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tomQさんの装甲悪鬼村正の長文感想

ユーザー
tomQ
ゲーム
装甲悪鬼村正
ブランド
NitroPlus
得点
85
参照数
2215

一言コメント

話の密度が非常に濃い。燃えよりも話のヘビーさに比重があるのがニトロらしいと言えばニトロらしい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

よくもまあこういう話を作れるなあ、とひたすらに感心させられた一作。
大和の支配権を取り戻したい六波羅VS西欧列強(イギリス)の植民地化を図るGHQの対立構造と善悪相殺という戒めを持ちながら妹を追う主人公。
接点を持ちながらも異なるベクトルを向くこの二つの組み合わせ方が秀逸である。
前者の対立は舞台装置として、後者は目的として上手に機能してるので非常に多層的なシナリオになっている。

戦闘に関しては「静と動」の描き分けが非常に良い。
入れ替わり立ち代りで目まぐるしく攻防が入れ替わる空中戦。
剣客物よろしく、一瞬の緊張感と刹那に結末を決する地上戦。
ただ理詰めの要素が強いので、従来の燃えゲにあるような大逆転劇などは皆無。派手さはあってもイマイチ爽快感は薄い。バトル要素に過度に期待すると痛い目にあうかも知れない。
事実上のラストバトルである光戦だけはやりすぎだと思うが・・・。

全体的に話の内容は重いのだが、所々にあるギャグが良いアクセントになっている。
特に光の夢操作はニトロ10周年を意識した内容で笑わせてもらった。

話の根本は「善悪相殺」という戒めに振り回される主人公・景明の葛藤である。
その末が各ルートの結末と言える。

一条ルートでは「正義の狂信」とも言える一条の姿に善悪相殺の意味を見出す。
ただ反面教師的な意味合いがわりと強いのでどうもスッキリとしない。
結果的には明確に向き合うことなく『保留』という印象で終わる。

香奈枝ルートでは戒めと折り合いを付ける結末を迎える。
罪にはいつか罰が下る。その証明。あるいは『妥協』
ただここで一方的な断罪者ではなく葛藤する復讐者として香奈枝を位置付けることで一筋縄ではいかない展開に仕上げている。互いに答えを求め合う姿がよりその悲壮感を浮き彫りにしている。個人的には一番綺麗な結末かなと、まあありがちではあるが。

そうなると茶々丸ルートでは『放棄』と言える。
これはこれで必要な結末だと思う。

そして最後の村正ルートでは『肯定』
忠保が言う「死を無駄にしないで欲しい」
そうするには結局の所はここに行き着くしかないのだ。

「たかが登場人物の死と言うな。書き手は読み手の何倍も苦しいんだ」
そんなことをあかほりさとる氏が書いていたのを覚えている。
それはきっと奈良原氏にも言えることなのだと思う。
故に最後は少女の微笑みで本作は幕を閉じる。
この先、景明の道には救いなどは決してない。
だが、その途中に救われる人は、希望は確かにあったのだと。
二度と交わらないであろう二人の姿に製作者の祈りにも似た良心を見た。

お気に入りは香奈枝と村正。
香奈枝は正直言って最初は「吉川さんはミスキャストじゃね?令嬢キャラなら他にもいるだろう」と思ったが、ギャグシーンやブチギレシーンなどの落差で納得。
村正はメインだけあって暴走したり天然だったりと美味しいシーン多し。
他の蝦夷がアイヌっぽい衣装の中でただ一人セクシーギャルしてるのはヒロインの特権か。スリットと下着のラインが素晴らしい(笑)