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tomosibee3104さんのなつくもゆるるの長文感想

ユーザー
tomosibee3104
ゲーム
なつくもゆるる
ブランド
すみっこソフト
得点
90
参照数
361

一言コメント

「――意思を持った重力が俺だ!」人類皆重力

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ロリに釣られて良かった。ヒロインがロリであることに理由があるというだけでも嬉しい。人類ネオテニー説に進化論の合わせ技はいろんな作品に広まって欲しい。ヒロインをロリで統一した珍しいシナリオゲーということで期待を持ってプレイしたわけだが、期待以上のものを見せてもらった。
生物学や物理学の知識が足りない私でも理解しやすく、面白い授業を受ける感覚で読み進めることができた。下ネタギャグがしつこいぐらいで辟易しなかったわけでもないが、停電に始まり住民失踪、艦砲射撃、携帯の不通、首吊り自殺死体と謎が散りばめられ、主人公の死で1周目が終わる頃には物語の結末に興味を持たずにはいられなかった。謎の答えに不満の声もあるようだが、これは推理モノではなくSFなので、期待ハズレと嘆くよりは、うまく騙されたとその手腕を褒めた方が幸せになれるだろう。おそらくサスペンスの手法を取り入れることで、物語の結末を知ることへの希求を抱かせ、興味と関心を持続させることを目的としたのではないだろうか。
終盤まで主人公の「推」が成長しない点も良かった。3周目で主人公というよりプレイヤーの「推」を試されるぐらいで、主人公の「推」に成長が見られない点に若干の苛つきを覚えていたが、最後にそのおかげでヒロインを救えたのだと判った時にはある種のカタルシスを感じられた。
概ね満足しているのだが、作中で説明をされなかった謎も残っている。作中で諭されたように”推”…と言えるほど立派なものではないので、妄想を垂れ流す。

タイトルの意味
…なつくもゆるる…夏、雲、ゆるる?雲は結局宇宙ヒモだったわけだが、ゆるる?

ゆる【揺る】揺れるようにする。ゆらす。ゆさぶる。

宇宙ヒモのゆらぎ?時間遡行によるループものの示唆?

夏だからってゆるされないADV。何が許されないのだろうか。逆に考えてみる。夏なら許されること?夏のイメージといえば海水浴、花火、肝試し。…肌をさらすこと、火遊び、暗闇の探索、本来慎むべきことが夏では許される。このゲームは夏でも許されないものを扱っているということか?小児性愛?これはないか。

携帯が高所でも通じなかった理由、零佳の正体、スーパーの首吊死体、スマホの「誰だ?」
 多くの謎が説明なしのまま終わるが、この世界自体が主人公の成長のために用意された箱庭だからで片付く。携帯不通も街が隔離されてるのも、そこしか世界がないから。零佳が両親を義理の関係と言ったのも、年齢が見た目通りじゃないと言ったのも、紫穂Aによって造られた存在だから。首吊死体は住民の一斉消失が世界の終わりではないことを証明するためか、危機感を煽るためか何らかの装置。スマホの言葉は自己を確立するための問。すべて主人公を成長させるためのもの。

時計の演出
 真っ暗な空間に白く楕円が広がり中央に時計。目にしか見えず不気味な感じがする。これも飽きさせないためのホラー的な演出なのか。あるいは、ループ物として時計に注目させることで、深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いている的演出をしているのか。

1周目、自殺しないタイプは夜道を怖がらない
 人間は理解できないものを恐れる。そこで夜道が怖くなる理由を考えると、視覚情報が制限されることが挙げられる。自身が周囲の方法を把握できない事実、暗闇に何か潜んでいるのではないかという疑念が恐怖に通じるのだろう。
 自殺しないタイプは言うまでもなくマンイーターを指す。マンイーターは重力を感知できる。視覚によらない情報の把握が可能なのである。そのため夜道を怖がらないのではないか。

2周目、1周目と同じ文章垂れ流し問題
 既存のループ物と同じように、主人公の行動を変えることで未来を変える物語というミスリードを狙ってのものか?

2周目、部長悲鳴問題
 停電翌朝のことである。悲鳴の理由に繋がりそうな台詞を抜きだしてみた。
「わっ、私、部長だよね?崇高な知識を追求する生物部の偉大なる部長だよね?」
「あれれ?朝からみんな揃っちゃったね」
「ふふふっ。これが私の作戦通りだとしたら?」
前提。部長はグラヴィティウォーカーである。
 下2行の台詞に着目。推測。皆を集める必要があった。遠距離知覚に強い部長は仲間以外の重力を感知し皆を集めた?しかしその場合学校に鹿島一人を残して街へ探索に出ることはないだろう。
 最上段の台詞に着目。すなわち、自身の存在に疑問を覚えるようなことが起こった。たとえば、前周の記憶(殺される場面)を知覚した。実際1周目で部長が殺された描写はないが、喜多雲先生の役割的には起こっているはずのことである。それなら悲鳴も一応納得できるかも?

3周目、紫穂と零佳で言ってることに矛盾
「私達の他に地球以外の重力を感じられる人ってどのくらいいるのかな?」
「6人です」「全世界でです」
「私が把握してるのはざっと200人くらいかな~」
25年前に学園設立で24年前から人口減少しているという情報。
市役所で得た情報と零佳の証言を合わせると25年前からマンイーターはいる。しかし作中に登場しているマンイーターは進、紫穂、部長、ユウリ、舜、零佳。以上6名であり、これが紫穂の証言と一致するように思われる。部長が私達の他にという聞き方をしたが、そこは無視されたかテキストミスと考えるしかあるまい。
 一見矛盾しているようにも見えるが、零佳の把握している世界と紫穂Aの答えた全世界は意味合いが違うように思われる。実際にマンイーターが生息した時代には零佳が言っただけの数がいて、町の人口にも影響を与えたのだろう。しかし作中舞台はその年代を再現した箱庭である。おそらく紫穂Aはマンイーターの存続に関係のない、つまり進を含めた進と関わりのある人間6名以外のマンイーターは再現していないということだろう。

4周目、ユウリはマンイーター保護側なのに紫穂を殺そうとしてたのはなぜ?
 紫穂がユウリと同じ重力使いとして暴走する危険があったから?ぐらいしか思いつかない。2周目の紫穂変死事件も重力暴走だろうと思われる。

5周目、ラストバトルの必要性
 普通に必要。あれがなかったら進は重力を真の意味では体得できてない。
「関節を極める、というのはそういうことだったんだな。
 力の流れる方向、重力の流れていく方向を見ろって、そういうことだったんだな。
 目を失ってようやくわかった。
 愚弟で悪かったよ」
「ごめん」
「ありがとう、姉さん」
進の確かな成長を感じられる重要シーンである。

5周目、零佳造ったなら目的に合ったグラヴィティウォーカー造れば?問題
 前提。目的に沿ったグラヴィティウォーカーは自身の重力制御を身に着けていなければならない。しかし、「重力を制御することとは、つまり、確固とした自己を確立することである」(hotpantsさんの感想から引用)。つまり自己を確立したグラヴィティウォーカーが必要なわけだが、自己を確立しているのだから紫穂の思う通りに動くわけもないのである。よって紫穂は進の成長させる方針をとったのではないかと思われる。


以下、ネガティブポイント
・「崩れた世界の点の意味」において、ユウリルートと紫穂ルートが分けられてない。後になってから紫穂ルートを読み直そうと思ったら、ユウリルートをまるごとスキップしないといけないのは不親切に思われる。
・紫穂ルートH2回目。なぜ紫穂Aと紫穂Bを入れ替えたのか。1回目はわかる。紫穂Bにとって目が覚めたらレイプされてるという疑似強姦プレイ(造語)はある意味伏線回収とも言える。しかし2回目も同じことをする必要があったのか。ミステリアスな紫穂Aの方が好きな自分としては最後まで紫穂Aと致すシーンも欲しかった。3回目は最初から最後まで紫穂Bなのだから1シーンぐらい紫穂AのためだけのHがあっても良かったのではなかろうか。
・紫穂に犬コスプレHがない。せっかく犬キャラとしてのキャラ付けをしているのにコスプレHがないとはなにごとか。店舗特典の追加ディスクにあったのかもしれないが。
・グラヴィティウォーカーが新しい宇宙で存続することが確定していない。紫穂の目的が片手落ちになってしまっている感は否めない。

好きなキャラ
ユウリ>姫佳>紫穂>りね

CVみる好きだなあと再確認。