丁寧に作られていると思う。だが、好きではない。長文は不満点について。
最後まで家族というテーマを書ききったライターの熱意は素晴らしいと思う。
しかし、家族万能無敵説とも言えるような主張は私の考え方とは相容れなかった。
以下は気になった点など。(11/06/20 追記)
・一般生徒の扱い
外野を貶めることで身内の魅力を引き立たせる手法はありがちだが、
ここまで強調されると不快に感じる。
進学校だから皆勉強のことしか考えておらず、他人のことなどどうでもいい。
そのくせ人の悪い噂には興味津々で、弱者を嘲笑することすらある。
かと思ったら態度を豹変させて、見知らぬ他人の結婚を祝いに集まる。
モブキャラだからといって、あまりにも都合が良すぎるのではないか。
主人公たち以外の登場人物だって努力しているし、人間性があるはずだ。
それを無視して、ここまであからさまに道具として利用されると、
モブより先にライターへの憤りを感じるくらいだった。
・渚復活
それまで愛する人や大切なものを失いながらも
懸命に生きる人々の姿を描いてきたのに、
いきなり渚だけが助かるのは構成的に矛盾しているのではないだろうか。
しかも直前の汐ルートでの
主人公が父と自分の姿を重ね合わせ、渚の死を受け入れて立ち直る
という展開の方が私的に納得できたので、それを否定されたようで釈然としなかった。
・町=大家族
後から考えれば、サブキャラにまでルートが用意されているのは
町という大家族の一員として繋がっていることを示したかったのだと分かる。
しかし、共通や個別でほとんど町への愛着や郷愁をにおわせる発言もなく、
町自体の特徴や歴史に関する描写も見られなかったように感じた。
この状態で終盤に突然町の変化について言及し、
家族と重ね合わせるのは無理があると思う。
幻想世界と今まで集めた光が大家族の証、と言われればそれまでだが、
渚の交友関係はごくせまく、トゥルーエンドでは全く登場しないキャラも多い。
そのため、彼らが町を構成する要素であり、渚を助ける力になったのだ、
と言われてもいまいち実感が湧かない。
さらに、町の住人には、それまで蔑ろにしてきたモブキャラが含まれる。
彼らはずっと主人公たちに様々な迷惑を掛けられ、
底の浅い悪人として使い捨てられてきた。
社会に適応できない、無力な主要キャラたちを理解しない「世間」として
対比されてきたのだ。
そうして主人公と敵対する側として位置づけておきながら、
最後には彼らも仲間であるかのように結論づけたことは、
この物語の根本的な欠陥であるといえよう。
この部分を受け入れられれば、渚復活についても
「今まで岡崎家や古河家という単位で乗り越えてきた困難を、
最後は町という単位の家族で乗り越えた」
という解釈が出来るのかもしれないが、
最後まで私にはこの町を家族だと思うことが出来なかった。