決して派手な作品じゃない。実はそこまで爽やかな話でもない。でもそれだけに、素朴な味わいに満ちていて、人の営みが感じられる温かい作品でした。
・草食系主人公、いいと思います。
主人公が、意外とあまり見かけないストレートな草食系。
人間と幽霊の関係を描くこの作品において、ふさわしかったと思います。
がつがつ何かをしてあげる、という立場ではなく、
ただ一緒にいて支えてあげる、という立場こそがヒロインにとってとりわけ必要だからかなと思います。
まつりは人と交われる場所
奏菜は弱く在れる場所
雛菊は普通でいられる場所
雪花は友達と一緒の場所
杏は家族と一緒の場所
このゲームのキーワードは「場所」かなぁと個人的に思っていて、
ヒロインの救いや支えになるのは「場所」をつくることであり、
それは、行為の派手さなんかではどうにもならず、相手への理解や共感が欠かせない。
だから、柊哉くんの草食具合が大事になってくる。
大事になってることがわかるから、ヒロインが惹かれる理由も伝わる。
地味だけど、大事な役割を担い、結果的にヒロインの魅力にも一役買った、とてもいい主人公だったと思います。
・花へのこだわりとアンチ爽やかさ
エンディングリストにあるしおりの花の解説を読むまで、全く気付かなかったのですが、
女性の名前、全部花の名前が関わっているんですよね。
由梨が百合なのには笑いました。そういうことかよっていう。
ここまでならいくらでもある話なんですが、解説を読めば読むほど、そのキャラや物語が想起される。
名前をして拝借しただけじゃなく、もはやモチーフレベルになっている。
でも、モチーフに引っ張られてるわけでなく、ちゃんとキャラはキャラとして立っていた。
こういうのを見ると、よくできてるなぁ、と素直に感心します。
さらに、もうひとつ評価したいのは、その花の綺麗な部分だけを描かなかったことです。
杏以外には、ちょっと重めのバッドエンドがいくつか用意されています。
結構、ヒロインの思い悩み方が重たくて、当初想定していたほどの爽やかさはありません。
私的評価としてネックになっている部分がないわけではないですが、
バッドエンドとして設けるだけの価値と重みはあるように思いました。
少なくとも、選択肢ミスったからはいどうぞっていう感じではなかったですね。
花にも弱さや醜さはある。
エロゲの美少女だって、そこは同じなのかもしれませんね。
・奏菜ちゃんと音楽の魅力
奏菜ちゃんかわいいよ。
あの邪気の無さ、あの食い気、そしておっぱい。
でも、このゲーム以外のゲームだと埋もれ切ってしまいそうなくらい地味な子ですよね(笑)
タイトル画面に行った時、イントロだけかかる「広い空の下で」。
あのピアノとバイオリン、すごく好きです。
このゲームから溢れる寂寥感が体現されてるようで、すごく心に響きます。
・良くなかったところ
さんざん褒めちぎってきたこの作品の減点要因。
その大きなところは雪花にありました。
先ほどバッドエンドがどうこうって言いましたけど、雛菊編のバッドで雪花が絡むところが効いてくるんです。
雛菊バッドは、雛菊の、あるいは雛菊とのかかわりの中での主人公の失敗によって迎えて欲しかった、という思いがありました。
あと、雪花編グッドバッド両方。
あれはちょっと微妙な気分でやってました。
「一回仲良くしかかった挙句冷たくする雪花」そのものが腹立たしかった。
もう少し、「冷たい態度をとる雪花」にもっと最もらしい理由づけをしてあげて欲しかったです。
おみくじかよ……、とは正直思いました、はい。
グッドのラストはすごく好きなだけに勿体ない。
・総括 ~地味な世界の地味な話
はっきりいって、この作品めっちゃ地味です。
幽霊と幽霊が見えるものという学園というネタはそこそこキャッチーだと思うのですが、
そこで気にされるのが、「幽霊と2人きりだと会話ができない」とかです。
「ヒカルの碁」とかでは綺麗にスルーされるその一面を、あえてきっちり取り扱う。
ましてや、まつりとの付き合いの障害として扱う。
結構、地味だと思うんですが、どうでしょう?(ヒカ碁を引き合いに出すのも変かもしれませんが(笑))
でも、その一件は、幽霊との恋愛の難易度の高さを提示するのに有効だったと思います。
画面内だと見落としがちな「体のあるなし」という問題を、明確にして使う。
この地味さがあったから、人間と幽霊の関係や人物の心の動きや営みを掘り下げることができた。
地味かもしれません。すぐ忘れてしまうものかもしれません。
でも、派手さを追わなかったから描けたものがこのゲームにはあると、僕はそう思うのです。
花畑しかない町での、花とその営みのおはなし。
地味だけど、素朴な味わい溢れる素敵なゲームでした。