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tomQさんの穢翼のユースティアの長文感想

ユーザー
tomQ
ゲーム
穢翼のユースティア
ブランド
AUGUST
得点
80
参照数
523

一言コメント

ロックバンドのバラード、コント系脚本家のドラマなどに通じる意外性とネタの純度を感じさせる作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

けよりなで片鱗を見せ、FAで消化不良の感があったシリアスなオーガストの集大成的作品。
なんというか「キャラを可愛く書くだけじゃつまらん。たまにはこういうのも作りたい!」というスタッフの執念を感じさせる。
それは決してハッピーとは呼べないビターな余韻を残すグランドエンドからも強く印象付けられる。
キャラ萌え頼みな傾向が強くなる萌えゲという枠を壊さずに、よくまあここまでシリアスに切り詰めたなと思う。

フィオネ編
堅物な女騎士が如何に現実を受け入れ足掻くかという話。
最後までその清廉さを失わなかった所が美点だが、このルートの真骨頂はアペンドシナリオにある。
ベタベタしない甘さ加減と言葉の端々に感じさせる良妻っぷりが半端ない。
今作のオーガストの萌えキャラ分の大半はここに詰まっていると言っても過言じゃないレベル。

エリス編
心の壊れた人形が人として立ち上がろうとする話。
普段はドライな性格な癖に、一度針が振り切れると構ってちゃん&プチヤンデレ化するというオーガストヒロインの中でもおそらく一番面倒臭いヒロイン。
カイムの内面の歪さを深層心理なレベルで理解しているのだが、その辺りの本領発揮がティアルートに持っていかれてるので、何とも自ルートではパッとした印象を持てない。
せめて古女房な面をメルトから奪っていればまた変わったのだろうが・・・。

コレット&ラヴィリア編
エリスがカイムの成長面で不遇さを見るヒロインだとすれば、この二人は舞台設定で不遇さを見るヒロイン。
信仰のあり方の確執というオーガストでも珍しいネタにシナリオ分が割かれており、二人は文字通り周りに振り回されてしまっている。そこに更に姉妹愛的要素も絡んでいるので正直カイムの入る余地があんまり無い。
この辺りはもう少しアペンドで丁寧に解きほぐして欲しかった。

リシア編
作品が違えばメイン級であってもおかしくないシナリオ&ヒロイン。
お飾り王女から君主に至るまでの過程がしっかりと描かれている。
ヴァリアス説得シーンは見てるこっちが鳥肌立つくらいの成長ぶり。
簡潔に、しかし鋭くヴァリウスに言葉で切り込む様は、けよりなのフィーナよりも王者の風格を漂わせていた。あちらは正確には姫だが。
更にアペンドではカイムに甘える様のギャップに悶えるという始末。

ティア編
多分本作でオーガストが一番やりたかったであろう「避け切れない悲劇に立たされた主人公の葛藤」がテーマの話。
これまでのヒロインは形こそ違えども果たしたい想いがあり、カイムはその時々の最適解を提示することで話が進んできた。
しかしティアは毛色が違う。カイムにとっては被保護者であり、決断そのものはカイムに握られてしまう。
この部分がシナリオの妙であり、上に登るにつれカイムの思考も個人的なものから徐々に都市全体を見る視点に立ってしまっているので、
一人の少女と都市の命運を計りにかけなくてはならない状態になってしまう。
その決断の標としてカイムの根っこを理解しているエリスを登場させる辺りは多少ご都合的な感じではあるが、
それを自然にさせる仕掛け(身請け金のやりとり)を本人のルートでやらずにとっておいただけの意味はあった。
「生きる意味とは自らの意志で決断し、その結果を後悔せずに受け入れ進むこと」というカイム自身のテーマがあればこそ、決断の果てにティアを失っても前に進めるということなのだろう。
とまあ綺麗に締めたけどやっぱり切ないね。別に最後の最後にティアが裸で寝転んでてカイムが抱きしめてその後ろから生き残った者達の声が――って形のハッピーでいいじゃないかよ。(サモナイ2風味に)
ということでティアエンドはアペンドの娼館初仕事がトゥルーだと脳内変換します。ハッピーエンド万歳!
お陰で忘れられないエロゲがまた一つ増えてしまった。全くオーガストは幾つそういうエロゲを増やすつもりだ。


本作で特筆すべきのがもう一つ。ズバリBGM。
エロゲのBGMは半ば方法論が確立されているのか、あんまり印象に残らない場合が殆ど。
精々が一部の山場イベントでコンシューマーレベルのクオリティーがたまに散見される程度なのが現実。
しかしこの作品は違った。
特に牢獄関連はそこに住む人々の心情や空気さえ感じさせる出来である。
「Blind Alley」は底の見えない闇と断ち切れぬ人の繋がりの温かさが同居し、
「Ash」は明日への希望を持てず、それでも上る陽の光と繰り返される日常に言いようのない鬱屈とした感情が滲む。
他にも「Halbmond」は夜の帳、あるいは束の間の休息に心を落ち着けるように静かな音色が旋律を奏でる。
「Una Atadura」はどこか熱に浮かれたような幻想的なメロディーと絡みつく様に重なる弦楽器がカイムとエリスの関係性を思わせ、
それでも異なる響きが二人の思惑の差を浮き彫りにするようである。
そして「Far Afield」は引き返せないまでたどり着いてしまったティアとカイムの心の距離、互いの心情を切なく表現する。
作曲側も相当な力の入れようであり、オーガストの本気を思わぬ形で感じさせられた。

FAが個人的にどっちつかずな作品で敬遠してたのだが、やっぱりオーガストはブランドの地力があるんだなあと改めて思った。
しかし人気投票はフィオネか・・・。
オーガストヒロインは茶髪勢が強いなあ。自分も過去作を思い出せば見事にクチなのだが(苦笑)
さてこの傷心を大図書館で癒してもらおうかな。