「役者は良い、至高と信ずるが その筋書きがありきたり。ゆえに面白くなると思うなよ」 プレイ条件:厨ニ適正
非常に賛否の分かれる作品。作中の発言どおり、役者が良ければ面白いと感じる人には勧められる。逆に役者が良くてもストーリーがいまいちだと微妙という人には勧めづらい。なにせ文章がくどく物語自体も長いためプレイ時間も長くなる。自分の感性に合うか考えずに前評判だけで買っては地雷となること間違いなし。
出だしから否定的な意見を述べてしまったが、役者が良いのはまぎれもない事実。敵役にもそれぞれの物語があり、プレイしていれば気に入るキャラの1人や2人はできるはずだ。
個人的には声優の名演も1つの見どころで、ベイと水銀の台詞はしっかり聞きたくなるものだった。ベイは一見バトルジャンキーのチンピラだが、自身の生まれにコンプレックスを抱えており、自身の血を流して他者の血を取り入れることでの変生を渇望としている。また、望んだものを得られないという宿業を抱えており、黒円卓はそれぞれがそれぞれの宿業をメルクリウスに指摘されているわけだが、ベイだけは最後の最期に1人だけ宿業を超えたところも良い。声優の演技も熱を感じられるもので、とにかくベイは素晴らしいというのがこの作品の印象。
そして語り手も認めるところのありきたりな筋書き。何が酷いって敵首領の戦う理由が酷い。黒円卓メンバーが亡くしてしまった大切な人を蘇らせたいや、永遠の命を手にしたいなどの理由で戦う一方、ハイドリヒは全力を出したい。ただそれだけ。
そしてトゥルーでの結末。
「俺達は現実に生きている。良いこともあれば悪いこともあるし、満たされない
夢を抱えて飢えてもいるさ」
「だけど、それが人間だろう?」
「俺達は永遠になれない刹那だ。どれだけ憧れて求めても、
幻想にはなれないんだよ」
「生に真摯であること。ああ、確かに卿の言う通り。
飽いていればいい、飢えていればよいのだ。生きる場所の何を飲み、
何を喰らおうと足りぬ。だがそれでよし。
そう思えぬ生物は、その時点で自壊するしかない」
「そんな生物は、生まれてきたことが過ちなんだ」
最後の最後だから敵首領も改心して円満解決なのかもしれない。しかし改心する余地があるなら身勝手な理由で大量虐殺なんてするのかと疑問に思ってしまう。正直身勝手な理由で戦うなら、最後まで突き抜けてほしかったと思う。
また主人公が戦う理由も日常を取り戻すためであり、日常と非日常の対比を描くことで日常の尊さを説く物語なのだろうが、取り戻した日常を尊いと感じられる結末がなかったように思われる。香純ルートは敵首魁を放置、螢ルートは日常に帰ってすらいない、マリィルートは多くの友人を喪い、玲愛ルートに至っては意味不明。
単に私の読解力が足りないだけかもしれないが、蓮とロートスは別人ではないのか?ロートスとラインハルトの会話にテレジアという名前が出ることもわからないし、玲愛の元に蓮が帰ったというシーンも描かれていない。さらにはマリィは世界に融けて誰もマリィを想うことはないし、誰もマリィを感じないという結末。マリィルートをクリアした後のトゥルーがこれではあまり良い気はしない。正直マリィルートをトゥルーとして最後にプレイすれば良かったとすら思う。
そもそも厨ニバトルを売りとする作品で、非日常を否定して日常は尊いとか説かれても困る。そういったメッセージはもっとわかりにくく隠してくれれば面白くも感じるが、直接的に言われると冷めるだけである。
ヒロインについては全体的に印象が薄い。プレイを通して好感度の上がったヒロインは螢ぐらいのものである。サブキャラで言えばルサルカかわいいよルサルカといったところか。
全体的に文章がくどく読みづらいという意見もよく見る。また、戦闘中に会話が多すぎて冷めるとも。これは語り手がメルクリウスということを考えれば文章がくどいのも仕方がないと思えるし、戦闘中の会話には良い台詞もあるので個人的には気にならなかった。ただ複数箇所での戦闘を同時に進めるシーンでは細かく場面が切り替わるので、熱くなってきたところで切り替わり、いまいちノれてないままラストということが多かった気もする。螢ルートやマリィルートの大隊長戦が特に酷い。
展開として残念な点として、非18禁版にあったらしい三つ巴ルートがないこと。そして、蓮が水銀を直接対決で乗り越えるルートがないこと。玲愛ルートで父を超えることこそ男児の本懐みたいな台詞があったと思うが、それをラインハルト任せにしてしまったことで蓮の主人公としての格が落ちてしまったように感じられた。
一番好きなルートとしては螢ルートを推したい。
「他人と価値観を共有しないと生きていけないような人は――」
「みんな、自分と一緒じゃないと嫌だなんて言う奴は――」
「鏡と――話していればいいんだ!」
「俺の生きてる話の中じゃ、人生主役は俺だからな」
「馬鹿が――この馬鹿女がッ!
一番肝心なところを忘れてんじゃねえッ!
おまえが――」
「おまえがそれを、その目で見て――」
「俺に惚れなきゃ、意味がねえだろッ!」
序盤のメルクリウスや司狼の台詞を踏襲した台詞、蓮が主人公として輝く台詞など、結末以外は文句なしに楽しめた。螢がいい感じにヒロインしてたのも良き。
ただ、螢相手に黒円卓首領にビビってんじゃねえ、俺はやるぞと啖呵切ってた蓮が玲愛ルートでは…と考えると余計に辛い。確かに見たい対戦カードではあるのだが、それをTRUEでやるかという。
なんだかんだと不満点もありながら最後までやってしまった本作。文句なしの名作とは言えないものの、十分に楽しめた良作ではあると思う。正直前評判を真に受けて期待しすぎてしまっていた面もあると思うので、感想としては辛口評価にしておきたい。