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tomQさんの花の野に咲くうたかたのの長文感想

ユーザー
tomQ
ゲーム
花の野に咲くうたかたの
ブランド
あっぷりけ
得点
75
参照数
2182

一言コメント

全ルートを含めたトータル的な読了感は心地よく、キャラゲーとして見れば物足りない。そういう意味では良くも悪くも桐月氏らしい作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

伝奇的非日常と穏やかな日常の両立を狙っていたこれまで違い、
伝奇要素をできるだけ排除して日常部分にスポットを当てて、体裁を綺麗に整えたら全体的なボリュームもダウンしてしまったというのが本作。個人的にはよく出来た一冊限りの文庫書籍を読み終えた感覚に近い。

もっとヒロインと結ばれた後の日常を描いたり、盲目時代の道隆と幼馴染達との過去を掘り下げたりと描けるものは色々あると思うのだが、その辺りの水増しをしないのは桐月氏らしいと言えばらしい。
氏の作品はあくまでメインとなるヒロインのTRUEエンドで綺麗に終わらせることに比重を置いている感がある。
そういう意味ではこのゲームも過去作の例に漏れず、結局のところは桜花ゲーなのである。
麗奈や汐音との幼馴染的日常や、涼子の小動物的純真な後輩の思慕、雫との初々しい恋人のステップアップなんかを求めるとあっさり肩透かしを食らうくらいに物足りない。

逆に桜花を主眼に本作を考えると実に綺麗に出来た作品である。
尾を引くような強い余韻もなく、かと言って無味無臭な作業を終えたという徒労感もない。
ほのかに心地良いような淡い幸福感でスッキリしている。
FDでこの先の心地良い日常をもっと見てみたい気持ちもあるが、ここで終わるのが物語として最上なんだろうなと思う程度には。
エンド後のフラグメントにも日常と銘打たれている辺りにも「その後、二人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。それでいいじゃないか」というメッセージを感じ取られるような気がしてならない。

有栖川さんは無理してキーを上げているような声質が個人的にはあんまり好きじゃないのだが、こういう情感抑え目のクールなタイプなら大歓迎。
ぜひともこの路線は継続してほしいと思う。