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tomosibee3104さんのハピメアの長文感想

ユーザー
tomosibee3104
ゲーム
ハピメア
ブランド
Purple software
得点
90
参照数
140

一言コメント

「夢かまことか どちらを望む」「これからどうしたいかは自分で選べって(ライターが)言ってました」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

パープルの新作ぅ~(嘘)楽しみだ~(過去作リメイクを新作とは認めない)

というわけで某アニメの影響と季節も冬なので今更のプレイ。正直絵柄に癖を感じて避けていたところはあるが、慣れれば全然問題ないしむしろ可愛いと思えるようになった。懐事情から旧作版を購入したが、思った以上に気に入ったのでリメイク版も購入予定。結果的に高くつくが、旧版の中古はとても安かったのでまあよいだろう。自分の選択には後悔しないようにしたい。

作品分類としては雰囲気シナリオゲー?夢と現実の入り交じる世界観を楽しむ雰囲気ゲーでもあるし、誤字や誤用が目立ってシナリオゲーと認めたくないからシナリオゲーっぽいゲームでもある。でも作品通してライターの主張みたいなものは感じられるしシナリオゲーといえばそうなのかもしれない。



※以下ネタバレあり自己解釈という名の妄想



本作は夢と現実が入り混じる中でそれぞれを対比している。シナリオの流れとしても夢を肯定する舞亜とそれを否定する主人公という構図で進む。個別の有栖と舞亜以外のルートでは夢に沈むことを否定し、目を覚ませと繰り返し訴えかける。
有栖ルートも夢から覚める物語ではあるのだが、実際には居ないヒロインを救うため、舞亜を割り切らなければ他の女性を愛せなかったはずが夢の中限定でも共存を受け入れ、今まで否定してきた舞亜のやり方を自らが行う。全部夢オチでした展開とあわせて壮大なちゃぶ台がえしに感じた人もいることだろう。

また、3話から顕著になる夢の否定はエロゲーのアンチテーゼを思わせる。

「泣いても呪っても諦めても、現実は変わらないし過去も変えられないし、
自分も自分のまま変わらない。そんなの当たり前の事じゃない?」
「夢は、優しくて幸せになります。だけど、それが優しくて幸せなのは本人だけです」

「人に頼らず、無関心で居て結局甘い夢に負けて、それが自業自得以外の何だって言うの?」

「現実に絶望しても、夢に逃げても、何も代わりはしないんだよ!それどころか、
現実なんてのはどんどん悪くなるよ!」
「当たり前だ!逃げてる間自分で良く出来ないんだからな!」

「言ったままの意味よ。現実が辛いから夢に引きこもります―、って。単なる負け犬じゃない」

現実逃避が好きでエロゲやってる人間には耳に痛い言葉の数々である。
さては(エロゲー)アンチだなオメー………そんな風に考えていた時期が俺にもありました。

「いってみれば、鳥海という観客に対する、主人公。」
「だから、あたしはボクだけど…ボクは、あたしじゃない」

プレイヤーという観客に対する、主人公。だから主人公はプレイヤーだけど、プレイヤーは主人公じゃない。
よって咲は偽妹だの舞亜は実妹だの議論したところでどちらもプレイヤーの妹ではない(当たり前体操)。
むしろ咲は透と血縁になく家族ですらない他人だからこそ、プレイヤーとエロゲ妹ヒロインの関係を正しく反映してる真の妹ヒロインと言えるかもしれない。厳密には咲は妹ではないが、間違いなく妹ヒロインではある。というより妹ヒロインという概念を表現したのが咲?(脱線)
有栖を主人公としたとき有子がプレイヤーの役割になるのがびっくり。そりゃあ有子は攻略できないわけだ(FDではエロシーンあるらしいが)

「せめて夢で自由になりたい、その時間を楽しみたいと思って何がいけない!」
「それは悪く無いさ。俺が気にくわないのはそこじゃない」
「そのまま、夢に逃げて死んでも良いって思ってる事だ!」
「俺が、一緒に居てやる。出来る事なら何でもする。だから、しっかり生きてくれよ」

空想に逃げエロゲーを楽しむのは悪くない。だけど現実もちゃんと生きましょうということ。

「目の前にあるものが現実よ。そういう意味じゃ夢だって現実の一部だわ」

夢を散々否定するようなこと言ってきたけど、夢か現実の一択ではない。夢も現実の一部。
結局何が言いたかったのか。

「不幸も幸せも、苦労も泣いたのも辛いのも楽しいのも、全部俺達のもんなんだ、
お前が用意してくれるもんじゃないんだ!」

「ーー夢に逃げたって良いこと何て全部用意されちゃってるんだ。そんなの、俺はいらない」
「…じゃあ、どうするの?」
「今を楽しむ。どうやっても、逃げないで自分で楽しむ。
失敗しようがなんだろうが、自分の責任で。そうじゃなきゃ意味が無いから」

「ううん、そんな事無い。現実と変わらないって言うけど、現実は変わる事がある」
「だけど、例え誰かの手のひらの上だったとしても、夢は幸せのままだよ」
「その手のひらを自分で選べるなら、それでもいいのかなと思いますけど」

自分で選びましょうということ。どう生きるのかは自分次第。

「どうして、あたしみたいな…本物じゃない、偽物を好きだなんて言うの?実際には、居ないんだよ…」
「有栖が本当は存在しない。それは分って居てもーー。」

「好きだって思ったんだから仕方無いだろ!」

「お兄ちゃんは、とっくに戻れなくなってるの。なのに、まだ帰れない所の心配をするの?」

実在しないエロゲヒロインを、本当は存在しないとわかっていても、それでも好きだから仕方無いと割り切る私はとっくに手遅れ。そんな自分には舞亜EDが締めに相応しい。自分で選んで納得してるからそれでよい。
そもそもOP・EDともに舞亜ルート(透→舞亜)を強く連想させるし、メーカーとしては夢に沈める気まんまんなのでは?
※EDは逆かもしれないが、夢の中でしか存在できない舞亜を鳥籠の鳥(バラ色の檻のカナリア)と表現していると解釈した。有栖も夢の中にしか居ないがバラ色で判別。
追記:やっぱりEDは舞亜→透かも。夢(舞亜)に囚われた透=歌を忘れたカナリア、バラ色の檻=舞亜の方がしっくりくる。そう考えるとカナリアが歌を思い出すように夢に囚われた透もいつかは…という希望もなくはない?



有栖ルート最後のオッドアイ
ありえないから夢、カラコンつけた(or外した)現実。いろいろと想像はできるが、
「がんばろうって、こうしたいって思う鳥海は、有栖になるんだ!」
現実へと踏み出した有子に有栖を見出した、透の主観だと解釈するのが綺麗にまとまるかなと。
そもそも
「顔立ちも、髪の色も。俺の記憶にある限り目の色も同じ鳥海と有栖。」
とあった。透の記憶違いかと思ったが、単に透にはそう見えていた、という可能性もある。

夢オチについて
公式ジャンルが最初から「これは甘くて幸せな悪い夢のお話」って言ってるから妥当。エロゲー自体プレイヤーの見る夢みたいなもの。夢=空想(非現実)≒エロゲー。盲目白痴のお客様はエロゲーメーカーの供ずる夢を楽しむものだ。
TRUEが他ヒロインルートを夢オチ扱いしてることについても、全員肉体的には童貞処女だし、本命の有栖は存在しない。有子以外全員と愛し合った記憶が透にはあって、これからどうなるかは透次第。だから一概に有栖以外捨てヒロインとは言えない。

現実改変について
してない。変わったのは有子の記憶だけ。透が「現実は辛い」って言った事実は消えない、けど夢を通して有子にそれは記憶違いだ、ずっと支えてきた誰かがいたかもしれないと誤認させただけ。洗脳とか催眠の方がジャンルとしては近いかも。ある意味現実改変より酷い?
「『だってその方が間違い無く良いと思ったんだ』もの」
それなら仕方ない。

モチーフについて
言うまでもなく不思議の国のアリス、ピーターパン、いばら姫。
有栖と弥生で配役被りの疑惑があるが、おそらく配役被りはありで正解。

咲:いばら姫
景子:ピーターパン
弥生:不思議の国のアリス

個別のモチーフはそれぞれわかりやすい。そして有栖は3種混合。夢見がちなピーターパンこと有子は眠り姫になる道を選び(景子個別)、透はそれを阻止するため有栖を追って夢の世界を次々進み(弥生個別)、道中で他ヒロイン(良い魔女)から祝福を受け(咲個別)、最後は透のキスで有子は目を覚ます。なんで有栖TRUEは3人クリアまでロックにしなかったのか理解に苦しむ構成。
ともあれ、有栖個別は3人の個別を包括しているので役割が被る部分も当然ある。逃げる弥生(白ウサギ)を追う展開はそのまま有栖にも通ずる。よって役割被りはありと考えたほうがよい。



弥生個別終盤での主人公の価値観は現実的というか悲観的というか、それでいて前向きのような。クソッタレな世界をロックに生き抜く瀬戸口シナリオをなんとなく思い出して、とても自分好みだった。
作品自体、エロゲーをしても現実で何が変わるわけでなく逃避にしかならないと突きつけながらも、エロゲーを通してプレイヤーの内面に影響を与えることは出来るという、メーカーとしての創作論のような熱を感じられてよかった。この作品の裏テーマはエロゲーに違いない(妄想)
なんでもありなら夢でなく仮想現実や異世界転生でもいいみたいな意見も見かけたが、あくまで現実と真反対の位置に夢を置いてるからこそ成り立つ作品だったのではないかと思われる。

唯一の不満は舞亜のエロシーンが少ないこと。FDで補完されるものの数的には他ヒロインも同数以上増えるから結局冷遇は変わらないのでは?メリバは全然いいけどエロシーン数での冷遇は許されない。高原さんエロシーンいらないから舞亜増やして。サブキャラ入れるなら朝日とヤラせて。

余談
ところで弥生がトールと言ったり透と言ったり表記ブレるのはシナリオ上の意味あったのだろうか…?舞亜の『  』は咲とのオートデモで『彼』になるあたり何かしら意味ありそうだが。
咲ルートの何か物足りない弥生も入れ替わりを疑ったがよくわからなかった。学校でHした咲も舞亜のはずだけど、咲のエロ4でツッコミなしでわりと混乱した。
それでも十分楽しめたから細かいことはいいやーと思えるぐらいには良作だった。