シナリオも設定も丁寧に練られた良作。ただ、気になる所は気になる
近未来SFモノ、サスペンスモノ、トリックモノ、推理モノ等複数の観点から見て高水準。
説得力のある設定、広げた風呂敷、散りばめた伏線が丁寧かつ綺麗にまとめ上げられている。
シナリオもキャラも良く、総じて完成度の高い良作と感じた。名作と言ってもいいと思う。
ただ、致命的ではないが減点要素がいくつかあり、
それらがシュタゲ等の著名な名作ADVと比べてやや評価が落ちる原因かと思う。
・テンポが悪い
散々言われているようだけども回想が多すぎる。
√Bは「回想中に回想が起こる」という構造もあるため仕方ない面はあるが、
中盤終盤に何度も「同じシーン」を「別人の視点」から
「微妙に変化したバージョン」も含めて何十と見せられることになる。
誘導は丁寧なため視点や時系列が転々としてもあまり混乱はしないし、
回想の存在意義ははっきりとしているので、「余計な回想が多い」という感じではないが、
その間、作品上の実時間のシナリオが停止するため、
佳境に入って盛り上がるはずの終盤の展開が遅々として進まず、
かなり中だるみ感がある。
もっと勢いよくクライマックスへ進んでいたら爽快な読後感を得られただろう。
・キャラの過去がワンパターン
悠里・宇喜多以外、どのキャラも「大切な人の死」が背景にある
手っ取り早く説得力を持たせ感情移入できる設定だが
もう少しバリエーションは無かったのか
・オチが曖昧
「Q」や「鹿鳴市」との決着の行方が描かれず、やや疑問符が残る
とはいえストーリーとしてはこれ以上深堀りする意味もなく完結しているのでさほど気にならない
問題なのは恋愛面のオチ
夏彦が誰を選ぶかという着地点が描かれず、
後日談要素が薄いため「恋愛モノ」としての読後感はすっきりしない
「決めた相手がいる」的な文章もある割に相手を明言しないし。
普通に考えたら悠里だろうけど、だとしたらましろが報われなさすぎる
そもそも、この3人がただの友人関係とかならまだしも
「家族」と言うほど互いを理解して愛情を持っている間柄なのだから
グリザイアみたいなハーレムエンドで良いだろと思うのだが。
なぜそういう妙な倫理観だけは頑なに守ろうとするのか。。。
反対に、渡瀬側は明確に風見と結婚するというエンドだけど
それはそれで洵/恵那√が存在しないという不満が残る
シナリオゲーであって恋愛ゲーじゃないと言われればそれまでだけど
ギャルゲー的要素は間違いなくあるのだからこんな中途半端なオチにされると消化不良感
PS3/Vita版は追加エピソードがあるようだが補完されるのだろうか。。
・凪沙の扱い
トゥルーエンドでは何らかの形で生かして良かったのでは・・・。
テロ直前まで生きていた凪沙が結局死ぬことで絶妙にすっきりしない
凪沙が性根から邪悪なキャラならともかく
純粋で優しい女の子が実験で不可抗力的に悪意に染まっただけなので
ただただ可愛そうな子が救いもないまま死んだ
のにトゥルーエンドと言われても微妙にしこりが残る
「情報があれば意識が生まれる」という設定を押していたから
肉体が死んでも意識だけ残って会話できる、みたいなオチにするのかと思ったら普通に死んでた
簡単に生き返ると死が軽くなるというのはあるが
悠里が生きてたというのをやった時点でプレイヤーとしては「そういうのがアリ」という心構えになってるのだから
素直に全員生存で大団円で良かっただろうと
死んでるように思わせる理由はあっても死なす理由は無かっただろう
ご都合茶番と言われるのを危惧したのかもしれないが
「風見から悪意だけを消す」とかは散々無理みたいな雰囲気出していたのになぜか実現させたし
パイプの中なら爆発から生き残れるとか超心研だけでQや鹿鳴市と渡り合えるとか
色々後出しご都合展開をやった時点で今更感
この辺のハッピーエンドになりきれてない中途半端さが読後のカタルシスを妨害している
色々書いたが、「テンポの悪さ」と「オチが微妙にすっきりしない」ことを除けば
よくできたSFモノとしてとても楽しめた
キャラクターも雰囲気も好きな作品だった