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tomQさんのきっと、澄みわたる朝色よりも、の長文感想

ユーザー
tomQ
ゲーム
きっと、澄みわたる朝色よりも、
ブランド
propeller
得点
80
参照数
1619

一言コメント

良くも悪くも朱門色に染め上げられた作品。作り手のエゴが丸出しと言われればそれまでではあるが、ここまで綺麗に纏められたエゴもそうはない。期待点の相違ということで失望は感じるが、駄作と切り捨てるには余りにももったいない出来。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

当初、体験版プレイ時は「ちょっと難解な要素も含む学園モノ」と考えていた。
そしてラストの若の行動(第一章のラストにあたる)で「やはり朱門氏、超展開もありうると想定してプレイした方が良いだろう」と気を引き締めなおしたが・・・。

いざ蓋を開けてみれば別の意味で想像していない内容であった。

他の方も散々言っているが本作は一本道である。
ヒロインはひよ一点張り。結末は一つ。
故にゲームと言えば誤解されかねない。
かといってノベルでもない。
強いて言えばディスプレイから眺める演劇というのがそれらしい認識だと思う。

絵があり、声があり、音があり、文章があるエンターテイメント。
そしてそれらを統括するのが朱門氏。
キャラクターは彼が用意した舞台に役割を持ち、各々がその役目を果たすことで話が進んでいく。しかしそのキャラクター、特にヒロイン達が非常に魅力的に描かれている。
それゆえに私などは「もったいないなあ。学園系萌えゲで仕上げればもっと高い評価だったろうに・・・」と思ってしまう。

「話および全体像について」

起承転結が明確に区切られた全四章の構造。
「優しさ」と「それに触れ成長していく人間の様」という明確なテーマ。
そして「人に優しくすると痛みを伴う病気」という具体性をもった問題提起。
過去作において、今まで若干突き放し気味だったこれら設定が本作は非常に分かりやすくなっている。

表現したいことが明確であるが故に結末も一つ。そういうことなんだと思う。
やり終えて感じたのは「綺麗な物語である」ということだ。
丁寧に整えられたといってもいいだろう。
雑誌などで彼がどのような発言をしたかは知らないが、多分今までで一番書きたい物をきちんと書けたという満足感があるのではないかと思う。
流行を生む者、そしてそれを追いかける者。そうしたメジャーな位置とは真逆に朱門氏は立っている。そういう姿も肯定されるのがこの業界だ。
なんと懐が深く、混沌とした市場なのだろうか。
これだからエロゲは面白い。
漫画を読まなくなっても、ドラマを見なくなっても当分エロゲは止めれそうにない。

「ヒロイン達について」

ひよ
朱門氏はこういう一途な大和撫子を描くのがムカつくくらい上手だ。
押し付けがましくない言動。聡明さに裏打ちされた心地良い距離感。
そして何より枕元での正座のCGがひよというキャラクターを一つの形にしている。
その姿はまさしく恋女房。本作で一番琴線に触れたCGがこれだ。
加えて挿入歌を入れることであのシーンより美しくなっている。卑怯だ。
まあだからこそラストシーンが映えるのだが・・・。

春告
個人的にひよと並んでダークホース的な意味で期待していた。
していた故に残念で仕方がない。こういう和の為に我を抑える自制心を持った強気属性は、結ばれた後のギャップが良いのだが・・・。

アララギ
小動物的な癒しでもなく、アッパー系ムードメーカーでもなく、全てを肯定・許容する聖女タイプでもなく、そしてそれらの核心部分だけを一筆書きでなぞるような描写。これこそが朱門氏の妙味に一つだと思う。
加えてその微妙な機微を有栖川さんが上手に演じている。
個人的に本作の声優MVPは彼女に捧げたい。


初回プレイ時からサブヒロインと見ていたので割愛(笑)
というか名義代えですか風音さん。何に驚いたってそこに一番驚いた。


余談
何とも拙いレビューで申し訳ないです。シナリオの解説とかにも挑戦しようかと思いましたが、収拾がつかなくなったので止めました。こういう時、自分のボキャブラリーの少なさには辟易としてしまいます。上記の通りシナリオは一本道。加えてエロは挿入未遂が一つ、なんちゃってフェラが一つ、そして純愛らしいものが一つの計三つという「ありえねー、それエロゲで出す意味ねーじゃん」な内容ですが、話の筋、過程、それらを纏め上げる結末と非常にキチンと仕上がっているので「良いシナリオ」そのものを求めている人にはオススメできる出来です。まあその分ヒロイン達も魅力的なので攻略不可に憤慨されるかもしれませんが・・・(苦笑)