIAL
ブランド
AUGUST
得点
90
参照数
475

一言コメント

オーガスト屈指の名作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

個人的にはオーガスト中最高傑作である。
言うまでもなく、オーガストの他の作品が様々な方から客観的に評価されていることや、優れている作品だということを私は非常に理解しており、プレイしているため彼ら彼女らの感想ないし評価がわかる。
ただ、他の『夜明け前より瑠璃色な』、『穢翼のユースティア』といった作品とは異なり、本作品における吸血鬼という裏設定を抜きにした場合非常に明るい学園生活が描かれる。この点は『大図書館の羊飼い』に似ている。
また、『羊飼い』との類似は学生生活が非常に高度なレベルで自治であること(この点については、『Piaキャロット学園プリンセス』を参照せよ)。実際の現実世界の生徒会あるいは生徒はこのような高度な自治が与えられていることは、極稀であることは諸君らの学生生活から理解できるに違いない。このような学生生活モデルは、今日の言葉を用いれば「リア充的あるいはボランティア的」な大学生活もしくはアメリカン・スクールを模倣しているように思われる。
また、『羊飼い』に現れるような生徒会、『けよりな』における遺跡、『ユースティア』におけるティアもしくは都市の保護、といった目標・競争敵などが、本作品では描かれない。千堂伽耶を敵とみなすのは早計である。
このゲームの強調すべき点はここではなく、すでにあげたオーガスト作品に共通するようにこの作品もまた「自立論」を唱えていることである。本作品は主人公が自立するよりも、ヒロインら自身の愛されることに対する存在論的問題提起である。注釈するべきなのは、ハイデガー的な存在論の議論ではないこと、つまり存在とは何であるか、ではないということだ。
ヒロイン、とくにメインヒロインは「主人公に(恋的意味の)愛されたい」という感情はあるが、それを主人公に強制はしてほしくないこと。この点に注目してプレイしてほしいということ。
以上のようなテーマに関する妄想はともかく、この作品を評価するべき点は他にもある。
主人公が過去にこの島にいた、という事実は一見してこの学校に来るための最もらしい製作者側からの設定に思える。しかし、そのような設定でさえも物語の真実と辻褄が合うように「人工的に」創られた美術品である。
作品の構造それ自体、非常に計算されて製作されており、よく出来た作品だと思う。