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tsubame30さんの魔女魔少魔法魔の長文感想

ユーザー
tsubame30
ゲーム
魔女魔少魔法魔
ブランド
羊おじさん倶楽部
得点
87
参照数
224

一言コメント

めちゃくちゃいいゲームだった。クレイジーだけどどこか生々しい世界観と、のろいちゃんのキャラと、終盤の展開がほんと好きです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

めちゃくちゃ好き。おもしろいです。
のろいちゃんとの掛け合いの楽しさと、絶妙の構成でさくさく読めた。
明らかに倫理観がゆがんでてクレイジーな世界観ですが、一概に突飛とは言い切れない生々しさがあって、だからこそいろいろと考えてしまいました。

のろいちゃんのキャラが非常によい。
立ち絵もかわいいし、腕の交差ポーズもなんか変な子ってのが伝わる。
のろいちゃんに付き合う過程で希望を見つけ、のろいちゃんに会いに行く展開とか
もう僕の好みストライクといった感じ。

音楽の力もかなり大きい。
単純に組み合わされる素材の相性がいいなと思いました。
最後の「私が願って」「僕が想像する」のくだりで音楽が変わるのすき。
ノベルゲームって素材の量というよりは嚙み合わせだなと感じた。
素材の数自体は決して多くないが、実に効果的に使っていると感じる。




ここから先は、最後まで読んで感じたことを。



自分の幸せは誰かを不幸にする。
人の願いは、だれかの幸せを押しのける形をしている。
猫を殺す話、女の子にいいカッコみせたい(ハサミ報復)の話は、
まさにそういう話だった。
ハサミ報復された子とのろいちゃんとの会話が、ほんとに締め付けられる。
のろいちゃんの手で、のろいちゃんと同じ境遇の子を生み出してしまった。
まさに願いが人を不幸にした形。
のろいちゃんはその構造を、魔法を通じて確信を持ってしまったのだと思う。
だから、願った過去の自分だけは否定してはダメって言うのだろう。


良かれと思ってやったことが、人を殺す。
生きているだけで、誰かを傷つける。
ひき逃げの話はまさにそういう話だった。
善意が最悪の結果を招く。
呪いと祈りは表裏一体、ということなのかもしれない。
幸せになるには、不幸を撒き散らさなければならない。
だから、幸せになるには、他者の痛みに無頓着だったり、他者を傷つけないほどに優れていたりしなければならないのだろう。
そうじゃない人間は、もう構造的にどうやったって幸せにはなれない。
それは魔法という形で祈りがすぐさま届くようになっても変わらない。
祈る限りは呪わざるを得ないから。


僕は、本作を読み終えて、前向きな気持ちになれた。
構造的に幸せになれないことを物語を通して突きつけられて、なにがどう前向きなのかって?
そういう構造を目の当たりにして、でも、それでもちょっとだけ良くすることを願い、自分のなりたい姿を祈る。
明るい側にいけないことを、幸せになれないことを心底理解して、それでも前に進もうとするふたりに僕はいたく胸を打たれた。
どれだけ呪いをぶちまけようとも、祈ることを諦めなくていいのだと思えた。


人はどこからでも幸せになろうとすることができる。まあ世界は変わらず地獄だけれど。
最後の魔法『みんなに等しく幸せな地獄』というのは、多分そういうことで。

もう少しだけ、祈りと呪いをばらまいてもいいのかも。
そのことを後ろめたく思うのではなく、自分の願いのあるままに。
『魔女魔少魔法魔』は、ちょっと勇気の出る、楽しくて恐ろしくて、心に刻まれる作品でした。