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twnさんのしろくまベルスターズ♪の長文感想

ユーザー
twn
ゲーム
しろくまベルスターズ♪
ブランド
PULLTOP
得点
92
参照数
977

一言コメント

不思議なことが起こると伝えられる、『ツリー』が眠る町──しろくま町を舞台に、町の人たちとの交流や幸せを届けるサンタたちの温かい奇跡の物語を描く本作。クリスマスを描いた作品、日常を丁寧に描いた作品、人と人との心温まる交流を描いた物語をお探しの方には、迷うことなくこの作品をお勧めします。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

町の住人となるべくおもちゃ屋稼業を営みながら、町の人々や仲間達との日々の触れ合い
を丁寧に描く本作。
その一方、自分は何のためにサンタになったのか、自分の追い求めるサンタとは
どのような姿なのかといった自分のあるべき姿を巡り、悩み苦しみ、挫折し、
自分なりの答えを導き出してゆく──そんなサンタとトナカイの成長が
とても丁寧に思いを込めて描かれた作品でもありました。

いずれのシナリオも登場人物が(サブキャラを含め)丁寧に描かれていて、
立ち絵の無い一人一人の顔を思い描くことができるくらい活き活きとしています。
主人公である中井冬馬も好青年で、うじうじとして優柔不断で軟弱な主人公が
嫌いな私にもとても好感が持てました。
キャラクター一人一人を丁寧に描いたことが、プレイヤーをさながらプレゼントを配る
サンタと同じ視点に据えさせ、町の人たちを幸せにしてあげたいという想いと同調させることで
より一層心を温かなものにしてくれたのかもしれません。

サンタクロースというファンタジーの登場人物を現代の町に上手く溶け込ませるため、
サンタのソリを引く機械を登場させたり、生活費は自分達で稼がなくてはならないといった
妙に実生活に根ざした設定も面白い。
ツリーから放たれるルミナという不思議物質の設定も相まって、上手い具合にファンタジーと
科学が融合していたんじゃないでしょうか。
その他シナリオでの複線も綺麗に消化されており、演出も凝っていて総じて素晴らしかったです。


不満点を挙げるとするならば、以下の通りでしょうか。

1.りりかルートにおけるH描写の偏り

「りりか=おしっこ」という公式が成り立つぐらいおもらし描写が多かった。
ライターの性癖なのかもしれませんが、そういった性癖の無い人にとっては
正直引いてしまうのではと心配になってしまいました。
あとちゃんとした恋人になる前から過剰な性描写がある点も気になりました。
以上の点ならまだ目につぶることができるのですが、どうしても納得できない点があります。
それは他の人の感想にも書かれていましたが、りりかが処女を喪失するシーンが
なんでこれで終わりなの?と思うぐらい短いこと。
冬馬がりりかの全てを受け入れ、それまでのようなごまかしのきく擬似的な恋人関係
ではなく、しっかりとりりかと向かい合い自らのパートナーとして受け入れる
覚悟として描かれた重要なシーンであり、話の展開的にも盛り上がり的にも
一番丁寧に、心を込めて書くべきであるにも関わらず、尻切れトンボのように
急にHシーンが終わってしまった。
これにはさすがに私も唖然とさせられてしばらく空いた口がふさがらなかったです。
他のHシーンはこれでもかというほど執拗に描いていたにもかかわらず、この重要な
シーンをなぜこのように端折ったのか、ライターには理由を釈明して欲しいのです。

2.硯ルートにおける日常生活の起伏の無さ

ななみやりりかと比べヒロインが消極的なこともあって、物語の展開に起伏が欠け、
中盤やや中だるみした印象を受けました。
子供との触れ合いを通して自らのサンタ像を見出すシーン、イブのパーティ本番に
見せた成長は大変よかったです。


不満点ほど文章に書き起こしやすいため、後半不満点を多く書き連ねてしまいましたが、
それらを差し引いてもこの作品は総じて素晴らしかったことを最後に強調しておきたいと思います。

今後もPULLTOPの作品には期待しています。
開発に携わったスタッフの皆さん、素晴らしい作品をありがとうございました。