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uohageyoutubeさんのSTEINS;GATE 線形拘束のフェノグラムの長文感想

ユーザー
uohageyoutube
ゲーム
STEINS;GATE 線形拘束のフェノグラム
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
75
参照数
72

一言コメント

読めてよかったシナリオはあったけど…

長文感想

シナリオ:50/70
本作は「Steins;Gate」3枚目のファンディスクであり、内容としては10編+隠しシナリオ1編の、それぞれライターの異なる全11編の短編シナリオを収録したオムニバス形式の作品である。岡部倫太郎を主人公とするシナリオが2編収録されているのを除けば各シナリオの主人公は基本的にそれぞれ異なっており、主に本編主人公・岡部倫太郎以外の視点からこれまで語られなかった各キャラクターの一面や魅力を垣間見るというのが本作のセールスポイントとして設定されているとキャッチコピーなどから推測される。
個人的には、全体的にそのセールスポイントにかかる需要は満たせていると実際にプレイして感じたほか、フェイリス父や4°Cなど本編であまり出番が与えられなかったサブキャラクターに登場の機会が与えられている点も好ましい。
一方シナリオはそれぞれライターが異なることもあって、既存のキャラの人物像にブレが生じることが稀にありプレイ中に疑問に思ってしまうこともあった。
その他、そもそも本編と直結しない内容のシナリオも多く、例えば所謂「比翼恋理のだーりん」世界線(世界線変動率3%台の世界線)を舞台としてひたすら都合よく描けるように予め設定されたシナリオも多かったことが、個人的に不満なところでもあった。本編の舞台となっているα世界線等が舞台になるシナリオでも結末は本編からだいぶ逸れるなど、本編の内容補完などを期待していた場合にはかなり興醒めするもの含まれている。また、作品のボリュームについてプレイ時間を多く見積もって20時間台である点も非難の一因となっている。

しかし、そんな中でもプレイして良かったと心から思えたほど満足感のある面白いシナリオもかなり多かった。以下、その一部を貼る。

「黄昏色のソーテール」(主人公:牧瀬紅莉栖/担当ライター:三輪清宗)
11編のシナリオの中でも唯一、明確な本編補完と取れる内容になっているシナリオである。担当ライターはTRPGのゲームデザインやリプレイ、ゲーム作品のオカルト考証などの分野で知られている三輪清宗氏。
本編のある場面から始まり、「紅莉栖が岡部を救うことを決意したきっかけ」を描いて、そして最後は本編のまた異なるとある場面で締めるという構成のシナリオ。ゲーム版でタイトルの通り「救世主」のように一見すると都合の良いほどに岡部に対して優しく立ち回っていたように見えた紅莉栖の新たな一面が描き出される他、本編で悪役らしい悪役に徹していたある人物、さらに本編であまり出番がなかったフェイリス父の人物面も新たに描き出されている。これを読むとスピンオフ小説を求める気持ちが加速するかもしれない。

「悠遠不変のポラリス」(主人公:椎名まゆり/担当ライター:みかづき紅月)
β世界線での椎名まゆりの内面を多く描いた「ゼロ」やその元となったドラマCDシリーズとは別に、α世界線における椎名まゆりの内面と、それを踏まえ本編とは異なる結末を迎えるifシナリオが描かれている。
ライターはジュブナイルポルノ・ラノベ・TL小説作家のみかづき紅月氏。ライトノベルではアニメ化もされたものの内容の過激さでちょっとした物議をかもした「最近、妹のようすがちょっとおかしいんだが。」などで知られる女性作家である。
全編を通して氏の丁寧な心理描写が魅力的である他、結末は本編でのまゆりの扱いに不満があったプレイヤーには特に刺さる内容になっている。もしそのようなプレイヤーがいれば、「ゼロ」を遊ぶ前後のタイミングは関係なく是非読んでみて欲しい。

「三世因果のアブダクション」(主人公:岡部倫太郎/担当ライター:打越鋼太郎)
本作のひとまずの最終シナリオである。「Ever17」「AI:ソムニウムファイル」などの傑作を書いたことでその名を知られるゲームシナリオライターの打越鋼太郎が担当しており、内容としては世界線変動率4%を舞台とした本編からほぼ完全に独立した短編ミステリーとなっている。
短編ながらも氏の作品の長所である「多数の伏線と終盤におけるそれらの一気の回収によるカタルシス」をシュタインズゲートの世界観という優れた舞台装置のもとで存分に楽しめる傑作となっている。
ただ、豪華なライターを招聘したものの本編とほぼ全く関わらないシナリオが最終シナリオに入ってしまったことや、氏の書く文の「癖」が出ていることもあってキャラに少々ブレが見られる点は非難されることもある。自分はこの点は予め知っていた上、これが初めて打越鋼太郎作品に触れる機会だったので十二分に楽しめたのであるが…

グラフィック・演出等:20/20
立ち絵の多数追加などはないが、スチルは全般にわたって高いクオリティが確保されている。またオープニングムービーは据置版・PSV版それぞれ異なっているが演出が非常に美しい素晴らしいものに仕上がっている。このカテゴリは満点をつけられるレベルに達している。

UI:5/10
プレイ環境には何ら問題はないのだが、そもそもこのゲームは著しくゲーム性が不足している。
シナリオがひたすら一本道でバッドエンド分岐なども用意されていないだけでなく、シナリオを遊ぶ順番の自由がなく、それも中途半端な固定のされ方となっている為不満が募ってしまう。

総評
豪華ライター陣が集って書かれたアンソロジーノベル集と見ればかなり楽しいものであるが、それでも態々この媒体でやる必要はあったのだろうかと疑問が残ってしまう余地もある作品だった。安く手に入ったり個別のシナリオを見て興味を持ったなら買っても良いかもしれないが、一方でスピンオフ小説にはこれらとは別に面白いものも多い。シュタインズゲートを初めて遊んで世界観にハマった人でも、まずはそちらを探ってみてもいいかもしれない。