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umaibou108さんのRewriteの長文感想

ユーザー
umaibou108
ゲーム
Rewrite
ブランド
Key
得点
90
参照数
4055

一言コメント

新規ブランドを立ち上げず、著名な主力ブランドからあえて毛色の異なるタイトルを輩出する商業的なリスクを鑑みない代表はいないだろう。 それを英断と取るか蛮勇と見るかは結局人それぞれとしか言えない。 propellerが非燃えゲー創ったって、Augustが鬱ゲー創ったって、面白ければそれでいいじゃないか、と考えてしまう私は果たして異端なのか主流派なのか。 おそらくKeyブランド初であろう非泣きゲーの、いつものようにとりとめのない雑感。他の鍵作品の微ネタバレを含む。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

かつて「リトルバスターズ!」作中において、「学園革命スクレボ」とかいう架空のコミックが度々ネタとして用いられていた。
スパイ物と異能バトル物との差異はあるが、Rewrite共通ルートの流れはこの「スクレボ」そのものである。
異能を持ち自身を普通の人間ではないと思い込んでいた主人公は、実はメンバー全員が非凡人であるオカ研において、一人だけ抗争の蚊帳の外に置かれた一般人であった。
"特別"であったはずの自分が、実は(相対的に見て)ちっとも特別などではなかった皮肉。

若者特有の全能感とそこからの脱却、少年が大人になる通過儀礼の一ステップを見るかのよう。
実際そういったメタファーを意識しているのかもしれない。

「自分には無限の可能性があると思ってた。やればできる子だと信じていた」
「だが現実の自分には大した才能もない。人一倍努力を重ねるほどの情熱もない」
「街行く死んだ魚の目をしたサラリーマンを見てあんな風にはなりたくないと思ってた」
「だけど気づいたら自分もその群れの一人になっていた…」
自身のスペックの把握。諦観。
実社会において、そうやって少年達は大人の階段を昇っていく。

これは英雄の物語ではない。
身体能力を限界まで向上させたところで、彼は大軍勢相手に単騎俺TUEEE無双する勇者様にはなれないのである。

能力を使って組織を壊滅させれば良い、との篝の提案を一笑に付したのも
己の分をきちんと弁えていたからに他ならない。
独りでは盤局をひっくり返すことなど到底できない。
個としての人は社会には、人のうねりには勝てないのだ。

江坂の言うように瑚太郎は勇者ではなく兵士であればそれでよかったのだ。
特別なチカラなんていらない。社会を構成する一員でありさえすれば良い。



複数ライターの弊害という世評には疑問符。
なぜなら当ブランドの代表作はこれまでことごとく複数ライター制。
しかし当作までそれが批判の的になることはなかった。
問題は複数起用そのものではなく、総括する製作指揮の側にあったのだと推察できる。
これまでそれなりに上手く出来ていたことが今作では何故か失敗してしまった…。

ライターの個性が大きく乖離して纏めきれないのなら、無理して擦り合わせを行わずに
いっそ主要登場人物までも異なる、完全に独立した物語にしてしまった方が良かった。



ライター各人の仕事を見れば、ロミオ担当箇所の伏線、静流の日記演出、アサヒハルカの正体発覚描写、Terraのユニークな選択肢の使い方など評価できる箇所も多い。
特に伏線は共通ルートの今宮登場シーン、小鳥ルートの今宮、朱音ルート序盤の朱音や津久野の発言等、今読み返して戦慄の走る想い。

>【朱音】「おまえはガーディアン組織から外れた超人なのよ」

"外れた"。つまり終始野良だった訳ではなく、過去にガーディアン所属であったことを暗に示唆している。
電話の内容もTerraの情報がなければ読み解けない。

>【津久野】「あなたが、こちら側においでになるとは意外でした」

"こちら側"。入信への言及というより、"こちら側"と"あちら側"とを対比させた言い回しで
むしろあちら側こそが貴方には相応しいとうそぶく口ぶり。
数奇な運命というフレーズの持つ含みは、当時主人公の感じたそれよりもずっと重い。

初見でそれと気づかせない伏線の妙は見事である。



Terraのエピソード、やはり森の中で朱音を助けるイベントまで本編共通ルートと被るのだろうか。

脳の障害云々は医学的なものではなく、むしろ魔物化の影響と見るべき。
エロゲ的なテンプレ、個別ルートに入った主人公がそれまで親しかった他ヒロインに無関心になるご都合主義の口実としては
なかなかユニークなアイデアだと感心しつつ読み進めていた。

小鳥の葛藤=操作された心と恋愛感情について。

ロミオ氏の手がけた他タイトルで以前にも扱われた題材だが
他の魔物達の例からも分かるように感情が宿ることはままある様子。
金枝の知識も絶対ではないのだろう。

主人公への精神干渉の有無を論ずるのなら、それはおそらくあったのだろうが
二人の関係はその後年単位の時を重ねて蓄積された産物、経験的なものでもある。
その心情は多元的であり、一側面だけを捉えて断ずるべきではない。
瑚太郎は契約を解除した後も小鳥への気持ちを失わなかった。つまりそういうことだ。

>【小鳥】「おまえは魔物だ!あたしが生み出した…心の形をした魔物だ!」

本当の魔物は瑚太郎ではなく、むしろ彼女の心の弱さであるように読み解いたのは、きっと私だけではないはず。



地球滅亡と2大組織の抗争、人類生存の可能性の模索等、壮大なギミックを掲げつつも
結局この物語の主題はもっとミクロな視点、寂しがりの少年の対人関係構築と成長、"一個体"のヒューマンドラマ。

繋がりへの渇望は、それこそC†Cや家計の頃からロミオ氏の扱う普遍的なテーマであるが
Terraで主人公が篝に惹かれたのはMoonの意識の残滓だとして
そのMoonで彼女に惹かれたのは、所謂無人島理論や吊り橋効果でしかないように思える。
愛なんてそんなもの。

最終的には彼は、人類をこれまでより1つ高いステージに引き上げる牽引役となったが
彼は別に人類の末をそれほど強く憂いていた風でもなく、人類愛に溢れていた訳でもなく
あれらはただ、恋焦がれる一人の少女の望みを叶える為だけに、等身大の一青年として奔走した顛末。

厭世的ではあっても破滅までは望まず、情や良心も捨てられず
結果双方の勢力から離反し、時には篝の意にさえも反し
求めに応じて彼女を討ち、自身も力尽きるその今際の際までも
瑚太郎はひたすらに唯人であり続けた。

歴史上の偉人達もその成し遂げた数々の偉業も、蓋を開けてみれば案外このような物だったのかもしれない。