しっとりとした冬景色を舞台にした現実と幻想の狭間に揺れる悲恋。甘やかしお姉ちゃんと幼馴染が素晴らしい冬の伝承モノ。
設定の根本は「山の民」と「雪女」
民俗学的アプローチから見れば、割と使い古された組み合わせとも言える。
ただ本作においてはあくまで悲恋を演出する一要因に過ぎないので、考察とかそういう難しい内容ではない。
目に入れても痛くないと言わんばかりに甘やかしてくれる深雪に魅力を感じるかが本作の重要な点。
いきなり現れる姉への戸惑い、生まれ故郷への思慕などを切り口にその辺りは上手に描写されている。
如何に深雪が主人公を大切に想っているか、如何にして主人公はこの見知らぬ姉に懐き、想いを募らせていったのか。
そういう感情の機微を自然に、押し付けがましくなく描写するテキストに好感が持てる。故に後半の両者の隔たりとその結末も安易な鬱ではなく、悲恋モノ独特の切ないもの悲しさの方が際立っている。
その深雪と対になるヒロインが子供の頃に出会い、年と共に成長していく紫子だ。
行動的で真っ直ぐな感情をぶつける姿は色んな意味で深雪と対比的。
同時に成長した後半では、主人公への真摯な恋愛感情を持ち、時に励まし、時に心配し、深雪とは違うスタンスで主人公を見守る立場を取る。
例えがアレではあるが、「水月」の雪BADエンドで主人公を慰めてくれる花梨の延長線を見てみたい人には是非オススメしたいヒロインである。
ただハッピーエンド好きな身としては、本当に心が通じ合った後の深雪と主人公の展開がシリアスにばかり進んでいった点が残念でならない。
因みに成美は都会での主人公の肩身の狭さを体現するだけの存在なので注意。
ハッキリ言ってしまえば紫子の噛ませ犬でしかない。
H周りに関しては結構回数が多いが質・内容はあくまで純愛モノの範囲内。
メインは深雪だが、その殆どが「押さえきれない感情の暴走」なので過度な期待はしないほうが吉。