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umaibou108さんのひとつ飛ばし恋愛の長文感想

ユーザー
umaibou108
ゲーム
ひとつ飛ばし恋愛
ブランド
ASa Project
得点
76
参照数
1430

一言コメント

OHP「4つの作品ポイント!」から読み取れるのは、天都氏が本作でやりたかったのがおそらく同ブランド前作「恋愛0キロメートル」のキャラクター、氷室屋灰の焼き直しだったということです。長文感想は恋0のネタバレを含みます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


メリハリがなく構成も雑で、(全編通じて)日常イベントをあまり深く考えずに適当に並べた感がありますが
テンションの高さと随所に盛り込んだギャグとを、勢い任せにブンブン振り回したような作風は嫌いではありません

「4つの作品ポイント!」から作品の要が『なんだか悪いことをしているような感覚』
つまり大なり小なりの身内への罪悪感、そこから生じるスリルや背徳的興奮であったことが窺えます
しかしこの作品、実は碧里ルート以外にそのような展開は存在しません

桜ルートでは主人公ではなくヒロインが罪悪感に苛まれますが、プレイヤーの立場からすれば残念ながらそれは他人事です
千乃は幼馴染2人の恋愛に極めて肯定的でしたから
こちらは彼女に申し訳なく思うことも、憂い顔に心締め付けられるようなこともなかったのです

夏芽ルートは二人の世界に引き籠ったバカップルの馴れ初めに、無理して姉イベントを差し挟んだような異物感
恋のキューピッド役を買って出たメグですが、主人公に積極性があったのでどのみち早晩彼は夏芽とくっ付いていたと思われます
つまり「メグがいなければ成り立たない関係」ではありませんでした

りさルートに至っては間に阿知華を噛ませる意義そのものが喪失しています

企画にマッチしていたのが1ルートだけだったため
担当ライターは公表されていませんが、消去法で天都氏が碧里ルートを書いたのだろうと推察はできます



前作「恋愛0キロメートル」には氷室屋灰というサブキャラが登場していました
あまり女を感じさせない気安い女子。いじられキャラ
「ひとつ飛ばし恋愛」で例えれば恭次郎の女版のような友人ポジション

発売前ユーザー間でほぼノーマークだった彼女は、発売後の第2回人気投票で(5姉妹に次ぐ)6位の健闘を見せます
(桐谷華が声あててる実妹より順位上なんですよ!)
その甲斐あってかPSP移植版では攻略ヒロインへ昇格を果たしています

彼女に対する評価は、表向き主人公に気のない素振りを示しつつ、影でプレイヤーに見せた涙といじらしさにあったと思うのです
それはきっと多くのエロゲ愛好家達の琴線に触れたのではないでしょうか

「『主人公を想って影で泣く美少女』は"当たる"」
彼女のイベントを担当された天都氏は、氷室屋の思わぬ人気に何かしら手ごたえを掴んだのではないか
そしてそれが、今回のユニークな企画に繋がったのではないかと私は邪推しています

氏は氷室屋のようなヒロインを、もう一度機会を改めて、脇ではなく主軸に据えた形で描きたかったのではないでしょうか
おそらくそのための"ひとつ飛ばし恋愛"



そう考えると三枝紅は明らかに前作の氷室屋を意識してデザインされ、作中でも似た経緯を辿ったことに気付くのです

一方で紅はグラフィック・テキストの両面で優遇され、とても愛らしく描かれていますから
プレイヤーは自ずと彼女を好きになって、その叶わぬ恋に一緒になって心を痛める……
心を揺り動かされるようにこのゲームは設計されているのです

あえて断言させて頂きますが「ひとつ飛ばし恋愛」は、他ならぬ三枝紅のために用意された物語です
碧里ルートはルートヒロインの彼女ではなく、失恋を運命づけられた紅を描くために存在している……

身内キャラのユーザー人気を散々煽ったところで、彼女達の攻略ルートを新規に設けるのはおそらく既定路線です
多くの方が指摘されてますが、PS Vita辺りに『ひとつ飛ばさない恋愛』(笑)がリリースされるのでしょう
曲芸商法的でとてもあざといですが…w

「できれば分割商法は避けて、本作Windows版に紅ルートを(隠し要素として)こっそり封入しておいて欲しかった」
そのような感想を抱いたのは私だけではないはずです(確信