【異説】アンチエロゲー、アンチ兄妹恋愛を装ったエロゲー推奨、妹萌え推奨作品
ねえ
教えてあげても良い?
誰にも届かない解釈が
この作品にはあるってこと
1.はじめに
この作品で描かれている多くのものはアンチエロゲー、アンチ兄妹愛です。このことに関して詳細は他の方々が詳しくレビューしてくださっているのでいまさら掘り下げるまでもありません。なので未プレイの方、アンチエロゲーという作品テーマにたどりついていない方はこの感想よりもゲームのプレイ、及び他の感想を読むことをおすすめします。
しかしながら、
「古典が含む原石のようなドラマ技術は趣があるし、最近の流行である全登場人物のタイムテーブルを設定し破綻なくまとめることだけ腐心した末端重視の推理小説は、刺激的な数学問題のようだ。」(『最果てのイマ』引用)
この作品を数学問題に例えた時、アンチエロゲーという解は一見正しい途中式、解に見えて、その実、マイナスの記号をかけ忘れているように私には思えるのです。つまり、たった1つのピースでこの作品のメッセージは真逆のものに変わるのです。
2、欠けた記号
「真相は幸せをもたらさない」(一葉ルート)
これこそが欠けた記号。最後のピース。一見シナリオの中のたった一言。この作品を象徴する一言でもでもあります。では「真相」とはなんのことか。この作品がアンチエロゲー、アンチ兄妹ものとして描かれていることです。多くの感想で見るように、この作品はマージという、現在を変えうる過去の可能性を否定し、正しいことしかしない”アレ”の使者である千尋は一度しかない今を生きることの重要性を説きます。また、遊園地デートの写真に対する周囲の反応、仲間のはずの一葉からの拒否反応(個人的トラウマもあるが)、弟の死に囚われている青井さんですら否定的な感情を示します。そして一貫して妹を拒む主人公。これらが血の繋がっていない義妹にも関わらず兄弟間の恋愛を許さない世界を強く感じさせます。
しかし、おかしくありませんか?アンチ兄妹ものなのに、どのルートでも妹のエロシーンは6つ、ルートヒロインのエロシーンは1つ。物語を動かすのは主人公である恭介なのに、この世界の行く末を決めるのは妹の絵麻。明らかな妹優遇にしか見えません。また、この作品をアンチエロゲーと見てもおかしいことがあります。この作品をプレイして、「やっぱ現実が大事、エロゲーやってる場合じゃない」てなりますか?私はなりません。「なんだこのクソゲー、別ゲーですっきりしよう」「こういうゲームがあるからエロゲーはやめられない」といった感想のほうがよほどありそうです。これはプレイ層まで考えられ、高度に計算されたエロゲー推奨ゲーなのです。
これらの根拠は上のような個人的な疑問(妄想)にとどまりません。一見真ルートの踏み台でしかないサブヒロインの3ルート、そして真相が明らかになる2ルートでも、
「真相は幸せをもたらさない」
が結末で明らかにされているのです。どういうことか個別に見ていきましょう。
桐李ルート
一見ハッピーエンド。これは、恭介と絵麻の関係を黙ったまま、どころか、
「恭介も…初めてだったんでしょ?」
「当たり前だよ」
嘘の上になりたつ幸せです。また、三木村さんの心情、自殺の真相も黙ったまま。真相を明らかにしないからこそ成り立つ砂上の城です。当然ゲーム中描写はなくとも絵麻によって消される世界です。それでも虫食い描写でなくハッピーエンドのまま終わらせる意味が先述の通り、真相を明らかにしていないからです。次に一葉(双葉)を見てみましょう。
一葉ルート
ルート内でキーワードを提供してくれる個人的最重要ルートです。
「真相は幸せをもたらさない」
これがなければパズルは解けなかったと思います。本当にライターはひねくれてます(褒め言葉)。その結末は虫食い描写によるバッドエンドです。
「あたし…離さないでって…言ったよね…?」
一葉の真実を明らかにし、双葉との関係を築き直し、一葉とも再開しさあこれからというところでのバッドエンド。この先の幸福を期待していた人にはおそらく最も印象的なバッドエンドだったのではないかと。いわゆる理不尽バッドエンド。理由は真実を明らかにしたからです。真相は幸せをもたらしません。
青井さんルート
ある意味もっとも現実と空想の対比がわかりやすいエンドです。その結末は弟に続き愛する人(恭介)を喪った青井さんがマージの連続しようで幸福な夢に囚われ続ける寝たきりエンド。わかりやすくまとめましょう。悲惨な現実から逃げて幸福な夢に逃げ込むエンドです。
「幸せの涙は止めどなく流れ落ちる…。
幸せは止めどなくこぼれ落ちる…。
もう、手の届かない何処かへと…。」
普通に考えればバッドエンド。しかし別解釈もありえます。幸せは消えたわけではありません。手の届かない何処か(空想・虚構世界)へとこぼれ落ちるのです。幸せは現実ではなくエロゲーの世界にこそあるのです。
千尋ルート
ヒロインが敵だったという真相。誰が幸せになりますか?誰もなりません。このゲームがアンチエロゲーなら一番に疑問を感じるべきエンドです。”アレ”側であり、我々オタクを刺し続けた千尋さんが幸せにならないエンドはアンチエロゲーとしてありえません。正しく生きること、今しかない現実を真剣に生きることに幸福はないのです。
絵麻ルート
この作品のTRUEをハッピーエンドという人を私は許せません。もちろん個人の解釈もあるでしょうが。兄への気持ちを諦め、温かくて、眩しくて、嬉しくて、そしてちょっと寂しい、たった一つの大切な”本当”を生きるエンド。どこにも”幸せ”なんて言葉はないんですよね。笑うために練習が必要な世界なんですよ。自然に笑えないんですよ。遊園地デートで笑ってた絵麻が。たとえ”本当”の世界でも、真相は幸せをもたらしません。そもそもこのエンドを迎えた時、絵麻が可哀想だとは思いませんでしたか?私は思いました。絵麻が恭介と幸せになる可能性があっても良かったのではないか?正常な感性だと思います。しかし、それは許されません。このゲームは現実に寄せたゲームなのでハッピーエンドが存在してはならないのです。桐李のようなサブヒロインなら見せかけだけでも許されますが、TRUEの絵麻には許されません。
以上、現実側に立って、アンチエロゲーとして描写したこの作品にハッピーエンドはありません。見せかけのハッピーエンドは消え去るのみです。これこそが真のテーマである非現実(エロゲー)推奨である所以です。幸せは非現実にあるのです。
またアンチ兄妹ものも同様に否定されます。この世界での”本当”は兄妹恋愛を否定します。その要素はすでに紹介しました。それ以外にも忘れてはいけない点があります。それは、恭介(主人公)がクズであること。この作品をプレイする上で最もイラつくのが恭介のモノローグ。夜間に女の子を一人で帰すことから始まり、この作品をプレイし続けると恭介の言動に疑問を覚えるプレイヤーは多いことと思われます。狙い通りです。わざと恭介を愚兄として描いていのです。なぜか。妹との恋愛を否定する兄だからです。
絵麻の最大の不幸は兄に恋心をいだいたことではなく、恭介に恋をしたことだと誰かが言いました。また、各ヒロインが恭介に惹かれる理由がわからないとも言われます。そのとおりです。この作品において、「真相は幸せをもたらさない。」だから、妹に恋愛感情を抱かない、普通の感性を持った人間は幸せになってはいけないんです。共感してはいけないんです。我々エロゲーマーは恭介を反面教師とし、女性に誠実に、妹を愛するエロゲーマーとなることで幸せになれるのです。絵麻は攻略ルートの存在しない妹キャラすべての代表と言っても過言ではありません。前のめりに、兄の逃げ場所として身体を差し出し続けても、その気持ちが届くことはない、そんな兄に愛されない妹を誰が愛してやれるのか?それは我々プレイヤーしかいないのです。
以上が【異説】アンチエロゲー、アンチ兄妹恋愛を装ったエロゲー推奨、妹萌え推奨作品
をまとめた私なりの解釈です。今更こんな古い作品で新解釈、誰にも届かないだろうなと思いつつもまとめずにはいられませんでした。自分語りは作品とは関係ないので割愛しますが。
3,以下、個人的に感銘を受けた解釈(参考文献)&妄想
・主人公の視点=プレイヤー視点=子供(手術前)の絵麻の視点。「naicufnoc」さん
七つまでは神のうち。幼少期の手術に生死がかかる絵麻にぴったり。幼少期の絵麻は某プリズマ作品 のようにまさしく神の子(神稚児)だったと考えるならば力の由来に説明もつく。そんな主人公の行動を選択できる神でさえも「人の気持ちはパズルのピースのようには動かせない」。めちゃくちゃ深いなあと妄想。
ついでに絵馬の起源
「馬は古来より神様の乗り物であると考えられてきました。
そのため、歴代の天皇は祈願の際に、生きた馬を神馬(しんめ)として神社に奉納していました 。
しかし平安時代から時折、本物の馬に代わり馬の絵を描いた板が奉納されるようになります。 」(Wiki)
つまり祈願の代償であり神への供物が絵馬。神様はお客様(プレイヤー)、絵麻は生贄(報われないヒロイン)、願いはエロゲー買ってね、だったら面白いなあと妄想。
・アンチエロゲーby「カラス」さん
・構成などにはさほど工夫はないけれどストーリーだけは面白い、というものはわたしの中ではけっこうあるのだが、「何処へ行くの、あの日」は構成や魅せ方などは素晴らしいがストーリーその他はそこまで強く楽しめなかったというめずらしい作品 by「kagla」さん
4、不満点
・SAVEデータシステム。一つのSAVEデータを続けてプレイしなければいけないと気づかないと大変なことになる。なった。
・手術失敗と自殺後世界の違いがわかりづらい。各ヒロイン攻略で追加されるエピソードは自殺後世界なのはわかる。桐李と付き合う世界でも絵麻に囚われている点から自殺後世界と解釈したが、若干うろ覚え。
5,総括
この作品は一見現実の重要性を説いたアンチエロゲーであり、アンチ妹萌えゲーです。
しかし、実際はその逆。シナリオ中の一言、そして各ヒロインのEDを通してこれらを否定する真逆のゲームなのです。真のテーマは「妹萌えの暗部を描き、これを否定することによる妹萌え推進」。また、「エロゲーシステムを通じて可能性世界を否定し現実の大切さを突きつける、ように見せかけた真逆のもの」でもあります。
つまり、いままで通りエロゲーでブヒってれば幸せだってことです。私はこのゲームをそう解釈し、次の作品を楽しみたいと思います。
6、おまけ
この作品のタイトル画面、初期は夕方で始まります。お別れの時間です。TRUEまでクリア後青空が待ってます。ゲームを始めるのがお別れで、ゲームの終わりが始まりです。私は、アンチエロゲーを描いた作品とのお別れを通じて、次のエロゲーを楽しむための始まりという希望を信じたいと思います。