ErogameScape -エロゲー批評空間-

tracivさんのヘンタイ・プリズンの長文感想

ユーザー
traciv
ゲーム
ヘンタイ・プリズン
ブランド
Qruppo
得点
85
参照数
80

一言コメント

テキスト・ギャグ・演出、いずれも高水準。強引な展開が目に付くが、グランド√は概ね高評価。釘谷の扱い方が勿体なかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シナリオや演出のクオリティが高く、テキストも丁寧に作り込まれている。
下ネタ・パロディ入り交じるキレのあるギャグは間違いなくトップクラス。
しかし、ぬきたしでもそうだったが、一部の展開がご都合主義が過ぎる点が気になった。

問題発生まではある程度論理的な展開が続くが、肝心の問題解決が強引な理屈やファンタジー並のご都合主義で片付けられる場面が多い。
そういった強引な展開がさらっと流されるならまだしも、さも「練り上げたアイデア」かのようにネットリと描写されるため、余計に読むのがキツかった。

例えば、プリズン内の厳しい監視体制を強調している一方で、都合よく主人公たちが動き回れるなど、設定が不自然で一貫していない。
細かい具体例を挙げればキリがないのだが、特に千咲都√妙花√はヒドい。
千咲都√の終盤、「夕顔が部下にパコルを奪われるのを恐れ一人で地下に行く」「暗闇でパニック状態の夕顔に忠誠を誓わせて勝利扱い」「千咲都の右目は暗闇(?)→つまり暗闇な苦手な夕顔は屈服する(?)」「監獄内で流通させたパコルを掌握したので完全に監獄を支配(?)」等、どれも納得できず、こじつけで組み立てた茶番を見せられているように感じた。
妙花√も「カードゲームを監獄内で作って流行らせる(看守もなぜか容認)」「セックスで看守含めあっさり人心掌握」「電子ドラッグで簡単に完全な洗脳」「投げられたマッチ箱を投石で弾く」等、そんなのが許されるならもうなんでもありだろとしか思えず冷めて流し読み。

とはいえ、ご都合主義が酷く目立った個別√が、良くも悪くもどうでもよくなるのが、全√の集大成となるグランド√の存在。
慣れや勢いの良さもあるだろうが、強引さをあまり感じず、前作キャラクターの登場も相まって盛り上がるストーリーだった。
キャラが収まるべきところに収まり、納得感のある大団円で締めくくられるため、読後感が良い。
ただ、前作主人公達や舞台をファンサ的テイスト以上にシナリオに絡めて使うのはちょっとズルい気もする。
ぬきたしプレイ済でなければ感動・理解度は激減するのは間違いない。

また、グランド√では、洗脳されたソフィーヤを仲間に引き入れるために、ノアに足を踏ませ骨折させ、看病させて仲直り・・・という展開があるが、正直あまりにも気味が悪かった。
後遺症の残りかねない怪我をさせるために、わざわざ野球大会を開く計画を立てるのも、ノアがその計画を許容し躊躇なく実行するのも、ノアの歪んだ認識を正さないまま仲直りさせるのも、ソフィーヤが洗脳で心身が弱ったのを利用して看病させるのも、それでソフィーヤがノアを受け入れるようになるのも、全て気持ちが悪い。ただの逆洗脳では?ここは本当に酷かった。

釘谷が最後に救われるという展開も良かったと言えば良かった・・・のだが、
釘谷はシナリオ内で助言はくれたりするものの、あくまで情報や仕入物を中立的に提供するだけ。
主人公を導いて成長させたり、年長者として精神的支柱となったり、シナリオに本格的に介入したりするようなシーンはなく、あくまで敵でも味方でもない、サブキャラの一人という認識しかなかった。
なので、最後の最後で同情を誘う過去を明かされ、第二主人公のような扱いをされても、取ってつけたような印象が拭えない。
これがもし、グランド以外の個別√で自身を犠牲に主人公を助けたり、悲しき過去をちょっとずつ明かしたりして、プレイヤーが同情したり身内と認識するような土壌を築いていれば、感動できたと思うのだが。言うなれば、展開にキャラが追いついていない、誤用の意味での役不足。
ポテンシャルはあっただけに、勿体ない扱い方をしたキャラだったと思う。
あと、保護観察中に悪びれもなく抜け出すのはどうなのかと・・・。冤罪や理不尽な判決を受けた主人公達と違い、一応この人は真っ当な判決、真っ当な仮釈放という扱いだろうに、何ら躊躇なく罪を重ねる真似をしているのが、釘谷という人物に同情・共感しきれない要因だった。

テキストは語彙も豊富で質自体は高いものの、冗長と感じる場面がしばしばあった。
他のゲームが「1 3 5 7 9」のように描写を間引いたり、意図的に省略したりするのに対し、本作は物語の先が予測できる場面でも「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10」とすべて懇切丁寧に描写する。
制作側の意図を誤解無く伝えられるのは良い点だが、テンポが悪く余韻も生まれにくい。
逆転されるのが分かりきってるのに悪役が勝利を確信し主人公側をダラダラと煽るシーンとか。

キャラクターはサブ含めいずれも個性が確立していて魅力があった。
しかしシナリオ的・コメディ的に面白いキャラ、という意味であって、
ヒロイン勢をエロゲヒロインとして好きにはなれなかった。
低頭身&顔パーツが大きい絵柄がイマイチ好みではないことも影響しているかも。
キャラデザの好みの問題であって、イラストが高品質なのは間違いない。ぬきたしから画力が向上し、塗りも綺麗になっていて、一枚絵も迫力がある。

主人公はどの√でも終盤まで好感を持つのが難しい。
「感情理解・感情表現共に乏しく目的のためなら手段を厭わないサイコパス」という、共感が困難なキャラ造形のため、見ていて面白くはあるが好きにはなれない。
ノアもそうだが、ソフィーヤに被害者の恐怖を説かれてもどこ吹く風で全く反省の色を見せないシーンは気分が悪かった。
終盤はある程度丸くなり、グランド√では被害者へ送金したり被害者のための団体を作るものの、当の本人が被害者の心情を想像・理解したことが伝わる描写がなく、本当に反省しているのか疑ってしまうし、それで被害者への精算が出来たという雰囲気なのも、いまいち腑に落ちない。

演出は紙芝居エロゲとしてはトップクラスに凝っている。細かくキャラ絵の移動・拡大をして動きを生み、複数の立ち絵で遠近感を表現し、テキスト送りや表情差分を変える時間を丁寧にズラして会話の"間"を再現している。そういったスクリプトをたまに挟むエロゲはあるが、このゲームはかなりの割合のシーンでこのようなギミックを丁寧に組み込んでいる。


◯総評
多くの場面でご都合主義が目立ち没入感を削いでしまう点は惜しいものの、全体的にクオリティの高い作品。
持ち前のギャグのキレは前作に負けず劣らず。演出やテキストの完成度の高さに加え、グランド√の締め方に納得感が有り読後感が良い。
しかし、突っ込み所や勿体ない点が多く、主人公・ヒロイン含め主要キャラをイマイチ好きになりきれない所もあり、名作扱いされるのは妥当だと思いつつも、イマイチ称賛に徹しきれない作品だった


テキスト90点
CG80点
演出95点
ギャグ100点
キャラ70点
個別√50点
グランド√85点
総合85点