ようこそ、甘美にして残酷なる輝かしき妄想の世界へ。
シナリオ:68/70
本作は「科学アドベンチャーシリーズ」の第4作である一方、シリーズ第1作である「CHAOS;HEAD」(以下カオへ)の続編的な性格をかなり大部分に帯びている作品である。公式サイドでは独立した作品でありカオへをプレイせずとも本作を楽しめるという旨のコメントもあったが、実際にはカオへをプレイしないとストーリーの理解に困難が生じたり、存在している伏線に気づくことができないなど大きな弊害があるように感じた。そのため公式の意識の低さを懸念して勝手ながらここは少々減点させていただく。
いきなり貶すところから始めてしまったが、本作はその「カオへ」を基盤にしながらもそれでもなお全く新しくゲームを創り上げ、更には前作の粗削りな要素を大いにブラッシュアップした傑作に仕上がっている。
シリーズでは恒例ともいえる壊れゆく日常の描写・大胆かつ丁寧な伏線の張り方と回収は元々高い評価を得ていた事実上の前作「カオへ」と比べても更に磨きがかかっており、プレイすることによって感じられる非日常感は並ぶモノが無い。
シナリオを進めてゆくとかなり多くの謎が増えていくが、本作で新搭載された独自の選択肢システム「マッピングトリガー」が適宜挟まれ、そちらで抱えている謎が整理されるのでストーリーの難解さがプレイに支障をきたすことも無く、安心して読み進めることが可能だ。
個別ルートが他の美少女ゲームと比較してかなり短い点はカオへから引き続き残念ながら相変わらずだが、半ば投げやりに作ったような評価の低い個別シナリオも含まれていたカオへとは違い、今作はヒロインの内面なども含めてきちんと読み応えがあるように作られている。特にとあるヒロインのシナリオでは共通ルートをはじめ至る所で張られていた衝撃の伏線が回収される目を見張るものとなっている。
貶すところはまるで見当たらない。強いて言えばトゥルールートで判明する最大の真実に関しては、プレイヤー内でも是非が議論されることがある程度にショッキングなものとなっている。個人的にはここに込めた原作者の意図や後日談のファンディスク・スピンオフ小説なども鑑みて納得のいく内容だったので、これで大減点をするようなことはない。
グラフィック・演出等:20/20
メインキャラクターデザインは「カオへ」からささきむつみ氏が続投しているが、氏のキャラデザは5年以上の時を経て絵柄が少々変化。こと当作品のキャラデザに関しては現代の作品と全く遜色がない、時代遅れを全く感じさせない洗練されたものになっている。立ち絵の不足などが無いのはもちろん、一枚絵のクオリティも総じて高く、どのスチルに関しても一枚一枚が線画・塗り・背景に至るまで丁寧に描かれておりこの点に関してゼロと言っても過言ではない。
妄想トリガー発動時の演出も、カオへのものと比較してもよりシームレスかつハイセンスなものとなっており快適な読み進めを実現している。
示唆と美しさに富んだオープニングムービーも見逃せないが、トゥルーエンドのエンディングはまさしく見もの。同エンディング曲は歌唱するいとうかなこ氏が直々に作詞したもので、この作品のネタバレをこれでもかと含んでいるので未プレイの方は是非とも全力で回避して、エンディングで初めてこの曲に触れてほしいところだ。
欲を言えば、あの美しいクリアエンディングリスト画面でプレイ時間を参照したり操作バーを消せたりして欲しかった。そこだけが減点ポイント…だが、余りに瑣末かつ重箱の隅をつつくような感じが否めないのでわざわざここで減点はしない。
UI:10/10
不満点なし。
その他加点減点事項
豪華声優陣による迫真の演技 +2
主人公CV付であることも含め、声優の熱演は特筆するレベルにある。
特にメインヒロイン・尾上世莉架を演じた上坂すみれの変幻自在の演技は注目して欲しい。
総評
科学アドベンチャーシリーズ制作スタッフサイドからは、同シリーズでぶっちぎり1番ヒットした「Steins;Gate」を抑えて本作を最高傑作と評した声も出るほどの作品で、実際に遊ぶ側の賛否こそ分かれそうなものの、刺さる人にはとことん、どころかこれでもかと心に刺さる非常に質の良いシナリオを持ったゲームだと思っている。これまで科学ADVシリーズに触れたことがない人も、セールを狙ってカオスヘッドと共に購入し、時に耽美、されど時に残酷なるこの妄想の世界観の面白さを体験して欲しい。