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umimaruさんのANGEL TYPEの長文感想

ユーザー
umimaru
ゲーム
ANGEL TYPE
ブランド
minori
得点
86
参照数
379

一言コメント

思春期の陰をテーマに、心の楔(くさび)と救済を描いた小説。独特の雰囲気を作り出す、夕焼けの校舎や夜の海など、ありふれた日常の裏側と哲学的なテキスト。表面を飾る意味を感じない日常会話と心内文との距離がまた 現実的であって趣深かった。背景は非常に綺麗でCGもムラなく、ボリュームの割にBGMも多いし立ち絵の表情も豊かなので、水を差されることなく物語に惹き込まれて行く。テーマが抽象的というのもあって作者の意図が読み手に伝わりにくいのが惜しかった。以下個人的に考察

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 主人公 藤代尚は、他者との距離を保つのが不器用な青年。
他人を求めるあまり浮き彫りにされていく自分と他人を分かつ壁に気づき、集団の中でさえ孤独を感じる繊細さ。
ほんの少し勇気が足らず、割り切ると言うことを知らない彼は、感情の捌け口がないゆえ押し潰されていく。
そんな中、それを察して向こうから線を引いてくれる設楽は、少しだけ付き合いやすかった。


 時には、翼のない天使のように――


 翼を持たない天使(ANGEL)「ここでは心の救済をもたらす者の意」である無垢な4人のヒロイン達(TYPE)と
触れることによって、主人公はどんどんと彼女らの心の奥に惹かれていった。
 
 未憂からは抗えない死の中でも、生きていく事の強さとその意味を。
猫という心の楔石を失って脆く崩れ去った詩希からは、誰もが孤独を抱えていて
それを埋めるものを手にしているか否か、またはそれらの大小に過ぎないということをそれぞれ教わった。

 きっかけや方法は違えど、彼女達「人という名の鏡」によって映し出され己を知った主人公は
「自分として生きていくこと」を胸に、自らの道を歩き始める。


 あなたは自分だけの天使を見つけることができましたか?――


 人生には何回かターニングポイントがあるだろう。
それは誰かの何気ない一言だったり、不可避の挫折だったり、運命的な恋人との出会いだったり
カタチ(TYPE)は一様ではなく、またそのときの自分だけに当てはまるものであろう。
 
 もしそれが一人の女性だったとしたら、それは自分だけの天使ではないのだろうか?




多少強引な解釈はあるかと思いますが、以上が個人的な考察&感想です。他にこれは素晴らしいなと思えた点は 
プロローグにて別視点で主人公を捉えている部分。彼女にとって主人公はどこか特異に見え
そこから主人公の視点に戻し"あえて差を出す"ことによって、彼の設定を際立たせていること。
OPムービーの初め、現実の月を映す心の海に天使の羽が舞い落ち、波紋をもたらすシーンはとても印象的でした。