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tkktさんのガラス姫と鏡の従者の長文感想

ユーザー
tkkt
ゲーム
ガラス姫と鏡の従者
ブランド
戯画
得点
75
参照数
537

一言コメント

共通は主人公の成長とサクセスストーリーを描いた王道展開。個別はお菓子のアソートパックのようで、複数ライター作品かと思うほど、色味の違う話を展開しています。まあ流石に全部美味しかったとは言えないものの、少なくとも退屈はしなかったかな。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

グラフィック(17/20)
 どうしちゃったんだSyroh先生。まどそふと初期頃に書いていた絵はかなり好みだっただけに、今作の作画の不安定さは心配になります。特にアンリは顕著で、まず立ち絵の腕の曲がり方が怖い。一枚絵にしても彼女との添い寝CGなんかは往年の先生だなという感じだったけど、ルート終盤の兄妹が階段に腰掛けて話しているCGは正直酷かった。何とか復調していただきたい。有末先生は逆にすこぶる安定していて言う事なしです。背景絵も非常に美麗でした。


ストーリー(35/50)
 一言でも書いたように、共通と個別で色合いの変わる作品ですから、僕の方でもそれぞれに分けて感想を書いていこうと思います。

 ・共通ルート
 いっそ手垢ベタベタくらいの王道展開で進んでいきます。くすぶっていた青年が子供の頃の約束の相手と再会し、心機一転、ロイヤルサーバントを目指すという成長物語。ヒロインの配置も悪くない。最初から縁のあるベルナデット、入学後の事件によって好意を寄せてくれるようになった奈緒美、トリックスター的立ち位置の織姫、秘密の共有者&理解者として慕ってくれる男装お姫様アンリ。みんなキャラも立っていました。また初恋の相手であるベルナデットは見せ場を控えめにし、逆に唯一お姫様ではない奈緒美は存在感が薄くならないよう主人公に一番近いポジションで甲斐甲斐しく世話をさせる、といったバランス調整も巧みでしたね。主人公の方も、前を向くキッカケになったのはベルですが、立ち直るまで傍で支え続けてくれた奈緒美に改めて感謝したり、織姫の怪我にも機敏に対応したり、アンリの秘密を守るために兄貴に立ち向かったりと、他のヒロインからの好感度稼ぎにも余念がなく、キャラゲーとして担保して欲しいヒロイン間の平等性は、ある程度保たれていたのではないかと思います。
 主人公の男を上げ、ヒロインの魅力も見せつつ、プチハーレム形成まで持って行き、かつそれぞれの個別ルートへの引き(ある程度こういう話になるのではという予測)も十分。ほぼほぼ欠点の無い共通ルートになっていたのかなと思います。繰り返しになりますけど、王道というか基本に忠実な作りですよね、ホント。奇を衒わずとも、ある程度の筆力があるのなら、王道の展開を丁寧に描くだけで充分今の時代でも戦えるんですよね。藤太さんも恐らくは意識的に古臭く書いている部分もあると思いますしね。男たるもの強くあれ、女たるもの可憐であれ、の精神とか。もともと主人公の誠意はボロボロに打たれてこそ示されるみたいな、自己犠牲的なシナリオも結構書く人ですけど、今作はそれが顕著でしたね。
 続いて個別ルートの感想へと移ります。実際の攻略順ですね。

 ・織姫ルート
 彼女は奇抜な言動に注目されがちだけど、本質は非常に乙女でしたね。荒事とは無縁の、それこそ「箸より重い物は持たない」を地で行くような筋金入りのお嬢様と、平民上がりの腕自慢護衛との恋というのは、やはり浪漫のあるものです。「美女と野獣」的な。父や兄たちに甘やかされて育ったそうですが、逆に言うと男の厳しさや荒々しさといった側面は殆ど目にしたことが無かったんでしょうね。言い方は悪いけどナメてた部分もあったんでしょう。そういう下地があって、例のサバゲーおふざけ事件ですね。両者の立場や意識の違いを浮き彫りにするには不可欠なイベントでした。自分を案じて怒鳴ってくれる男というのは、彼女の人生において(躾をし直した祖父はもしかしたら怒鳴ったこともあったかもだけど)恐らく彼が初めてだったでしょうし、相当な衝撃を受けたでしょう。いざとなれば命を賭けて自分を守ってくれる男に壁ドンされるなんて、彼女にとっては漫画や同人誌の中だけの話だと思っていたでしょうし、ましてそれが自分の身に起こるなんて。
 ただ個人的にはこの衝撃による好意の自覚と「嫌われたかも」という不安を抱えたヨワヨワ状態の織姫様をもう少し長く見ていたかったのですが、すぐに事態が急転してしまい、織姫様も本来のしたたかさ(庇いだてした事により主人公の好感度を稼いでやると言ってのける豪胆さ)を取り戻していきます。まあコレはコレで彼女らしいということで一つ。ただ無事付き合うようになってからは謹慎生活の隙を縫って逢瀬を重ね、お互いに溺れていくだけ。もう一つくらい彼女お得意のゲームを扱ったイベントがあっても良かったと思う。この子のルートでベルルートの内容を示唆されても、反応に困るし。振り返ってみると、付き合うまでの前半部に見所の殆どが集約されていた印象。

 ・奈緒美ルート
 一言感想でお菓子のアソートみたいと表現しましたが、このルートはかなりクセのある味ですね。個人的にはハズレ寄りです、残念ながら。というのも話の大部分を過去のラストプリンセスとトーマスの恋物語が占め、肝心の主人公と奈緒美の物語になっていないという状況。織姫ルートでもサブカプ(兄貴と主人公の姉)が少し噛んでたけど、このルートは完全に食っちゃってます。何というか、そもそも今作にファンタジー要素を入れるのは厳しいだろうに、更にサブカプに乗っ取られ、何とか上手く行った後に見せられるのが爺さんと婆さんの老いらくの恋という有様で、感情が乗りにくかったです。トリック自体は色々練っているんでしょうけど(ナオミと奈緒美が直系じゃないせいで実は未来視が出来ていなかった事による錯誤トリックとか)……結局さ、他のルートに行っても主人公も奈緒美も消えることはない=トーマスの未来視だけでナオミの救出は成り、正史を歩めるって事だよね。寧ろ主人公がトーマスと同化したりゴチャゴチャかき回した故にタイムパラドックスの可能性が出てきてしまったワケだから、何か凄い骨折り損な気持ちになる。マイナスをゼロに戻す作業って言うか、終わった後もやっぱカタルシスは無いよねぇ。二人とも良い人だったし、祝福はしたいとは思うけどね。
 折角お嬢様お姫様で固めたヒロインの中でたった一人従士科の仲間なわけだし、もう少し書きようはあったんじゃないかと思ってしまう。例えば彼女がやっているネットショップや手芸の才能を伸ばす方向で書いてみても良いし。ロイヤルサーバントになれなかった主人公が進級の為の単位に東奔西走し、それを奈緒美が全力でサポートして二人で乗り越える話とか。あまり動的な話にはならないだろうけど、興味の無いサブカプに食われるくらいなら、平凡でも良いです。奈緒美ちゃんのキャラ自体は結構好きなタイプだっただけに残念。

 ・アンリルート
 こちらは逆に平平凡凡。いっそ拍子抜けするくらいに、共通から予想したままの話運びでしたね。もうワンクッション、アンリが主人公に惚れるエピソードを挟んでからくっついても良かったかなと思うくらいには、山が少なかったですね。ただ他のルートが結構アップテンポなものが多いですから、良い感じに作品内の緩衝材の役割にはなっていたと思いますが。
 本ルートのサブカプ枠は当然、兄(本物のアンリ)とそのメイドです。メイドの方は直接出てこないので分かりませんが、正直この兄は全く応援する気にはならなかったですね。主人公が孤立するキッカケになった例の高慢すぎる物言いがまず謝罪案件なのですが、これについて奈緒美には一言も無し。まあ猫アレルギーの従者(多分これが件のメイド)を守りたい一心だったのでしょうが、言い方が人権侵害レベルだし、そもそも猫アレルギーを隠す必要も全く理解できない。別に恥ずかしい事でもあるまいし、寧ろこういう情報はシェアした方が良いのでは。そしてそれを諫めた主人公に対しても再会時に睨みつけてくる始末。苦労を知り、市井の生活を過ごしてなお、この態度では処置無しでしょう。周りからは何かすげえ優秀みたいな評価を受けているそうですが、いやはや。少なくとも俺はコレが自分の国の象徴だったら嫌だわ。まあ藤太さんは今作では、意識的にこういったいけ好かない部分やナチュラルな選民思想も含めて王侯貴族を書いてるとは思うんだけどね。
 そしてルートの決着も若干モニョる。どうなったんだろうコレは。会いに来れたってことは希望は有りそうだけどね。学園が閉鎖空間すぎて、主人公が何らのアクションも起こせなかったし、状況を知る術もなかったので、詳細は分からないですよね。後述するベルルートでもそうですが、肝心な所がコントロール下にないというか、そういうもどかしさが不完全燃焼を招いてしまっているんですよね。あ、ちなみにアンリ(アンナ)自身は可愛かったですよ。

 ・ベルルート
 正直、面倒くさそうな気配を感じながらも、攻略は最後に回そうと決めていました。今作の肝となるルートだろうとは予見できていたし、姫と従者の初恋というベタベタの王道をどこまで貫いてくれるか楽しみにしていましたし。で、まあやはり面倒くさいお姫様体質も見せてくれたのですが、主人公が何ら臆面もなく愛の言葉を尽くし閉ざした窓をこじ開けてくれました。愚直な男らしさって良いよね。ベル自身も後に「臆病な私を、ついに貴方がさらっていった」と述懐していますしね。そして構図も子供の頃のそっくり焼き直し。ベタベタのコテコテだけど、やっぱ好きですね、こういうの。それにベルナデットの面倒なお姫様ムーブはここで終わりなのも良かった。いつまで経っても成長なく待つだけのお姫様は個人的には苦手なので、ここら辺のバランス感覚はグッドでした。というか主人公と同じなんですよね、彼女も。いじけていただけで、一度前を向いたら根っこは強い子のようです。レオとの婚約問題にしても、「あーこれまた面倒な拗らせ系かな? 諦めて受け入れちゃって主人公が追っかける感じか、はあ(クソデカ溜め息)」とか思っていたし、主人公もそれを危惧して先走っていたのですが、当のベルの方は完全に主人公と添い遂げると腹括った後でした。誰が相手でも戦い抜くという覚悟ですとのこと。良い意味で裏切られましたね。株も爆上がりです。
 恋愛方面はこんな感じで概ね満足いく内容だったのですが、逆にルートの本筋たる政争関連は微妙でしたね。アンナルート同様、どうやっても箱庭の中でキャンキャン吠えているだけで、実際の政務とはかけ離れていて、まあ一言で言うと絵に描いた餅を、どちらがより巧いか競い合わせているようなもので、どうにも真に迫らないです。ちょっとこの学園の設定でバチバチの政争を題材にするのは難しかったと思う。本気でやるなら、学園編と卒業後の王宮編の二部作にしないとダメでしょうね。ただそこまでやると別ゲーなので、消化不良は承知の上で学園編のみでお送りしましたって感じか。色々と都合があるのは分かるけど……読む方としては、ね。
 ベルルートのサブカプはエラとレオのロイヤルカップル様。これもまた、微妙な読後感に拍車を掛けてしまった。なんせレイピア投げただけのレオに曲者設定のエラが簡単にデレてしまうキャラ崩壊。本来は衛士にやらせておけばいい仕事をわざわざ危険を冒してまでやってくれた事にときめいたそうだけど……やっぱナチュラルな選民思想が透けてるよね。レイピア投げてくれたのは確かに助かったけど、血まみれになって戦い実際に撃退したのは主人公なんですがそれは。しかも血まみれにした張本人フレンダに対しても、自分好みの姉弟愛を地でやっているという理由で無罪放免。いやいや、ありえんよ。殺人未遂だからね? 上に立つ人間の裁定じゃない。情治国家か。最低でも主人公に詫びは入れさせるのが筋。というかエラ自身も散々主人公の純真さを利用してるし、主従ともどもか。
 何と言うか、エラには尊敬できるような要素が皆無で、フラワースカラーの特権も自分(ないし自国)本位な事にしか使ってないし、卑しい生まれの衛士など利用して当然、ボロボロになろうが知ったことではない、という無自覚の傲慢が非常に不快だった。いっそ完全に悪役になって鉄槌を受けてくれた方がスッとするまである。ベルは可愛いけどコレが義姉になるのかと思うと。

 ・総括
 共通は面白かった。個別も部分部分では面白かった。織姫はくっつくまで。アンリは兄関連以外。ベルも恋愛方面は良かった。奈緒美に関しては僕は刺さらなかったけど、SF(少し不思議な)物語が好きな人なら気に入る人も居ると思う。ただ個別の他の部分には少なからず不満を抱いてしまった。華やかな世界の裏側も余さず書いているのは評価できるし、実際の特権階級もあんなもん(或いはもっと酷い)だろうし、そういう意味では写実的に良く書けているとは思う。だからこそアンナやベル(あとヒロインじゃないけどラストプリンセスも)といった身分だけじゃなく心まで洗練されていて尚かつ可愛らしい人達がより映えるという側面もあるんでしょうし。まあ要するに他を下げてヒロインの魅力や可愛さを引き出している書き方なので、下げられている方はお察しなんだよね。しかも彼らがサブカプとか形成するワケだから、堪らんよね。というか全ルート謎のサブカプ縛りやってたけど、そもそも僕はサブカプになんか興味ないんだわ。
 総合してみると、非常に評価に困る感じです。人に薦められるかと問われれば、首を縦にも横にも振りづらい。ヒロインさえ可愛ければ他の全てを受け流せるという方なら、まあ。或いは嫌なヤツをキチンと描いているのを評価できる人なら。


エロ(17/20)
 ベル3回。アンリ3回。織姫4回。奈緒美4回。回想シーンの枠数自体は昨今の萌えゲーに比べて少なめですが、全員1回は夜通しセックスがあり、体位を変えての大連戦となるので実数はもう少し多いです。乳弄りも充実しており、吸いながら揉みながらのピストンも散見され、おっぱい星人としては回数以上の満足も感じました。衣装がバラけていてくれたのも着衣好きとしては高評価。


音楽(6/10)
 ボーカル曲は2曲。OPに関しては……まあ戯画も悪いよね。アマチュアの方に頼む上に、クッソ歌い辛い曲を宛がうんだから。最初聞いた時は何かもう気まずかったよね。ED曲は普通に聞けるレベルだったけど。BGMに関しては、落ち着いたエレガントな曲調のものが多めで「鐘鳴る丘のサンドリヨン」が一番好き。「雷庭まつろわぬ神々の遊戯室にて」も不穏だけどコミカルさもあって独特な味がある曲でした。織姫様にピッタリですね。


合計(75/100)