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tomatokan2ndさんの恋愛、はじめましての長文感想

ユーザー
tomatokan2nd
ゲーム
恋愛、はじめまして
ブランド
ASa Project
得点
83
参照数
399

一言コメント

これまでの作品に比べてぶっ飛んだ印象はないが、これまでのアサプロ作品を踏襲する総合力の高い作品。各ヒロイン特有のスパイスを味わいながら、キャラの可愛さを素直に受け止め、軽快な会話劇を楽しく読むのが吉。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

アサプロ作品では珍しく主人公が陰キャと明言され、成り上がりの恋愛がコンセプトでした。アサプロの作風的に陰キャ主人公は合うのか?と心配していましたが杞憂でした。

共通
主人公の成長譚ということでアサプロにしてはエンジンかかるのは遅かった印象。それでもヒロインが登場していく毎に勢いが増してきていつもの楽しいアサプロになっていました。主人公も最初は挙動不審でしたが、ちょっと仲良くなるとうざくなったり、狂人じみた一面を見せてくれたりしたので良かったです。

恋丸
狂気のワンコ系ヒロイン
今回の狂ってる枠、序盤、中盤、終盤すべて狂気に満ち満ちていて面白かった。主人公、恋丸、さっちゃんがボケとツッコミをローテーションする会話劇で中身は何もないけど勢いだけで笑わせてくれた。ベストシーンは恋丸の成長した姿と幸せの形を描写しながら狂人性がこんにちはしているエピローグ。一枚絵出た瞬間に爆笑したし、ありえない状況なのに綺麗にまとめられているしで、謎に拍手してしまった。
恋丸√はさっちゃんのキャラ付けも秀逸だった。恋丸をツッコミに追いやるそのパワーは狂人が揃うアサプロの中でも上位に食い込む逸材。さっちゃんがいたことで会話劇のテンポの向上とマンネリ化が防げていたと思う。この√のMVP。さっちゃんを攻略できなかったことだけは非常に残念。それでも欠点はそれぐらいで頭空っぽにして読めるアサプロらしい楽しい√でした。

姫乃先輩
チョロさMAXのゲーマー先輩
ただただかわいい枠。主人公と同じオタクであり、人間関係構築に若干苦労しているタイプ。キャラ設定が秀逸であり、オタクっぽい難儀な性格がすべて可愛いに昇華されていて良かった。アサプロ君はこういう残念な年上キャラを可愛く見せるのが本当にうまい。
シナリオというか恋愛模様は若干駆け足気味ではあったけど、オフ会を通して急接近して、すぐにいい感じの雰囲気となり、ゲーム内で告白という流れはネトゲにこもり、友人関係が希薄な彼らの背景を考えれば説得力の高いものではあった。
物語は短かったものの、姫乃先輩のコロコロ変わる表情や面倒くさい仕草を十分に摂取できたので非常に満足感の高い√だった。


いつもマイペースなクラスの人気者
今作のチャレンジ枠。今作から起用されているうなさか氏が原画を務めており、絵柄が全く異なるので大丈夫かなと思っていましたが、キャラ、シナリオの両面で特別な存在だと強調されており、違和感なく受け入れられました。
シナリオはアサプロとしては珍しく真っ当な恋愛譚。きっかけは何気ないものだけど、会うたびに少しずつ距離が近づいていき、最後は好きという感情があふれ出して告白しちゃうという、なんとも学生恋愛としてリアリティのあるもの。告白シーンは今作屈指の名シーンで後方腕組おじさんがそこにいました。また、付き合った後も二人の関係性がほとんど変わらずにいたというのもかなりの評価点。紫に翻弄されながら笑って過ごす、そんな青春を一度は体験してみたかったなと血の涙を流しました。
かなりアサプロとしては珍しいお話でしたが、楽しい会話劇は健在できれいにまとまっているので違和感なく読め、今作のいいスパイスになっていたかなと思います。
また、紫に関しては天使ちゃん√でもいい役をしているのでそこもかなりの評価点。今作で一番強いキャラだったと思います。

天使ちゃん
天界から主人公を救うために現れた本物の天使!ではなく、青春に敗れ、就活も上手くいかず、主人公の青春煽りをすることで青春を取り戻そうとする年増コスプレ女。いやまとめるとほんとにキャラ濃いな…これに居候と母校不法侵入までついてくるからさらにやばい。
天使ちゃんの回想は解像度が高く、現状の自分にかさなる部分が多かったので結構なダメージを受けた。天使ちゃんは主人公の青春が花開きそうになったとき、逃げていったけど、すごく共感した。そのあと、連れ戻した主人公は非常に主人公してたし、もう物語冒頭の弱弱しい主人公ではなくなったんだなと実感できた。そのあとは二人で青春を謳歌してバカになっていくのはアサプロお決まりの流れ。青春モンスターを卒業出来て良かったねと祝福したい。私は逆に青春モンスターになりました…

その他登場人物
今作も色物ぞろいのがやというイメージ。若干物足りなさを感じるがそれは前作のコイバナ恋愛が異常だからだと思う。天使&紫√では友人と協力しながら青春を謳歌しており、主人公とヒロインだけではない本当の意味での青春を描けていたと思う。

主人公
冒頭でも述べた通り、陰キャということで心配してたが、蓋を開けてみればいつもの主人公で楽しい会話劇とたまに狂気性を帯びた言動を提供してくれた。文句なし。

エロ
各キャラに則したHシーン(野外や首輪、コスプレ等)はいくつかあったが、基本的には普通の内容。長さはちょうどよく、テキストや声優の演技もクオリティ高いので絵柄が好みであれば、実用性はある。さっちゃんのシーンがなかったことだけは許してない。

システム
最新の使いやすいUI。欲しい機能はすべてそろっている。強いて言うなら、バックログ画面でお気に入りボイス登録したいくらい。

全体
これまでの作品に比べて√格差はかなり改善されたように感じる。どの√も違う方向性で勝負しようという意思を感じた。たぶん人気投票を行ったら、いい感じに票が分散すると思う。それでもキャラを愛でつつ、笑って楽しめるというアサプロの根底は破壊されてなかったのが好印象。アサプロのファンで特定の√は全くだめだったという人はほとんどいないと思う。
また、本作はアサプロの過去作の良い所を少しずつ抽出してきた印象がある。いつもの楽しい会話劇はもちろん、シナリオの狂気性や青春への渇望、ラブコメとしての心情の揺れなどが全部詰まっていた。アサプロ特有の尖りはマイルドだったものの、総合的には満足感の高い作品だった。
最後に発売直後に話題になっていた尺の問題。若干短いかなと思いつつもシナリオは綺麗にまとまっているため文句があるかと問われれば、「ない」と断言できる分量ではあった。(プレイ日数1週間強、プレイ時間13時間程度)

まとめ
これまでの作品に比べてぶっ飛んだ印象はないが、これまでのアサプロ作品を踏襲する総合力の高い作品。各ヒロイン特有のスパイスを味わいながら、キャラの可愛さと軽快な会話劇を楽しく読むのが吉。