エターったと思って一度は諦めていた本作が、こうして完成して日の目を見たことには正直感慨深いものがあります。
娯楽色の強いライトSF
テキストは平易でとても読みやすい。心情も簡明に描かれる
語彙の豊かさが必ずしも作品の質を決定づけるものではないと再認識させられた
春乃編の感想にも書いたが、主人公の泥臭い人間味には好印象
関西弁のモノローグで綴られる彼の心理描写や、その推移に過不足感は無かったが
一方、一部サブキャラの言動に首を傾げてしまうものがあってそこは残念
ギャグとシリアスの混在は、想定の甘さこそあるけれど
作品にメリハリをつけ読者を飽きさせないことにある程度成功しているように見える
Ever17やらひまわりやらシュタゲやら
あの辺りの、"仕掛けで読ませる"作品群を好む層には結構ウケそうな内容なのだが
何故か評価されずに埋もれている感が否めない
私の感性がズレているのか、それとも単に知名度が低いだけでこれから伸びていくのか…
旧いバージョンで不満を感じた視点変更システムは、完全版ではしっかりと機能している
一般的な紙芝居ADVと違って、プレイヤーが要所要所で能動的に解法を見出さねばならないので
ノーヒントでプレイすれば作品の難易度はかなり高めと言えるかも
古き良きADVゲームを愛する人なら楽しめるか?
作中で表示されるヒント、公式サイトのネタバレ、BBSでの作者回答など、一応救済措置は整っている
スキップでうっかり分岐点(選択肢ではなく、視点変更による分岐やHpoint獲得)をスルーしがちだが
Day Selectや前のシーンに戻る機能があるので容易に取り返しはつく
アーベルの某KOTYノミネート作よりは遥かに良心的だろう
春乃編
押入れの奥から5年前に買ったC71春乃編(パッケージ版)を引っ張り出してきて検証したのだが
そちらのバージョンと比べて完全版には大幅な加筆修正が見られる
(私は旧い方しか知らないのだけれど、現行の体験版はこれ丸々1本になるのか)
春乃は正統派ヒロインとしてキャラは確立しているが、ちょっと良い娘過ぎて人間味に欠けるか
山場が2つ追加されてること、夕子の顛末についての言及もあって
旧作と比べ、単体としても纏まりは良いように思えた
相川編
以前領布されたものには触ってなかったので今回が初プレイになる
主人公との親和性は春乃より高いように見える。お似合いである
あと言うほど彼女はちっぱくないぞっ!
最大の見せ場である透明人間との対決シーンは緊張感を醸せていて上々
分岐次第で「主人公が敗北してヒロインNTRレイプ」展開があるので人を選ぶかもしれない
夕子編
春乃、相川編はあくまで「超能力を小道具程度に扱ったコミカルな学園恋愛ADV」であり
ヒロインは夫婦漫才のツッコミ役に準じているが
ガチでジュヴナイルSFに走った夕子編はその構成も、彼女の立ち位置も他ルートとは大きく異なって見える
パラドックスの解決策として多世界解釈とハインラインの設定を持ち出し、舞台は主人公達に苦難を強いたが
視野が明晰であれば記憶の情景にも飛べるとして、最後の大団円に繋げたくだりはお見事
ひとつ難点を挙げると、元の世界に戻る方法を見出す辺りまでは高く評価できるのだが
その後の顛末、Afterがあまりに駆け足で状況説明に過ぎたこと
そこはもう少しなんとかならなかったのだろうかと悔まれる
分かったつもりで何も分かってなかったことに気づいてヘコむ主人公
感情の共感、他人の気持ちを本当の意味で理解することを、シンプルながらも丁寧に描いていたのが印象に残った
誰かを慰めるために、黙って手を握ったり抱きつくことを示した弟子へのアドバイスが
終盤あのような形で結実するとは思わなんだ
夢を見る辺りから告白までのくだりは本作最大の見せ場の1つ
直截に好きだ、愛してると口にさせず、初々しく微笑ましく仕上げたセンスを評価したい
読んでいて胸がじんわりと温かくなる
上記箇所もそうだが、伏線の張り方は総じて上手い
「あれ?これって夕子ルートというよりあすみルートなんじゃ…?」
途中までそのように思わせておいて、本作最重要の核心部分を明かし
それまで各所に散りばめられた伏線が、(誇張抜きで)本当に綺麗に纏まって1本の線に収束する様には
ささやかな感動さえ覚える
なるほどそういうオチか、とプレイしながら独りごちた
…そして○○○ープ
正直あの発想はなかったw
ちゃんと伏線張ってあるのだけどあれは無理、読めませんw
戦闘描写であれだけテンション高めまくって、あそこで一気に叩き落したじゃないですか!
あのギャグ滑ったら全部台無しだったよ!随分リスキーなことしたなぁ
ラスボス戦の難易度は異常だと思う
もうね、反復横とびがヌルゲーに思えるくらい
私の勝率は2割を切った
何度繰り返しプレイしても、気が付いたら惣二に壁ドンされてるんですよね(笑)
…なんだか先輩が、某インなんとかさん並に不遇に思えてきた