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tomosibee3104さんの死神の接吻は別離の味の長文感想

ユーザー
tomosibee3104
ゲーム
死神の接吻は別離の味
ブランド
ALcotシトラス
得点
85
参照数
136

一言コメント

半死人のような状態だから死神が見えているのだろう…と、まんまと(勝手に)ミスリードさせられた。エピローグの解釈は諸説あるが、他人の意見を見たり考察する前に主題歌の歌詞を読むことをお勧めしたい。以下ネタバレ長文。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

DMM500円セールで購入。もしこれから買おうという人がいるならセール待ちをオススメ。
イメージソングのDistant Promiseが格好よくてプレイ前から知っていたのだが、まさかの本編登場なし。歌詞が主人公の決意をよく表していてとてもエモいが…オチ的に合わないからしょうがない…のか?
システムとしては非アクティブ時音声停止が不満。他の作業と並列でやると非アクティブの間音声は消されてて、ゲームに戻ると離れていた時間分の音声がカットされてる状態なのは地味にストレスだった。

さて本編。選択肢は一つだけで雫とほのか攻略で琥珀ルートがアンロックされる仕様。
以下プレイ順。



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半死人のような状態だから死神が見えているのだろう…と、まんまとミスリードさせられた。

「…あなたには私の姿が見えるの?」
「そう。あなたも、もうじき死ぬのねーー」

大切な幼なじみを喪って以来いつ死んでもいいという気持ちで生きてきた陰のあるイケメン誠くん。最低限取り繕うぐらいの社会性はあるが妹曰く「目が死んでる」。でもイケメンだからモテる。

「ーーようやくこれで日和のそばに逝ける。」
「今の生活に未練はない。」
死神を前に安堵すらする主人公。

「僕は今日も、自分を必要としてくれる人たちによって生かされている。」
それでも周囲のため、死んだように生き続けている。これら描写で死神が見える理由も予想がつく…
そんな風に思っていた時期が俺にもありました。まんまと騙されました。



雫ルート
「明日が必ずくるとは限らない。」
「死神が見えるようになるのって、本当はいいことなんじゃないかって…」
「だって、自分が死ぬってわかったら、たくさんやり残したことに気づけるから…」
本作メインテーマにも通じる死生観。今を悔いなく生きるということ。

「でも、なぜなんだろう。 運命が変わるようなことはなにもしていない。
ただ、雫の問いに答えただけだ。」
死とは運命でなく生きる意志を失くすこと?とこの時は考えた。誠はいつ死んでもいいと思ってる半死人だし、雫もそんな兄を理解した上で「お兄ちゃんが死んじゃったら、私も生きてる理由がなくなるから」。
だから死んだら雫と一緒にいられなくなる、「雫と一緒に生きる」と心から言えたことで死の意志(運命)から解放され死神が見えなくなった。誠に死ぬ意志(運命)がなくなれば連動して雫も解放される。

そう解釈したが、誠に死神が見える理由でミスリード食らってるのは完全に予想外だった。

ともあれ、ミスリードですら読解力を前提とする読み手を選ぶ結末とは思うが、ご都合主義とは感じなかった。むしろAsterの『二つ目の空』的な死生観好きなので3ルート中最もしっくりくる結末だった。

余談。
「幸せにやりたい。」
おそらく「幸せにしてやりたい。」の脱字なんだろうけど本編誠のセックスモンスターぶりもあってちょっと笑った。
雫は名言(迷言)製造機だしキャラ評価も高め。



ほのかルート
「日和に伝えようと思ってね」
「幸せにしたい人ができたって」
「代わりになんてならないよ。なる必要もない」
「僕は君を好きになった。日和の代わりになる人が欲しかったわけじゃない」
これが誠の本心ならなぜ誠は死神が見えるままなのか。本心ではないのか、それとも雫ルートでの考察が間違っていたのか…。

「誰かの未来を守るために、僕には死神が見えていたんじゃないだろうか。」
「そう思わずにはいられなかった。」
熱くなってるようで、死神が見えているということは死ぬ意志がまだあるんじゃないか?そんな疑いを持っていたが…。

「だったら、僕の命を…魂をかわりに持っていってくれ!」
美しきかな自己犠牲。これが雫ルートなら共倒れ。しかしそうはならない。誠はほのかを助けるため自分の死を望んだ、が何も起こらない。

「わたしは…誠くんのことをいっぱい愛してあげられたかな?」
「『あたしは…お兄ちゃんのことをいっぱい愛してあげられましたか?』」
死の運命を変えたのはほのかの言葉。

「彼女と出会い、僕は『生きたい』と思うようになった。 だからだろうか?」
「僕の目には、もう死神は映らない。」
雫ルートではそう思った。しかし、ほのかルートではもっと早いタイミングで見えなくなるはずだ。

ここで確信した。誠が死神を見える理由は死を望んでいたからではない、もっと別にある。

それはそれとして、親友が兄を喪って悲しんでいるのに、親友が振られた想い人と恋仲になって、親友兄の死んだ事件現場で1時間もイチャイチャチュッチュ…。
誠も誠で幼なじみを水死させた(と本人は思ってる)し地震で家屋倒壊のリスクは考えているのに、彼女を死の運命から助けるため向かう先が海…?津波は怖くないのだろうか。
暴走した凜ちゃんがあっさり改心しちゃうのはさすがに…この結末に関してはご都合主義と言われても否定できないと思われる。



琥珀ルート
みんな知ってた琥珀=日和。が、もう一つ隠されていた真実。

「以前、ここでひとりの少年が死んだ」
「少年の魂を現世にとどめる代償として…」
もともと死んでいたのは誠の方だった。その魂を回収しにきた十六夜と交渉をした日和は身代わりとして死神になった。日和に死神が見えたのは雫と同じような理由だろう。誠が死んだのなら自分も死ぬという。
そうして誠は日和の魂で蘇る、が日和も死神見習いとして存在する。そうして理解できた。

誠に死神が見えるのは日和から預かった仮初の生命だから。
誠に死神が見えなくなったのは日和の未練がなくなって、日和が完全に死神琥珀となったから。

ほのかルートは急に目の前から消えるわけでもなくわかりづらい。最後に死神を見たのは琥珀。
ほのかのためなら自分の命ですら捧げると言ったのが最後。
誠が日和の死を乗り越え大切な人を得たのを見届けて、日和の未練は消える。
実際に死神が見えなくなったのは砂浜での宣言時か、琥珀と別れた直後にそうだったのか…どちらにせよそういうことなのだろう。
雫ルートはもっとわかりやすい。雫と一緒に生きるため死なないことを宣言したことで、目の前から死神の鎌は消えていく。

誠の生きる意志ではなく、日和の未練が死神の見える/見えないの原因だったのだ。

これは雫ルートからやったら読み違えるけど、ほのかルートからだと
「彼女と出会い、僕は『生きたい』と思うようになった。 だからだろうか?」
程度の描写だし、そこまでミスリード狙ってないかもしれないけど、勝手に引っかかってしまった(笑)。

さて結末。

「…夢を見てたんだ」
「それとも、夢じゃなかったのかな」
「僕はひーちゃんのことを誰よりも」
夢オチ、死後の世界(夢)、別の世界線(シュタゲ的β世界線解釈)、時間遡行(リセット)。
いろいろ考えた。日和は人間として生きることを選び、誠は死んだという解釈も他者様感想で拝見した。

ここで主題歌歌詞を読んでほしい。

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夢が美しく 花を咲かせる
それは 過去からの約束
揺れる瞳見つめながら
あの言葉を
呟いたあなたが
幻のように
掻き消えてしまう前に
わたしは誓おう 永遠(とこしえ)の愛
「ふたりで」「ふたりで」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

見た通りエピローグの内容である。つまりエピローグは「夢」である。
ただ夢は現実の対比としての意味合い以外に、将来の夢のような理想・目標といった意味合いもある。

前者であれば死後の世界のような解釈となる(誠は死に、日和も人間として生きることを拒んで誠とともに導かれる。「ふたりで」デッドエンド)。
後者であれば別の世界線だろうか?α世界線の誠と日和は死に、β世界線へ導かれ「ふたりで」生きていく。夢オチや時間回帰という解釈は作品テーマ的に受け入れがたいしやってはいけないと思う。

「たいせつな人に遺したいものはありますか?」
=「明日どうなるかわからないから、伝えたいことは今日言おう。」
こういう話のはずが、今までの話(明日)は夢でした、なかったことにしました、ではあまりに締まらない。

また、この作品の結末はあくまで「ふたりで」である。EDでも二つの魂が導かれていることを思い出して欲しい。それを考えれば誠が死んで日和は人間として生きるという解釈にもならない。

「夢」の解釈についてはどちらが正解とも言い切れない。
ただ、やり直しの機会があるような結末は作品テーマにそぐわないと思われるため、あくまでエピローグの内容は死後の世界、非現実としての夢と解釈するほうが好ましい。
つまりハッピーエンドではなく、「ふたりで」死んで当人たちだけが満足するメリーバッドエンド。ご都合主義なんてとんでもない。



余談 この作品死神と接吻してなくね?

最後の日和との接吻、あの時死神として接吻していたら誠が死神になってしまう。だから十六夜は賭けに負けた慈悲として、共に人間としていられる「刹那」を与えた。
…『死神の接吻は別離の味』。だから「ふたりで」いさせるため死神と接吻させません?アホ?
そんな風に考えていた時期が(略

他者様の感想を漁っていると素敵な解釈を見つけた。(tokoyamisさん)
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日和が最後にしたキスは人間と人間のキスなのですから。でも自分はこう思う。
死神が人間を在るべき場所に送るという行為は、
『死を受け入れ、その人間に別れを行う』という事と同義であるという事。
日和の『死を受け入れ、別れを行う』最後のキスは
まぎれもなく『死神の接吻』だったと言えるでしょう。
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天才か?エモすぎて死んだ。琥珀さん接吻してください。

総評
短いながらもわかりやすいテーマ、考察しがいのある結末。
エロも全員使えた。地味に全員ヨスガ声優でちょっと笑った。
500円作品とは思えないほどに楽しめた。満足。
ただ成長後日和エロシーン…とか思っちゃったから琥珀と日和の同一性(連続性?)が薄いとか、
別人みたい…て意見も否定はできない。