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umaibou108さんの義妹だからできること、妹じゃないとダメなこと。の長文感想

ユーザー
umaibou108
ゲーム
義妹だからできること、妹じゃないとダメなこと。
ブランド
Mink EGO
得点
80
参照数
2588

一言コメント

「抜きゲーの割には話の面白いエロゲ」のニューフェイス。イチャイチャやニヤニヤからはほど遠い鬱ジャンルで、耐性のない者にはおそらく核地雷。しかし或る人物の仄暗い情念の奥底には、純粋で美しくも心揺さぶられる或る愛のカタチがあって、それが堪らなく私を惹き付けるのだ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Gyuttoの広告バナーに釣られて衝動買い

初感は夜のひつじの「純情セックスフレンド」から良いところを失くした感じ
主人公の少年が女郎蜘蛛の巣に絡めとられ、少女の姦計と性技にて奈落へと堕ちていくのだが
心理描写は左程緻密でも豊かでもなく、替わりに随所に織り込まれたギャグは常にダダ滑り…

…そんな風に思っていた時期が私にもありました
だけど「ことのうらがわ」のラストでその認識は全部ひっくり返る



義妹と実妹が本当は逆だったのは、中盤辺りから小出しにされる情報で察しが付くようになっている
伊織が計略抜きで純粋に主人公ラヴだったことも事前に判る
だからそれらがいざ明るみに出ても、プレイヤー側に特筆すべき驚きはない

だが真エンド=唯ルート経過で主人公が伊織を絞殺してしまう顛末で
兄に殺される妹が内心何を想っていたかが明かされたとき
まるで冷水に打たれたような衝撃と清冽な感動とを覚えた

同時に本作のタイトル「義妹だからできること、妹じゃないとダメなこと。」についても得心がいく
なるほど。これは確かに「妹じゃないとダメなこと」なのだ
(1/4の賭けになることはさて置いて)



伊織の立場を自分に置き換えて考えてみる

本気で、心から誰かを愛して
その誰かのためなら自分の命なんて惜しくない、全てを捧げられると信じて…

仮にそれが出来たとしても
わざと想い人から憎まれるようお膳立てして、恐ろしい殺意をぶつけられて事実殺されもして
それでも最期まで笑ってみせることが自分にできるだろうか?

愛する人の為に自分を捧げても当の相手はそれに気づいてくれない
それどころか心底嫌って嫌って憎んで、こちらを殺そうとするのだ

あまりに不憫じゃないか!
あまりに報われないじゃないか!
そんなの私には堪えられそうもない

ぼかした表現だったが、おそらく伊織は養父の性欲や暴力のはけ口にされて、自身も酷く屈折して
生き長らえた彼女の手は殺めた相手の血と、汚泥のような情念と、複数の男の精液とに塗れて
処女厨独占厨には忌避されそうなそんな汚れた妹が兄に示したのは、しかし紛うことなき純愛だった

いや、「ウソとニセモノだらけ」の世界で自身が汚泥に塗れていたからこそ
たった一つだけ信じられる尊いものを求めて止まなかったのか

兄に愛してほしくて、でも兄から嫌われたくなくて、兄の命も救いたくて…
ジレンマの果てに導き出された答えは、クソみたいな最低最悪の選択肢が1つだけ

愛のカタチ、幸せのカタチというものはきっと十人十色で
だけど伊織の選択は、あんな結末でしか報われない彼女の想いは
それはあまりにあまりに悲し過ぎる

どうして彼女は笑っていられたのだろう?
どうして彼女は涙を浮かべていたのだろう?

(上記で行ったように)その心情に想いを重ねたとき
私達プレイヤーの心には、"汚れ役"の健気さと美しさと儚さとが後を引く余韻となって残る



設定の破綻や細かい欠点は色々あるけれど
概ね他の方が指摘されてるし特記するまでもないかね
いや、主人公の記憶の齟齬に説明がほしかったことだけは一筆書いておくか