音楽とは、芸術とは、創作とは、人生とは…
瀬戸口作品プレイ4作目。萌えゲーアワード10本1万円セールで購入。
まず自分の感性というか印象を明らかにしておく。CARNIVAL>キラキラ≧MUSICUS>SWANSONG。
プレイを始めると主人公は人生に迷える思春期まっさかり。モノローグが多く哲学的な内容と合っており好印象。反抗期まっさかりで父親の言うことを認めつつも反発したい模様。
収録楽曲は良い曲が多いように思えるが、シナリオ内のストーリーと併せて聴くと文章に負けている気がしないでもない。実際シナリオ中どの場面でどの曲が流れていたか印象に残っておらず、プレイ後にこうして感想をまとめながら聴いていて良い曲だと思う程度。 とはいえ、私自身楽曲に造詣が深いわけでもなく、朝川老人言うところのチューインガムのようにちょっと味わって次に行く程度の人間なので仕方ないのかもしれない。
このため楽曲の出来を馨くんのように減点式に評価できるわけもなく、良い曲も正しく言えば好きな曲でしかない。それでも言うなら「ぐらぐら」、「Be strong」、「ラヴェンドラ」、「はじまりのウタ」、「Calling」あたりが良かったと思う。ちなみに「Calling」が花井さんの遺作なのは他所様の感想で知ったので、花井さんいうところのストーリーは関係ないはず。とはいえ歌詞内容が気に入ってる部分もあるからやはりストーリーなのかも?
イラストはななリンのすめらぎ琥珀さんらしい。だいぶイメージが違うが今作のほうが好みである。とはいえエロシーンは趣味に合わず使えなかった。そもそも瀬戸口作品にエロは期待していなかったが。
シナリオはバンド生活を通して花井さんの音楽観と向き合う馨くんが自分の音楽を模索するものである。ちなみに花井さんの理屈は私も納得させられた。
「ひとの感じ方なんか簡単に左右されるし、そしてその演奏がいいか悪いかなんて、
どうやったってわかりようがない。これが現実だ」
「音楽が与える感動ってのは、受け手の持ってるものと曲が与えるものが一致した
ときだけ発揮される相対的なものなんだ。そんなことは誰でも知ってるのに、
なぜか音楽には理屈をこえた絶対的な価値があると信じている人間は多い。
まるで、見たこともない神を信じるようにね」
「――結局、ストーリーなのさ。」
音楽に絶対的価値があるかどうかはともかく、相対的なものであるというのはまったくその通り。これは音楽だけでなく芸術全般そうだと思われるし、創作自体そういうものではないだろうか。この花井さんの残した呪いにどう向き合っていくかで馨くんの運命は分岐していく。
ちなみに花井さんの幼児の演奏を悲劇のピアニストと偽った演奏は特に感じるところはなかった。最初はたどたどしい演奏だと聞いたままの感想で、病気で身体もろくに動かせないピアニストの演奏だと言われればなるほどと納得し、ただの幼児の演奏だと言われればなるほどと納得する。馨くんのように感情が揺さぶられることはなかったのでいまいち共感できなくて残念だった。
以下プレイ順感想
三日月ルート
「音楽はただの音の振動だよ。音楽の感動はまやかしだ。おれたちミュージシャンの
やっていることなんか全てクソだ」
「…でも、だからなんだって言うんだろうね?」
全体として楽しく読めたもののオチがいまひとつ、といったところか。最後のライブにあわせてEDとスタッフロールはいい終わり方なのかもしれないが、いまいち終わりを実感できなかったというか、最初にやってしまったのが失敗だったというべきか。自分でも何故いまいちと感じたのかよくわかっていない。
ご都合主義と批判される成功の道筋はそこまで気にならなかった。実力があってもヒットするとは限らずくすぶるバンド、コネから生まれたチャンスをモノにしたというストーリーはそれほど違和感なく受け入れられた。ただPTSDを発症して婚約してスタジェネライブを見てという終盤の流れがトントン拍子というか、駆け足のように感じられたような気がする。
花井さんの呪いに関しては「正解なんて関係ないんだからねっ」「もう決めたから」というわけで、音楽に絶対的価値があるかどうか関係なく、自分なりに出した答えで音楽をやっていくだけである。ミカの答えは中盤で風雅が語っていた内容と似たりよったりで、まとめてしまえば音楽=心らしい。
価値観としては今までの作品で描かれていた内容と似ていて、世の中がクソッタレで神や幸福なんて存在しなくても、自分の信じる幸福を信じてロックに生きると通じるものがある気はする。私は瀬戸口作品のそういう主張が好きなのだが、今作はあまり響かなかった。プレイ中にクソッタレな世の中を実感させるシーン期待を下回っていたのかもしれない。
弥子ルート
「そうだよ。きっと、何を選んでもいいんだよ。どうせ正解なんかわからないん
だから。迷いながら手探りで、選んだ道が正解になるように全力を尽くすんだ」
学祭バンドということで年齢も境遇もバラバラ、唯一定時制高校に通っているという点だけで繋がってる仲間たちが力を合わせる青春マシマシなストーリー。普通に面白かったが三日月ルートを先にやったせいでどうしてもボリューム不足に感じられてしまった。CG回収のために覗きをやらせたものの、馨くんのイメージではないかなあ。
花井さんの呪いと直接は向き合わないルート。が、たどり着く答えは三日月ルートとだいたい一緒というのが興味深い。
no title
「わっかんねーよ。難しいこと言うなよ…。だって、一緒にいて楽で、癒やされる
なら、それ以上なにがいるの?おれなんか、その、楽で癒やされる場所って
やつを求めて人生の長い旅を送ってたんだぞ!」
他ルートで馨自身が「そんなのただのクズじゃないですか」と言い捨てるような道筋をたどるルート。
花井さんの呪いを否定するためなのかはわからないが、音楽の絶対的価値を追求するため独りでねちねちと曲作りに没頭するルート。ヒロインを最初見た時弥子かな?と思ったが、名前が「くるしみます」のアナグラムとは気が付かなかった。
他の方々の感想を覗いてみると、花井さんの遺作をどう扱うかがnotitleに分岐するかの重要選択肢のように思われてる方がいるように見られる。が、花井さんの遺作をそうとは公表せず、ストーリーには頼らず、音楽の絶対的価値を信じて、音楽の神を信じても三日月ルートに強制突入させられることもある。
これが瀬戸口さんの想定外でないただの仕様であれば、花井さんの遺作の扱いそのものは道を決める要素の1つでしかないということだろう。一応私の1周目三日月ルートの選択肢を載せておく。
ニア進学のために頑張ってきたけど、
ニアこれも音楽の力なのか…?
ニア両方をやる
ニアそうかもしれない
ニア尾崎さんにバンド活動を含め、夏休みの出来事を話す
ニア先のことはわかりませんが、世の中にはそういう道もあります
ニア確かに、このまま失望させたままにしておくわけにはいきません
ニア出来れば考えたくないですね。そのことは…
ニア誰かを犠牲にすることは出来ない。でも、何かにかける生き方もあるんだ
ニア何も考えていない。(おそらくめぐる)
ニアやる以上は結果を出したい。この世界で認められたい(おそらくミカ)
ニア僕にとってなにか大事なものが見つけられそうな気がするからです
ニアよしとくよ。今は感想を気にしすぎるよりも、
ニアいや、どっちかといえば香坂さんに近いかな
香坂ルート分岐選択肢なしで三日月ルート突入
ニアそりゃ、多くの人に認められれば嬉しいけれど
ニアこれでいい。ステージには等身大の自分を上げるんだ
ニア僕らの新曲として発表する。花井さんが作曲したことは公表しない
以下notitle分岐なしで三日月ルート
めぐるルート
「だって、人間なんか年を取ったらみんな最後は悲惨なもんですよ。自分のことが
自分で出来なくなって、見舞いに来てくれる若い健康な人たちはこの先も生きて
ゆくのに自分はもうすぐ終わりだっていう孤独感があって、いくら名声があったって、
親しい愛する家族がいたって、死ぬ瞬間、まぶたを閉じて真っ暗になったらもう
一人なんです。それは誰だって一緒なんだ」
「――ああ、このバンドを作って良かった。なんだか、客席の人に悪いな。僕が
思うに、いまこの会場で一番ライブを楽しめる席はここなんだ。そんな暗い
ところで座ってないで、みんな楽器を持てばいいのに。そうすればもっと楽しいのに。
そうして僕は最高の時間を過ごした。」
今この瞬間の楽しみが大事なきりぎりすルート。花井さんの呪いはある意味無視。演奏を楽しむことこそが音楽の価値であり、音楽の神だとか相対的評価だとかは気にする意味なしといったところか。そういえばアジア帝国のデブも、
「そもそもな、全てのことには意味がないんだ。だけどなあ、意味がないてことは、
価値がないってことじゃないんだ。なあ馨。
無意味イクォォォル無価値じゃねえんだ!」
と言っていた。
ちなみに今作ではめぐるが一番好きなヒロイン。経済的に保護されて好きなことと睡眠だけを楽しみに生きるとか羨ましすぎる。それだけ好き放題生きられたら孤独に死ぬとしても後悔はしないかなあ。
どうでもいいことだがIV時代のロリめぐちゃんのエロシーンとか欲しかったが無理ですねそうですね。
プレイが終わって他所様の感想を覗いてみるとプレイ中は気づかなかったことや、知らなかったことがいろいろわかって楽しい。その中で朝川老人の起こした詐欺事件はオバイブがCFで集金したのにMUSICUSを作らなかったIFという説は興味深かった。それに朝川老人の破滅は詐欺のせいであって音楽に責任転嫁するのはおかしいというのは盲点だった。
それはそれとしてオバイブのCF。目標額を大きく上回った結果、ユーザー還元ということでミドルプライスになったという説は興味深い。実際そうなら確かに得したのは出資しなかったユーザーになるわけで、ユーザー還元するならフルプライスでも作品の完成度を上げる方が良かったかもしれない。ウインドウの濃度変更ができない、ライブシーンでオート進行になるが曲を聴き終わる前に終わる、演出面が弱いなど、あちこちで見る不満点はだいたいプレイ中に感じたものが多い。せっかく予定以上の金額が集まったのなら素直に作品のクオリティに回せば良かったものを。メーカー自身自分達の作品の価値を信じられていない証明になってしまったのでは?という妄想。
そういった作品外の事情があるとしても楽しめたのは間違いない。プレイしてどれだけ楽しめたかという純粋な評価でCARNIVAL以下、キラキラと同じかそれ以下と厳しめにはなってしまうが、エロゲー全般で見れば充分に良作と言えるだろう。