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toto712さんのめいくるッ! ~Welcome to Happy Maid Life!!~の長文感想

ユーザー
toto712
ゲーム
めいくるッ! ~Welcome to Happy Maid Life!!~
ブランド
ASa Project
得点
60
参照数
1328

一言コメント

「めいくるッ!」とはメイドが来るではなく、狂ったメイドという意味?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

数ある5/25発売組の中からあえてB級臭漂うこのゲームを手に取ったのはある理由があります。

美少女ゲームにおけるメイドものには二大派閥があって、一つは凌辱ものですが、この「めいくるッ!」はそちらではなくバカゲーの方。メイド自体が非日常の極致みたいなものですのでまともな設定にしてもバカ風味になりがちですが、このゲームは設定からしてまともでない。
「メイドアカデミー」はともかく「戦闘メイド」がいる?・・・とここまでくると何か似たような設定の漫画があることに気づきませんか?


そう、それは「スーパーメイドちるみさん」です。ドキドキ★ビジュアル4コマ誌を標榜する「まんがタイムきらら」に連載されていたこの漫画は師走冬子の代表作で、ぼくはこの漫画の愛読者なのです。頭のネジが一本外れたキャラが多数登場する狂ったナンセンスメイド漫画でぼくのお気に入り4コマの一つですがこれと同じ匂いを「めいくるッ!」からも感じて購入したというわけです。

実際ぼくの予感は間違っておらず、一般のメイド常識からかなりかけ離れた場所を突き進んでくれます。いわばメイド道から外れた「なんちゃってメイド」の住む世界。ただしそれは序中盤までで個別パートに入ると様相は一変してしまうのですが、このゲームの問題点はまさしくそこにあります。
いや、別に終盤シリアスモードにチャレンジすることが悪いとは言いません。ただこのゲームに関しては無理がありました。というのもそれまでの展開を無視して何の脈略もなくシリアスになってもプレイヤーは付いて来れないということです。
終盤の展開に多少の伏線らしさを感じたのは瑠璃ルートくらいで他のルートは超展開といっても言いすぎでないくらい。真央が病気で倒れるのなら序盤彼女が体が弱いとかの伏線を用意しておかなければいけないし、水恋の妹が突然登場するのもあまりに唐突。リリナの記憶喪失に至っては失笑ものです。というかシリアスの「ちるみさん」なんて読みたくありませんよ。このゲームのシリアスシーンもそのようなものです。もしどうしてもシリアスを入れたいのなら全部するのではなくルートを絞るべきだったでしょう。

さて、どうやらこのゲームの主眼はメイド達でなく幼馴染である依音らしく、それはメイド4人を攻略しないと彼女のルートが解凍しないことを見ても明らかで、いわばメイド達は依音のひざがわりといっていいかもしれません。その依音ルートは物語の集大成といった内容で確かに力が入っています。だからメイド達のルートをとやかく言うのは間違っているのかもしれません。
ただせっかく依音ルートに力を入れるのならもう少し考えても良かったのではないでしょうか?
寄席でもトリが人情噺をかけるなら、前で軽い噺や音曲でつなげるように依音ルートをより良く見せたいならもっとバランスを考えなければいけません。

その依音ルートも実は買っていません。
ネタバレになってしまいますが依音は幼いころ事故で記憶を失くしています。リリナルートで記憶喪失ネタをしておいてトリでも同じネタをすること自体少しライターの神経を疑ってしまうのですが・・・(それでリリナルートを失笑ものと表現した)
それはともかく、彼女がハイテンションなキャラなのも後付けの人格でありいわば偽りのものであることがその際語られます。ぼくが問題にするのはその点で、ならば共通パートにある依音視点のシーンをどう説明するのでしょうか?相変わらずのハイテンションぶりなのですがその時どのような心境だったのでしょうか?偽った人格なのですから演技していることに対する心情とか葛藤とかが必ずあるはずです。それをスルーして最後に偽りの感情だったといわれても納得がいきません。相当なアンフェアといえます。
もしそのようなシナリオにしたいのなら依音視点のシーンはかなり頭を使う必要があります。それが上手く出来ればかなり効果的なのですが、技術を要する相当の難作業といえます。そんなことを考えるより一番楽なのは最初から依音視点のシーンを入れないことです。芸がないことこのうえないのですがアンフェアと謗られるよりよほどマシです。

まあ、色々とけなしてきましたが、このゲームかなりいい所もありました。まずキャラが立っていたこと。陣とブランシェのコンビはいい味を出していましたし、ヒロイン達がナチュラルに邪悪風味を漂わせていたのもプラス材料です。いや邪悪というと表現が悪いですので人間臭いと言い換えましょう。こういった性格のキャラは行き過ぎると嫌味っぽく感じてしまうものですが、このゲームの場合全くそう感じさせなかった。このあたりはライターの持ち味といっていいでしょう。
声についても著名な方がほとんど出演されていなかった割にはまずまずでした。それは演技がどうこうというよりキャラと声質が合っていたという意味で実にいいキャスティングをしたといえるでしょう。ただ異様にレベルの低い方が混じっていたのも事実。その人物が活躍するルートは思わず音声オフにしてしまいました。まあ誰とは言いませんが・・・


総括

ということでキャラ立てに関してはかなり成功していたこのソフト。
超短編とはいえ前人気NO.1の恵理栖シナリオを急遽予約特典に付けるなど、商業初挑戦という環境の中頑張ろうとする姿がこちらに伝わってきて印象は悪くありませんでした。
「良かった点悪かった点は明確に見えているので二作目があれば必ずそのへんは抑えていきます」とメーカーも語っているように次回作は悪い点を大いに改善してもらいたいものです。

二作目があれば・・・というのがあまりに意味深で気になるのですけどね。