「商業並みの完成度」という賛辞も珍しくなくなった同人界だが、本当に久々の別格。これだけのボリュームをきちんと描ききった力量に脱帽。まさに力作、伝奇物が好きな人には手放しでお勧めしたい作品。
一人の少女の依頼から始まる鬼との戦い。
遥か昔から続く呪いとそれによって狂わされた人々の悲劇。
挑んだ者、折れた者、ねじ曲げられた者、そして残された者。
一つ一つの事象を拾い上げて真実へと組み立てる過程に、少女の挫折と成長、物の怪の在り方、生者と死者の対比などの要素が散りばめれて綺麗に肉付きされた物語になっている。
特に本作で重要な「過去から続く呪い」とそれによって狂わされてきた一族、その末たるヒロイン・楠姫の関わりは「家族」というミクロな視点に立脚させることでより心情的な描写になっている。それは同時に楠姫が自分の世界を学び、主人公・十哉が気付かされ、互いに互いを支え合う様をも描いている。
そして語る上で欠かせないのがアカを代表とする陽気で騒がしい化け狸一行。
ともすれば陰鬱になりかねない伝奇的要素に彼女達を加えることで、どこか日常の延長線上のような朗らかな空気を作品全体に与えてくれている。この陽だまりのような朗らかさと、それを守るために呪いに挑むという構図こそがべにたぬきの作ろうとした核なんだと思う。やっぱり妖怪は着物じゃないとね。ギンのエイラ(fromクロノトリガー)化したのはビックリしたが。違う、ロリババアの本性に求めてるのはそういう方向じゃない(笑)
残念だったのはそういう意味では重要な要素でもある、楠姫の挫折を最後に持ってきたことでエピローグで少しグダグダな展開になってしまったことか。
十哉が男を見せるという点ではこの展開は不可欠だが、それまで散々死者の否定を行ってたのに大した描写も入れずに持ってきたのは残念。ここは多少回り道をしても、それこそ「叡智の光」という設定を生かして丁寧に描いて欲しかったな、と思う。
本筋から離れるとはいえ折角の万能設定がロクに意味も無かったとは。
ここでマイナス5点。万能設定繋がりで十哉の鬼神化もロクに見せ場がなかったのは残念だった。
何だかんだ言いつつ読み始めたら止まらない作品でした。
欲を言えば化け狸一行ルートも欲しかったが、このボリュームでそれを求めるのは酷という物。サークル側にも考えはあるみたいなので期待してます。