看護師の辛さが体験できる社会人百合ゲー
新米看護師となった主人公が看護の難しさに翻弄される中、同僚や患者と恋愛関係を築くゲーム。
本作の特徴は看護の現場が異様なリアリティを持って詳細に描写されていること、そしてバッドエンドが充実(?)していること。
主人公が新米なため、些細なミスから重大なインシデントを度々起こし、その度に上司にド正論で叱られる、という過程が繰り返し描かれる。(一部とんでもないパワハラもあるが)
看護師という仕事の大変さが読むだけで(胃が痛くなるほど)伝わってきて、まるで職業体験をしているような気分になれる。
患者の苦悩や死に対して看護師としてどう向き合うべきか、看護とはどうあるべきか、という、作中の言葉を借りれは"看護観"について深く掘り下げて語られていて、純粋に学問的・哲学的な読み物としての面白さがある。
主人公が仕事についていけず自己嫌悪に浸り涙を流すような悲痛なシーンは多いが、基本的に周りは善人しかいないため、職場の雰囲気が劣悪とか不快な環境というわけではない。外科病棟は邪悪。
各ヒロインにグッド・ノーマル・バッドエンドの3種(キャラによっては+α)が用意されている。
ノーマルといいつつ内容は準バッドエンドなので、実質バッドエンドが2種以上あることになる。
単に恋人関係が崩れてしまうだけのものから、別の女の子に寝取られたり、監禁されて衰弱死するまで飼われたり、肉体を乗っ取られたり、ヒロインが赤ちゃんになったり、百合心中したりするなど、色とりどりの心を抉るエンディングが用意されている。
好きな人は楽しめるだろう。個人的にはあってもなくても良いのだが、バッドのせいでヒロインに対する印象が悪くなり、負の側面が無視できなかった。
肝心のグッドエンドにおける百合要素は、可もなく不可もなく。キスやハグ止まりで物足りないが、非18禁なので致し方なし。ボリュームもやや控えめに感じた。
大体のヒロインは主人公を好印象で見ているので、恋愛が成就するまでの過程もあっさり気味でちょっと物足りない。
また、女性同士の恋愛も当たり前、という世界観なので、「女の子同士なのに・・・」みたいな葛藤が描かれないのが残念だった。
各√のシナリオはそれなりに楽しめた。
基本的には看護師としての平坦な日常の中で各ヒロインとの関係が深まるという形で、物語として劇的に大きな展開はあまりない。
一応どの√も山場はあるのだが、大体は先が読めてしまう(問題解決に成功したらグッド、失敗したらバッド行きと予想がつく)ので、あまり衝撃を受ける場面もない。
とはいえ、どの√のシナリオもそれなりに面白く、恋愛ゲーとしては十分楽しめた。
はづきがヒロインのために消えるシーンや、さゆりのオムレットのくだりなど、泣ける場面はいくつかあるが、認知症のおじいさんが戦争での業を吐露して亡くなった後、詰所で看護師達が悼むシーンは、本筋とは無関係ながら涙が止まらなかった。
自身の生命力の代わりに触れた者を治癒する"癒しの手"という、若干のファンタジー要素も存在しているが、まゆき√以外では殆どその設定は生かされない。
また、幼少時に事故で自分をかばって精神が同居している親友のはづきが、手を胸に当てるおまじないをすることで呼び出せる(かおりと違って優秀なのでピンチな状況を切り抜けられる)という設定もあったが、作中では2、3回しか出番がない。
この辺りをうまく生かせれば色々面白いシーンはできそうだったので、少しもったいなく感じた。
はづきが救われなかったのが残念。
主人公の代わりに犠牲になった超能力者の親友という、ある意味最もヒロインらしいポジションなのに、救いらしい救いがないまま、最終的には(はつみノーマル以外で)消滅してしまう。
精神だけの存在なので扱いにくいのは分かるが、せめてはつみ√かまゆき√で共存していくようなエンディングは欲しかった。
ヒロイン達は可愛いといえば可愛いのだが、どのキャラも一癖二癖三癖あり、バッドエンドで黒い部分が描かれたりもするので、手放しに好きと言えるかと言われると微妙で、あんまり刺さるキャラは居なかった。
どのヒロインも良く分からないタイミングで唐突にキレたりデレたりして情緒が安定してないように見え、イマイチ感情移入もできなかった。
まゆきはビジュアルや口調はだいぶ好みなのだが、中身が45歳と言われると可愛いとも言いにくい・・・。せめて30歳ぐらいなら。。。
やすこは共通の時点の飄々としていながら頼りがいのあるお姉さんキャラは好きだったのだが、個別√で描かれた内面がブラックすぎた。
これだ!というヒロインが居れば80点以上にしたのだが・・・。
一番可愛いと思ったのが主人公のかおりという、恋愛ゲーとしては本末転倒な状態。善性を純粋培養したような女の子で応援したくなる。困った笑顔が良い。
総評
百合ゲーとして抑えるべき所は抑えており、十分に楽しめた。
医療要素と鬱要素という、独特な魅力もある作品。
もったいなさを感じる部分も多く、名作とまでは言えないが、百合好きならやって損はない良作だと思う。