少女たちの成長物語。本来それだけの物語だが、変わった設定と印象的なセリフがいいスパイスになった。
『夏が来て、暑くなって、少しだけ雨が降って、田んぼは青々しくて、風が吹くと緑の匂いがして……ケンちゃんみたいな友達がいて。なんにも変わらないけど、それだけでもいいんだよ。上手く言えないけど、楽しいことなんてたくさん転がってて、気持ちいいことは簡単に見つけられて、笑い声はどこからでも聞こえて来るんだよ』
(本編、幼き日の夏咲の言葉)
この言葉すごく好きです。
夏咲編は、夏咲がこの言葉を取り戻す物語です。
洞窟の中で笑顔でこの言葉を言ってくれたときは感無量でした。
この夏咲の言葉のように、重要な局面で現れるセリフの印象が強いです。
『まなのお姉ちゃんは、すごいんだよぉっ!』
『私は一生子供でいい!』
場面の演出、重要な局面の盛り上げ方が非常に巧みです。
短くない時間をかけて到達したその場面は労力を返して余りありました。
さちや灯花に関しては成長のテーマがより身近なものになっており、
また違ったところで心に訴えかけるものがあります。
時間をうまく使えない経験。
自分で決断できない局面。
誰にでも覚えがあるものだと思います。
その点を指摘する法月の言葉に耳が痛くなった人も居るのではないでしょうか。
少女が、僕らにも身に覚えのある「弱さ」を克服していく様には
大きなカタルシスがありました。
この作品に対して、社会的な考察をしてる人も居ますが、
結局のところは単なるエンターテイメント作品。
トリックがもて囃されたりしますが、アクセント以上のものではないと思います。
少女が、立ち上がり、選択し、愛を取り戻すだけの
だからこそ心に響く成長物語だと思います。