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tomQさんのVermilion -Bind of Blood-の長文感想

ユーザー
tomQ
ゲーム
Vermilion -Bind of Blood-
ブランド
light
得点
85
参照数
1143

一言コメント

ダークヒーローの在り方を真っ直ぐに描いた作品。ヒロイン達が霞むほどに歪だけど懸命に生きる漢たちを描く――ってエロゲ的にどうなんだろうか?しかし物語的には上々。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

生き方を失い、愛さえ奪われ、それでもかつての有り様に縋るトシロー
復讐道の修羅という命の極地に魅入られ、自らもそこに至らんと駆け抜けるアイザック
狩人という生き方に己の全てを賭けてひた走り続けるヴィクトル
本作の6割はこの漢達に在り方、生き方を描いていると言ってもいい。
(残りの内3割はヒロインの成長、1割は伯爵など)

本作はまさしくダークヒーローという存在をド直球に描いた作品である。
美影という陽だまりの「喪失」から始まり、三本指という修羅に「堕ち」る。
そうして進んだ道に何も見いだせず「空虚」に苛まされる。
さりとて割り切る器用さなど持ちあわせておらず、「喪失」「堕落」「空虚」という自分の闇を受動的に受け入れることでしか前に進めない。
しかしヒロイン達の中に光を見出し、その光を守るために再び三本指という闇の仮面を被ることで、ダークヒーローたる自分を肯定することで再び生きる意味を見出す。
各ヒロインルートで描かれているのはダークヒーローの再誕である。
奪われたから戦う修羅から守るために戦う守護者への。

対してグランドルートで描かれるのはダークヒーローとしての「トシロー」ではなく、ヒトとしての「鹿島 杜志郎」である。事実、ヒロインルートでは「堕落」「空虚」には向きあっても始まりである「喪失」という穴はヒロインが代替になる形になっており、明確には向きあってはいない。その「喪失」の理由・原点と本作の吸血鬼譚の根本を絡めることで鹿島杜志郎の成長をグランドフィナーレに相応しい舞台装置へと引き上げている。

しかしエロゲーとしてみれば、ダークヒーローにこだわり過ぎた故の失敗もある。
ダークヒーローの闇の部分にアイザックを、敵対者にヴィクトルに据えたことで、ダークヒーローを描く≒この漢達を描く部分に主題が置かれ、結果的にヒロイン達は舞台袖でこの漢達の戦いを見守る存在になってしまったことだ。
この辺りの匙加減は18禁燃えゲライターの永遠の命題なので、是非ともライターさんには今後とも大いに悩んで欲しい。



以下醜い雑談
燃えゲ界に期待の新星!一言で言えばまさにこれだよ、これ。
固有名詞ばっかりご立派なライターさん達に爪の垢煎じて飲ませたいなあ。
しかし・・・何故、何故Lightに行くんだ・・・。
本人が自虐に走っているように、燃えゲ界の雄にして問題児の正田氏が相手じゃ扱いなんて推して知るべしだろうに・・・。
両雄並び立たず。これだけの力量があればFA宣言してでも他のメーカーの行くべき。
てか他のメーカーは今の燃えゲライター切ってでも迎えに行きなさい。
漢をここまで骨太に描けるライターなんてホント稀有なレベルだよ。
あ、ニトロはダメね。あそこはあそこで伏魔殿だから(笑)