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umaibou108さんのWHITE ALBUM2 ~introductory chapter~の長文感想

ユーザー
umaibou108
ゲーム
WHITE ALBUM2 ~introductory chapter~
ブランド
Leaf
得点
90
参照数
1409

一言コメント

90年代の全盛期のトレンディドラマ(恋愛物)、あるいは今だと韓流?をエロゲ化するとこんな感じか

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

印象的な台詞回しや掛け合い、現実味とお約束な偶然とをバランスよく交えたプロット運びが
往年のトレンディドラマを思わせる王道路線のラブストーリー。
このまま実写ドラマ化して一般人に観せても余裕で通用するクオリティ。
昨今の日本ドラマ界の末期的状況を鑑みるに実写化はやめてほしいとも思うが。

幅広い層への配慮が要求されるエロゲテキストの常として
読者に想像の余地を残す作風ではなく、馬鹿みたいに懇切丁寧に心理描写を行い
(要するに、エロゲ主人公並の超鈍感でも登場人物の心の機微が手に取るように把握できる仕様)
取っ付き易くて万人向け、初心者向けで他者に勧めやすいタイトル。
またそういった意味でもドラマの脚本に通じる部分がある。

テーマは男1女2のコテコテの三角関係の愛憎劇。
例えが古くて申し訳ないが君のぞや、更に古いがきまぐれオレンジロードを思わせる。
(主人公がヘタレで読者のストレスを煽るところまでよく似ている)
相思相愛の2人に焦った3人目が割り込んで、なんとか交際まで持ち込むが
自分の心に嘘がつけない面々が結局事態を泥沼化させて…
こういうの大好物です(笑) めっさ楽しいわ♪

ただ、R35やアラフォー世代の若かりし頃に世に出ていればきっと大ウケしてた内容なのだが
これが2010年の男性エロゲユーザーの希求に沿うかと問われると3つくらい疑問符が付く。
R指定シーンは1回のみ、ヒロインその1とは結ばれていないし
一応ひと区切り付いてはいるが、結局は未完なのでやきもきする方だって居るだろう。
葉のユーザーは伝統的に萌え重視の方が多いので、この内容だと不満が爆発するのではないかという危惧が強い。
私としては概ね満足。分割やら価格面にも不満はない。

他に目に付く点といえば音楽だろうか。
BGMやSEを使ったユニークな演出手法に感心させられることが多々あった。
スキップが出来ずテンポが悪くなるデメリットもあるので賛否両論だろうが。



[主人公について]

ウザキャラ。
無自覚に周囲の異性に思わせぶりな言動を取るトラブルメーカータイプ。
自覚の有無に関わらず、気のない異性に粉を掛けるのは男としては不義。
また女性の友人に対し他の女の子のことを執拗に誉めちぎるKYキャラでもある。
勿論そちらも無自覚。

結論:悪友のプレイボーイ君よりこちらの方が遥かに悪質。
男性だから許容される土壌もあるが、もし主人公が女性だったら同性から総スカン食らった挙句干されてるだろう。

あと、彼は小中でクラスのDQNからカモられていじめられるタイプだと思う。
ここは"学費の高い私立"らしいので今は平穏?



[雪菜について]

美形でその自覚もあり、猫被って清純派のお嬢を気取ってる激モテ女子。
この手合いは大きく分けて2種類居るのだが、どうも丸戸氏はその両者を混同してるフシがあり
キャラ設定やその言動に不一致・違和感を見出すことが幾度かあった。
…エロゲヒロインにリアリティ追求しても仕方がないのだが。

例えば彼女には、恋愛において窮地に陥った際"アンタなんて何とも思ってない"旨の強がりを口にする傾向がある。

丸戸氏の描く"デキる女、いい女"像には特徴があって、皆恋愛に対してある種の矜持を持っている。
男の気を引く時には肉食系の口説き方をせず、スマートに粉を掛けて相手を自分に惚れさせる手管を使い
女をアピールする時と男を立てる時とのメリハリのつけ方が巧みで
失恋した際には意外にあっさりと身を引いて見せる。
要するに格好良いのだ。思想信条も立ち振る舞いも。

閑話休題。
上記の雪菜の傾向もこのようなプライドの現れだと受け取れるのだが
そういう人間は主人公のことが気に入ったからといって、関わりを持ちたいばかりにミスコン辞退を慌てて撤回するような無様は犯さないだろう。

また、面識のない恋のライバルに会いに行ってチクチクと攻めたり、彼女と友人になった後手料理を振る舞うことにかこつけてちゃっかり意中の男子に女の子アピールする類のしたたかさ、あざとさ、計算高さ、腹黒さを持つが
それは周囲に壁つくって男女を問わず人と距離おいたり、中学の時上手く立ち回れずに友人からハブられた不器用さと矛盾している。
天然とは違い計算高い系のモテ女は(類友になるが)それなりに友人が多いはず。
ミスコン準優勝の先代ボーカルがそうであるように。

あと経験上、こういうお嬢系モテ女子は男性に素の自分を晒さない(ボロはよく出す)。
相手の気を引こうとしているのであれば尚更である。
だってキャラ作りは、自分の地のキャラに対するコンプレックスの裏返しなのだから。



[かずさについて]

エロゲによくある不良女子のテンプレ。
尖っているが実は心根の優しいいい娘で、恋愛より友情を選ぶタイプ。
彼女が主人公と距離を置いたのは失恋の傷心に基するが
雪菜からの逃避は、自分の不義理による自責の念に耐えかねたから。
とはいえ、何だかんだ言って結局は寝取る訳だが…

終盤の電話のアレはまんまドラマ展開で笑えた。
何度も似たようなネタをドラマ上で観た記憶もある。



最後に雑感を2つ。

2周目でかずさ関連のイベントが3つ、雪菜のものが1つ追加されるが、その仕様は蛇足だと断じる。
気づかないユーザーも居るし演出上の意味も薄い。1周目で全部出した方が良い。

雪菜の中の人って、声のキー上げて役作ると演技が拙くなる感があるが
今回は非常に良い仕事をしていたと思う。
やはり地声やそれに近いトーンの方が断然映える印象。