メインヒロイン・トコが取り上げられがちだが、個人的には主人公がサラリーマンな点が好感触。年の差というメジャーな恋愛問題に人情話を組み込み、アットホームな雰囲気に仕上げる様は正に丸戸マジック。多少取っ付き難いかも知れないが手放しでお勧めしたいハートフルコメディの傑作。
私はいつも疑問に思う。何故こうもエロゲは学園モノばっかりなのだと。
アダルトゲームなのだからプレイヤーは社会人が多い。
ならばサラリーマンを主人公にしたって良いではないか?
まあライターがそもそもリーマンの苦労を理解していないとか、エロゲでまで上司に怒られて頭を下げるのは嫌だとか、そもそもサラリーマンを主人公にして売れたゲームが少ないとか・・・。主だった理由はそんな所だろうが(多分最後の奴が一番濃厚?)
そんな現状で出されたのが本作。
ライターはロミオ氏、きのこ氏と並び、賛辞すれば「○○厨」と揶揄されるほど高い評価を受けている丸戸氏。
魅力的な脇役で物語に深みを持たせ、明朗な思考の主人公とその思考をフルに生かした軽快なテキスト。そしてアットホームな雰囲気にリアルに重い設定を忍ばるシナリオバランス。まさにこの現状を打破するのにこれ以上ない選択だ。
ただこの作品の肝は「メインヒロインは中○生」であり、「年の差」を出すための設定として主人公がサラリーマンになったのだろうと予想している。
その辺りは他の方が十二分に語っているし、トコの必死に背伸びする姿、真正面から主人公・理や世間の壁にぶつかって行く様はプレイすれば嫌というほど実感させられる。
文字通り全身全霊で理を好きになり、愛そうとする姿は見れば年の差なんて小さな問題なのだと思わずにはいられない。
何故私はサラリーマンの主人公を求めるのか?
恋を描くのならば学生でも構わない。
例え失恋という結末を迎えても、時がたてば「あの頃は若かったなあ」と笑いながら振り返られるのが恋だ。
しかしそれが愛まで進むとそんな奇麗事では終わらない。
根性論で人の人生は背負えない。そこには責任が発生するし、その責任をまっとうするには力が要る。そしてその力とは社会に出ないと決して手にする事の出来ないものだ。
なのに「社会人の愛」がテーマになることは少ない。リアル過ぎる?重苦しい?
だがリアルに感じるからこそ物語をより深く楽しめるのではないだろうか?
「笑い」や「抜き」、「燃え」や「萌え」を楽しみたいのならそれでも良いが、「純愛」をテーマに掲げるのなら社会人にスポットを当てるのも選択肢だと思う。
そして社会人の多くは朝7時に起きて、8時に出社し、日々業務に精を出し、夜には帰宅するサラリーマンだ。多数決で語るのはナンセンスだが、どのメーカーも忌避するように後日談・エピローグでしか語ろうとしない現状はどうなのだろうか。
結果で語れば、本作の売り上げは大手ブランドと比べると厳しい数字らしいが、それでも果敢に挑戦した製作陣に諸手を挙げて感謝したい。
私はこういうエロゲがしたかった。
温かくて、エロもしっかりあって、幸せになれる、サラリーマン理君の純愛物語。
例え隣の芝生が青くても、胸を張って前見て歩け、サラリーマン諸君!
以下簡単なNG考察も交えたヒロイン別感想
トコ
NG:年齢差、そもそも中○学生(かぐや消し)が大人と恋愛すること自体
社会の壁の外側と内側、守る側と守られる側、あらゆる対比的な問題に真正面から体当たり勝負で挑む少女の姿は同時に少女の成長の物語でもある。
ロリ?ペド?いいえ、彼女は少女である前に女なのです。
厳しい状況を決して欝へと持ち込まず、人情話的要素でやんわりと閉まらせるシナリオは正に丸戸氏らしいシナリオ。
夏夜
NG:ダメ男に惚れてしまう、度を超えた世話焼き体質
個人的に今作で一番好きなヒロイン。
男関係の問題になるとグダグダになる内面性と恋敵の世話まで焼いてしまう対外性のバランスは丸戸的テンプレヒロイン。「2号ちゃん」と住人に命名されても暗さなど微塵も出さない所がポイント。シナリオ構造上最も短いシナリオになってしまうのが本当に残念で仕方がない。
姫緒
NG:社会への責任と認識?
NG要素が弱いので他のヒロインと比べるとどうしても陰が薄い。
社会への責任意識がNGと言ってもそもそも女子大生だからなあ。
理と社会的接点との架け橋的な役割、物語を「転」へと進ませるキーパーソンなど、ヒロインとしても魅力云々よりもシナリオ全体の潤滑剤的な印象が強い。
麻実
NG:離婚しても元夫・理に未練がある中途半端な意思性
パルフェの里伽子、こんにゃくの海己と続く丸戸サプライズ担当ヒロイン。
同時にトコと対の関係に当たる裏ヒロイン。
設定の「リアルに重い」という点では上記の二人より上かも知れない。
常識的にはこのエンドが一番しっくり来る。元の鞘に戻る訳だし。
これぞ学園モノでは描けない社会人ならでは愛の結末だと思う。
因みに後半の「ダンナ愛して何が悪い!?」は麻美の魂の叫びと同時にピカリンの神演技。ファンの方は是非。
番外編
穂香
NG:思考から行動へと移る経緯、及び引き起こされる結果、その後の対応全て
最近こういう思考の母親が多そう。それが天然の思考だから救えない。
個人的にはダメ女を超えて屑と言って差し違えないと思う。
余談
凄く長ったらしいレビューになりました(苦笑)
とりあえず今作は「はにはに(幼馴染的な意味で)」と並んで私のバイブルとなりました。噂ではファンブックでFDは出さないと明言されたそうな・・・。本当に残念です。
今後もこの業界で、社会人を主人公にした良作が発売されることを切に願います。