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tkktさんのゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない Vol.3の長文感想

ユーザー
tkkt
ゲーム
ゾンビのあふれた世界で俺だけが襲われない Vol.3
ブランド
SEACOXX
得点
83
参照数
3401

一言コメント

クリックが止まらず、あっという間にシリーズ完走していました。息もつかせぬスリリングなプロット。残酷なまでの適者生存の理。厭世感・色欲・打算・男気と様々な顔を見せる異色の主人公。これらを綺麗にまとめ上げるライターさんの筆力を素直に称賛したい。とても上質なエンタメ作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

グラフィック(17/20)
 横顔になると少し印象が変わってしまいますが、正面立ち絵などは中々のクオリティだったのではないかと思います。少なくとも商業と同人の格差のようなものは感じませんでしたね。ゾンビ(知性体)のデザインも素晴らしく、特に女性ゾンビ(知性体)の恐ろしくも蠱惑的な表情が印象に残っています。グロ関連はかなりボカして書いているので、そこが少し不満でした。


ストーリー(41/50)
 vol1~3&0と、シリーズ通しての評価・感想になります。ちなみに値段的には個別で買ったとして、合算でミドルプライス相当でしょうかね。いわゆる地の文のテキストが多い作品ですので、普通のミドプラよりはボリューミーに感じましたが。
 前置きはこの辺で、そろそろ始めましょうか。まあ分かりやすいようナンバリングごとに分けて書いていきましょう。

 ・vol1
 物語の始まり。武村雄介という男がどういった人間かを丁寧に描いていますね。絶望的な状況でありながら、自分だけが特別。それでいて自棄にもならず、優越感にも浸らず、どこか薄皮一枚隔てて世界を俯瞰しているような、奇妙な達観を見せます。人生自体を壮大な暇つぶしと考えているらしく、根底にあるその哲学が、荒廃後の世界でもやることは一緒(すなわち所詮は暇つぶし)という境地に至らせているのでしょう。ただ俗っぽい、即物的な利益にも勿論興味を示す人で、具体的に言うと女の体ですね。時子ちゃんを肉オナホにし、深月は脅して体を弄びます。もし僕が武村と同じ立場だったとして、時子ちゃんは僕もしてしまうだろうなぁ。言っちゃえば、本物の肉体を持ったダッチワイフだもんね。あんま遠慮が生まれないかも。ただ深月ちゃんの方は無理だろうな。幼い弟ふたりを見ちゃうとねぇ。しかし、それを実行できるのが彼。エロゲの主人公としては正しいけどね。
 また深月ちゃんの方の人物造形も非常に上手いなと感じていまして、何と言うか、恵まれた家庭で生まれ育ち、倫理観や道徳観念もキチンと育んだ結果、性的な事への忌避感と男への警戒心も相応に備わっている真面目な女の子。ただ実際に男を知らない故に、自身が美少女としての特権を受けていることに気付けていないという幼さも内包している。そんな彼女が例のクズ男に体を視姦され、次いで武村に性接待を要求されるという耐え難い境遇に陥ってしまう。そこからの現実逃避プッツンも無理からぬことだなと。こんな屈辱、今までの人生で味わったことも無かったし、想像さえしなかったでしょう。弟たちの手前、気丈に振舞っていても、言うて彼女もまだまだ子供と呼ばれるような年齢ですし。しかし現実は無情なもので、案の定、ゾンビたちに襲われる姉弟。そこで彼女らを命懸け(実際は違うけど深月視点だとそうなりますね)で助けてくれたのは誰あろう武村でした。深月の混乱は如何ばかりか。自分を物のように扱い性処理していた男が、その物のために死地に飛び込んでくる。何なんだ、この男は。ワケが分からない。ただ一つ、他の男とは全く違う価値観で動いている人なんだと、それだけは推知できた。実際、武村は彼女らを思ってというのは動機の2割くらいじゃないかと思います。残りの8割は自分の為です。目の前で死に逝く子供を座視するのは己の芯に反するという事なんだと思う。警察で銃を手に入れた後、試し撃ちの相手にゾンビ化したとはいえ、罪のない婦警を的にすることはしなかったのと根底は同じ感覚でしょう。彼の言葉では「寝覚めの悪い事はしたくない」ですか。まあここら辺は実に日本人的だよね。僕も知らない人に道を聞かれたら、可能な限りでは助けますが、それは親切心半分、残りは己の中の道義に背かない為です。もちろん、そんな大仰に考えながら案内しているワケでもなく、やっぱまあ言葉にするなら「寝覚めの悪い事はしたくない」が一番適切か。
 武村の思惑はどうあれ、この一件で深月は彼への意識を改めます。弟たちが懐いたのも大きいですかね。「男なんて」と気張った所で、この状況下では頼る以外に選択肢なんて無いし、後生大事に処女膜を取っておいても死んだらただのタンパク質です。ということで、正式に男女の関係を結んだ二人。そして束の間の安息。後に深月は「こき使われた」と振り返る日々ですが、同時に「子供だから」「可愛い女の子だから」という手加減を一切しなかった武村だからこそ、信頼できたし、褒められればそれは純粋に自身の能力を認められた事になるので、今までにない充実感を得られ、また生来の世話焼き気質から、彼の役に立つことにも喜びを見出していました。ある種、異様に相性が良かったんですよねこの二人。大切に育てられた潔癖な女の子が、翳のある危険な男に惹かれる展開は、王道ではあるけど、やはり良いものですね。
 ただこの幸せな時は長くは続きません。武村が偵察に向かったFラン大学で他のゾンビとは明らかに違う「知性体」と遭遇したのを皮切りに事態は急速に悪い方へ転がって行きます。Fラン大学から戻った武村を待っていたのは、かつて深月の体を狙っていた下衆男と戦う姉弟、そして息絶えた優。まあ正直な所、この残酷な世界で小さな子供ふたりともが生き残ることはないんだろうなと元々予感はあったのですが……やっぱ悲しいよね。憎悪の声を上げる深月(ここら辺はアグ〇オンさん渾身の熱演って感じでしたね)と、男を始末した武村。ゾンビの釣り餌にして自分たちが安全に脱出する為に利用するという冷徹さの中に、キチンと怒りの感情も滲ませてくれる。ここら辺のバランス感覚が素晴らしいよね。階下に落ちていく男に向かって「俺がてめーにムカついてないと思ったか?」と吐き捨てた言葉を聞いた時、その静かな怒りを湛えた瞳を見た時、深月は完全に恋に落ちたと自覚しました。よくさ「復讐は何も生まない」とか「憎しみの連鎖は空虚だ」とか言う創作物があるけど、あれ完全に嘘だからね。そういう綺麗事ガン無視で恋愛感情のダメ押しに使ったのは素直に加点。

 ・vol2
 市役所編。放送を聞いて避難してきた一行を迎えたのは、(この状況下においては)奇跡とも呼べるほど安定した秩序を保った集団でした。激動の1章から比べると平和的なお話が展開されますね。市役所の司令塔にして貴重な医者であるところの牧浦にスポットを当てつつ、深月の恋心を募らせていくという構成。正直vol1を読み終えた後だと、どうやって他のヒロインの入り込む余地を作るのかと思っていたのですが、深月の咄嗟の失言(どうして守ってくれなかったのか)を両者に楔を打つ形として使い、幼馴染の虚言(武村にだけ深月の恋人だと名乗る)で上手く距離を作り出しましたね。
 この失恋により深月は動揺し、かなり精彩を欠いてしまいます。何せ優の埋葬にも気が回らず、結局は武村に任せきりになってしまったくらいですからね。あれだけ愛していた弟なのに。また終盤のタカシの手術前後にもあまり姉らしい感情を見せるイベントが無く、いくら牧浦の見せ場と被っているからと言え、流石にライターさんの都合で遠ざけ過ぎかなと思います。また武村と深月の関係に横恋慕する幼馴染くんも、存在感が薄すぎて、二人に溝を作る為だけの端役にしかなっていないのは残念だった。出しゃばらせてもウザそうという判断なのかな。個人的には、深月や弟たちのケアをしようとして無様に空回りする姿を見たかったんですが(寝取り脳)。
 端役にしかなれなかったという点では、実は今号のメインヒロインたる牧浦も同様だったりします。彼女自身「依存」という言葉を使って客観視は出来ていましたが、基本的に武村から与えられる一方なんですよね。ちょうど食料をねだっていた頃の深月と似た精神性です。或いは未だファザコンのモラトリアムから抜け出せていない状態か。だから、そこから一歩抜け出し、「彼に返したい」「彼が居なくても戦える気概を持つ」という精神性まで成長した深月に争奪戦で敗北してしまう未来がvol3で待っているワケですね。まあ、こんな状況だし責めるような気持ちはないけどね。ただ、こんな状況だからこそ、弱い者が奪われてしまうっていうだけで。精神面(想いの強さ)でも弱肉強食の摂理。

 ・vol3
 山への移動の手段として船の調達に向かっていた武村が帰還する場面から。鬼の居ぬ間にと言わんばかりに、市役所内部で蠢く悪意。平穏は一瞬で地獄絵図へ。多大な犠牲を払いながら、何とか反抗グループを制圧するも、隙に乗じた「知性体」が襲い来る。その襲撃を辛くも凌いだが、武村が「知性体」に噛まれてしまう。見捨てた牧浦と、後先も考えず周囲全てを敵に回してでも庇った深月。正しく二人の勝敗をハッキリ分けたポイントになりましたね。しかして武村は奇跡の生還。知性体に意識を飲まれずに戻ってこれたのは、深月の想いと時子の能力?(恐らくは今後の伏線なのでしょうかね)による所で、やはり彼にとっても奇跡と評して良いでしょう。深月の行動は確率やら今後のリスクやらで言えば絶望的なほどの愚行でしかなかったけれど、そもそも奇跡というのはバカ(褒め言葉です)にしか起こせませんからね。彼女のこういう所は、武村からすると自分には真似できないと思っているでしょうし、彼女に惚れた一因でしょう。
 ちなみに、牧浦以外にもこのイベントで篩に掛けられた連中が居ました。武村が全てを暴露し、深月に体の関係を強要していたと知った幼馴染くんは激高するも銃を突きつけられて沈黙。想いの程度が知れますね。逆に銃口に真っすぐ向かって歩み、思いっきり殴りつけた工藤の格好良さ。撃たれないとタカ括っているんじゃなくて、裏切った元ダチをぶん殴らないと気が済まないだけなんでしょうね。深月と同じく直情バカやったワケですが、賢しく項垂れるより万倍格好良いんよね。ゲームでは工藤や佐々木ら土建屋たちの見せ場はこれで終わりですが、小説版の方では更に活躍するんでしょうかね。彼らの初登場時は、見た目だけでトラブル要員だと思ってしまったけど、ゴメンねって感じ。
 一方の武村は、一連の騒動に辟易します。vol1ではスーパーの生活をクズに壊され、Fラン大学で行われた処刑により「知性体」という最悪の敵が生み出され、という積み重ねの上に、この内乱ですからね。同じ人間同士による足の引っ張り合いに巻き込まれ続け、厭世観をどんどん肥大化させていきます。それでもまだ辛うじて関わる気を持たせるのが深月であるとハッキリ自覚するくらいには武村も変わりました。深月にしても、きっとパンデミック前には自分が男に向かって行かないで欲しいと懇願する女になるなんて夢にも思わなかったでしょうね。恋は人を変えるとはよく言ったものです。
 物語は武村たちが山の野外センターで自給自足生活を始めた所で終わっています。もちろん一応の〆にはなっていますが、キリの良い所で中断セーブのような消化不良感も同時にあり、まあ要するにもっと読みたかった。原作の小説を読めばいいだろうという話なんだけど、やっぱ僕はエロゲーマーなんでね。仮に原作を読んでエッチな場面が来ても、物足りなく感じるだろうし。アグミ〇ンさんが喘いでくれるのと、喘いでくれないの、どっちが良い? って聞かれたら、そらもう答えなんて分かりきってますからね。続編のクラファンとか打ってくれないかな。なんて思うくらいには、本当に面白かった。

 ・vol0
 一応ミニファンディスクのような役割なのかな。本編のイフストーリーエッチと、物語の幕間にヒロインが何を思って過ごしていたかの補完など。時子ちゃんが凄く可愛かった。ていうか、接点はなかったみたいに言っておきながら、武村のヤツちゃっかりパンデミック前の時子ちゃんともフラグ立ててたんだね。そういう所よね、ホント。


エロ(18/20)
 vol1が深月6、時子2で8枠。vol2が深月1、時子1、時子&ゾンビハーレム1、牧浦4で7枠。vol3が深月3、時子1で4枠。vol0は深月1、時子1、牧浦1の3枠。シリーズの累計で22枠ですね。売値がミドル帯なので、コスパは全然良い感じでしょうね。シナリオゲーでありながらエロも疎かにしていないのは素直に好感。また個人的には回数もさることながら、ゾンビエッチの肉オナホ姦が凄く好きだったし、深月ちゃんの乳を舐め回してくれる武村に信頼を深めたし、内容が性癖に刺さっていたので嬉しい限り。牧浦は……別に。


音楽(7/10)
 vol1と3のエンディングにボーカル曲あり。3の「たどりつく場所」というのが、深月の作中セリフ「いつかどこかにたどりつけるんでしょうか」から取ったのだと思うのですが、非常に歌詞が良かったですね。BGMに関しては、全体的に暗く物悲しい調子のものが多く、作風にキチンとマッチしていました。


合計(83/100)