魅力的なヒロイン達を他ルートで素晴らしき脇役へと転換させる丸戸シナリオの一つの完成の形とも言える作品。
喫茶店というありふれた舞台にありふれた人々、それらを丁寧に、そして暖かく描写することで魅力的な物語にする。丸戸氏のシナリオを評するとすればそんな言い方が自分にはしっくりくる。
この話の根本は主人公・仁の成長である。火事で家と兄を失い、残された義姉とそれらの思い出を守りたい一身で単身立ち上がることから物語は始まる。
喫茶「ファミーユ」の建て直しという社会的成長と、大切な物を取り戻す(特に里伽子ルート)という精神的成長を軸に、暖かな視点で一つの物語に昇華している。
また大きな特徴として各ヒロインルートに分岐しても他のヒロイン達が彼らを茶化し、笑わし、励まし、支える事でともすればこの手のゲームにありがちな、1対1の関係ではなくより立体的なシナリオを構築している。
「お前の周りの世界は・・・お前が考えるよりも・・・ちょっとだけ優しいんだよ」
まさにこのゲームを評するに相応しい主人公の台詞である。
余談
私のレビューを見てプレイを志す人がいるかは疑問だが、もしそうであるなら里伽子ルートだけは最後に回すのを強く推奨する。決して表舞台には出ず、しかし仁の幸せを願い続ける彼女の悲しき真意がそこにはあるからだ。