ErogameScape -エロゲー批評空間-

tsubame30さんの家族計画の長文感想

ユーザー
tsubame30
ゲーム
家族計画
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
95
参照数
758

一言コメント

家族っていいなぁ。生きるってしんどいなぁ。そんな話です。素晴らしかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「人は一人では生きていけない」「人と関わるのは億劫だ」
『家族計画』は、人間関係における永遠の葛藤を感じさせられる作品です。


「人は一人でも生きていけるけど、それだと生きていくことしかできない」
作品中で司もこう言っています。
人は、人の存在を生きがいにしなければ、日々を戦っていくことが難しいです。
寛は生きがいを、真澄は弱さの補填を家族に求めました。
「誰かのために」が無くても、何かを一人で為していける。
そんな強い人は少数だと思います。

しかし、他者と関わることは億劫です。
ちょっとしたことが軋轢を生み、関係を破綻させます。
しかも、そこまで負荷をかけた上で、
本当に信頼できる存在になれるかどうかなんてわかりません。


この作品に感じたことは、人間関係の距離感の絶妙さです。
寛の一見フレンドリーながら掴ませない振る舞い。
真澄の一方的な信頼。
準の契約論。
青葉の徹底した拒否。
春香の恩に報いる姿勢。
茉莉の遠慮がちな態度。
それぞれの背景ゆえに「人間関係の二項対立」に対する折り合いのつけ方が違います。
絶妙な距離感をセリフで表現した文章力には感服です。

この、「距離感」は、家族計画が始まってからも同様でした。
当然です。家族などとのたまっていても結局のところは他人です。
他人との共同生活なんて、ちょっと考えただけでも相当なストレスがあります。
しかし、他者がいてこそと思うことも、ごくわずかながらあったりするわけで……。



無常の喜び、常に隣り合わせの軋轢と悲劇。
そんな割に合わないものだったとしても、
人は人の中に生きるしかない。
そんなやりとりをみて、腹を抱えて笑いました。
そして本当に心揺さぶられました(特にオムライスでは号泣)。
生きるって本当に難しい。だからこそ、信頼できる人物は本当にありがたい。


このゲームは、「人間関係」という万人共通の永遠のテーマを
コミカルかつシビアに描いた、いまだに色褪せない傑作です。