ファンディスクというより、真のアナザーエピソード
ファタモルガーナの館のFDであるため、本編のプレイは必須です。
本作のメインエピソードの他に複数の短編が収録されています。
いずれも本編の前後を出来事を掘り下げた補完的なエピソードです。
この手のファンディスクにありがちな悪ノリやふざけはほとんど見られず、大部分が本編同様のシリアスな内容で構成されています。舞台裏はいつも通りです笑
新規の立ち絵はメインキャラと新キャラのものが用意されています。
イベント絵も物語の要所で挟み込まれていて、枚数こそ多くないですが視覚的にプレイヤーを楽しませてくれます。
音楽は数曲新規のものがありましたが、ほとんどが本編の流用で目新しいものはなし。
ジェレンの曲(Dance and stamp and cheer)は彼女の奔放な性格をよく表していて、流れるたびに跳ね回る彼女の姿が浮かんで良かったです。
サブストーリーは3本あります。
“アセント・デリ”は本編でミシェルが心を閉ざすきっかけとなったイメオンとの交流を描く話で、本編のIfの可能性を考えさせられて意表を突かれました。短編ですが良いエピソードでした。
“滅びゆく物語に”はあるキャラクター達の独白を聞く形で進行します。本編描写が少なかったあのキャラがどう考えていたのか、新たに知ることができます。
“AfterHappyEnd”はバカップルのイチャラブデート。
ここだけはシリアスなしのファンディスクっぽい内容です。
ただただイチャラブデートを見せつけられて、ちょっとムカつきました笑。
そして、メインは“A Requiem for Innocence”。
本編の補完的な内容であるため、物語の結末はプレイする前からわかっているのですが、一つ一つの出来事の描写が詳細なため全く退屈はしませんでした。
本編で僅かに記してあっただけの記述からこれほど内容の濃い物語が展開できるのですから、やはりこのライターさんの筆力は本物です。
ヤコポとモルガーナの出会い、ヤコポの献身的な介抱とマリーアやジェレン達との交流によって徐々に人間的感性を取り戻すモルガーナ、娼館襲撃によって壊れた日常と分かれた運命、裏切りによって孤独を深めるヤコポ、そしてモルガーナと再会したときには後戻りできなくなっていたヤコポの背景など、本編の悲劇の原因となる出来事がどのように起こっていったのかが詳細に語られています。
今作をプレイすると本編の印象も変わってくるはずですので、是非プレイしてください。
本編で悲劇を迎える彼らが、娼館で平和に過ごす姿を見ることができてよかったです。
個人的には、塗り薬を塗るヤコポと照れ隠しの嫌味を言うモルガーナの掛け合いが非常に好きですね。
何気ない日常の会話というのはライターの腕が試されるところですが、キャラクターの関係と個性を本当に上手く引き立てていたため、キャラクターへの愛情が日常会話を経るたびに強くなっていったのは自分でもびっくりしました。
なんでああなったんや…ホントに…
他には、出番はちょっとでしたがオディロンも大好き。
ヤコポを老獪な政治力で補佐するだけでなく、領主としての在り方を教え、問題に対して政策を献策するなど、摂政として極めて有能なキャラクターでした。
最期は少し呆気なかった気もしますが、キャラクターの変化や裏切りが多い本作では数少ない登場からヤコポとの良い関係を保ち続けた人物です。
オディロンがいなくなることでヤコポは本当に孤独になってしまうので、ヤコポの変化という意味で重要な位置付けにいたんですねー。
オディロンの献策は現実的で頷ける部分が多々あり、それを考えたライターさんの技量には本当に敬服します。
また、クリア後にオマケがあるのでそちらもお忘れなく。
嬉しいお土産を貰えます。
結論として、ファンディスクとして文句のない仕上がりになっています。
これこそまさに本編のアナザーエピソードであり、必要だった最後の1ピースです。
本編をプレイした方はこの作品まで絶対やるべきです。
最高の作品を提供して下さった製作陣の皆様には心から感謝申し上げます。