異性間の友情から恋愛発展までの距離感、付き合ってからの価値観の違いによるディスコミュニケーションと摺り合わせまでを萌えゲーの枠内で巧みに描いた楓・つづりルートは等身大の青春恋愛が好きな人は気に入ると思う。残り二人のルートは逆に正着パツヅモのストレスフリー萌えゲー(抜き寄り)で前作から据え置きの書き筋ですね。
グラフィック(18/20)
うなさか先生の絵は相変わらず好き。ビジュアル面で一番好きなのはバンパイアレディのコスした愛理ちゃんかな。楓も好きだけど。逆につづりちゃんは口元が少し苦手なキャラデザですね。背景絵は特に問題は無く美麗でした。あと全体的に私服がチョット可愛くなった気がする。
ストーリー(36/50)
まず構成の話をすると、本作では共通ルートが終わってから、つづり・楓の共有ルート(以下は貧乳組)か愛理・ゆずの共有ルート(以下は巨乳組)みたいなワンクッションを挟んでから一人の個別ルートへと移行するという形式を取っています。グループリーグの上位二名が勝ち抜けで決勝戦みたいな感じです。で、この決勝戦では友達以上恋人未満状態の二人でせめぎ合うアレを書いてますね。ここを上手く使えているのが貧乳組で微妙に難しかったのが巨乳組ですね。
明暗を分けた原因は非常に明快で、貧乳組は恋心が芽生える手前くらいの状態を書けたのに対して、巨乳組は決勝開始時からハッキリした好意がある所為ですね。巨乳組をガチで書くと三角関係の奪い合いがキツキツになっちゃうだろうし、それは萌えゲーの枠を破っちゃうかなっていう。じゃあ挟まないで直で個別入ったら良かったんじゃとも思うけど、これ多分ライターさんの裁量ではなく、メーカー側からの注文だと思うんだよね。中々書きにくかったんじゃないかと思う。
上手く活用するなら、「これから」を描く貧乳組との対比で「これまで」を描く尺にしたら良かったのかな。回想を多めに入れてね。例えばゆずだったら、ドーナツをキーアイテムとして使って好意の契機を書くとか。中学で作った最初のドーナツは調理実習の課題で、だけど上手くなくて皆腫れ物に触れるような感じだった中、主人公だけは文句も言わず食ってくれたのが嬉しかった、みたいな。それ以降、彼を笑顔にするために勉強を重ねるシーンも入れたりして、リベンジのドーナツをもっとドラマティックに演出する等。愛理にしても、ソシャゲの中での出会いや、好きになっていく過程をイベントとして回想したりして欲しかったですね。両者とも共有ルート(ないし個別の前半辺り)でこういった「これまで」の過去に抱いた恋心の確認をしておくと抜きゲー的な性急さは幾らか軽減されたように思う。巨乳組ルートは本当すぐ主人公が勃起してたもんね。一応付き合ってすぐではなく、暦の上では一定時間過ぎてるみたいだけど、イベント入れずにただカレンダーを捲っただけだからさ、結局勃起してるイメージしか残らないんよね。まあ読めたもんじゃないって程ではないし、普通の萌えゲー(やや抜き寄り)としては及第だけどね。
次は共有ルート込みで上手く書けていた貧乳組について。オータムーンから。割とライターさんの哲学や恋愛観が濃く出ていて、好きな人は好きなルートなんでしょうね。
彼女は少し個性的な子で、アンチSNSみたいな哲学を持っていて、対面同士でのコミュニケーションをこそ大切にすべきという考え方が最初にあり、よって仲を深めるまでの過程が長くなります。本名を教えてもらうまでですら「今度直接会った時、彼女が言うところの縁が交わった時にでも教えてもらおう」という牛歩状態。共通ルートである程度話すようになり、共有ルートでスキンシップまで出来る異性友人関係として完成し、個別ルートでその完成形にもう一つオプションとして「恋人同士で出来る事」を付けるまでの迂遠とも鈍亀とも言える道筋を辿ります。
彼女のコミュニケーション論は、まあ然程珍しい論旨ではないですが、おさらいすると、SNSでは感情や言葉の裏に隠された意図だったりが読めなくて、不完全なコミュニケーションになってしまうのではないか? 故に殊更大事な用件は顔を合わせて話すべしという感じ。我々がやらされている労働とか言う懲役刑においても実際そうですよね。簡単な確認等ならメールで済ます事も多いし、それなら顔も今いる場所も見えないから、ウンコしながら打っても良いし、ケツ拭きながら返信を受けても良いでしょう。だけど重要な話や報告なら、先方に直接出向いたり、上司にも自身の口で報告するのが普通です。その際は遺憾ながらウンコの代わりに何か神妙な感じを出さないといけません。
それでも「お前はどうも真剣味に欠ける」みたいな事は言われたこともありますし、結局それは顔を合わせた事により感情や何やらを読み取られたという事でしょう。ムカつく。人間、自分で思っている以上に声のトーンだったり、顔色だったり、全身から漂う気怠さ(或いはやる気)みたいなのは相手に伝わってたりします。騙すのが上手い人は、多分そういう「やる気のある人」「真面目にやってる人」の表情の作り方や話し方というのを模倣しているんだと思う。非オタ一般人の普通の処世術とも言いますがwまあ何にせよ、オータムーンが言いたいのも、こういう対面でのみ読み取れるニュアンスってのを大事にしたいという事みたいですね。やはり真新しい論でもないし、何なら手垢塗れとも言えますが、じゃあ何が良かったのかと言うと、その哲学がキチンと二人のイベントの中に落とし込まれていて、かつ説得力があった点。
例えば。主人公の夢は、ふたり顔突き合わせて対話を重ねて、鬱陶しがっていた母親にもキチンと向き合った事によって見えてきた願望でしたが、これに気付けたのは対面コミュニケーションを重ねたからこそ。このくらいの年頃の男の子が「母親うざい」とSNSに書き込んでいたら、どう受け取ります? あー反抗期ね、で終わりですよね。でも傍で直接、何度も聞いたつづりは彼が深層心理で抱いている尊敬の裏返し・照れ隠しだと推知出来ました。「うざい」と言うとき少し拗ねたような顔をするのかもしれないし、親愛を感じる笑いを浮かべているのかも知れません。傍で見ている人しか分かりませんね。主人公本人ですら自覚できてなかった本当の自分の気持ちですからね。つづりを見送った後、ポツンと言った「母さん、俺の彼女、ものすごくいい子だよ」という台詞に色々集約されてますね。母親に照れ臭い本音を言えるようになった思春期からの成長と、それをもたらしてくれた彼女への感謝。
そして主人公も貰うだけじゃありません。自分の夢のため卒業後は遠距離恋愛が確定した際のライン上のやり取りで微妙な違和感に気付いた主人公は直接彼女の家にカチコミ、見事本音を引き出すことに成功します。これもまた対面で、ぶつかって行かないと吐き出してくれなかった感情だし、そういった感情を抑制するのが周囲から期待される優等生の秋月つづりだったのだと認識できます。ここでも自分が知らなかった自分に、他者との対面コミュニケーションで気付くという書き方をしてますね。面白いですね。
ただ当然ですが、顔合わせて話し合えば何でも伝わるワケではないし、察してくれるワケでもないし、察しても歩み寄れず譲れない線もあるでしょう。それでも擦り合わせる努力は弛まず、合わせられない価値観の違いをそのまま認め合って楽しめる。「解り合えない関係が、きっと俺たちにとって心地のいい距離なんだろう」という主人公の独白が示す通り、ふたりの関係は大体そんな感じですね。
オータムーンについては一旦少し脇に置いて、続いて(恐らく)同ライターさんが書いたであろう楓ルートを見ていきましょうか。
共通~共有ルートでイベント事に対する考え方の変容と、それをもたらしてくれた主人公への気持ちの変遷を描いており、友達以上恋人未満の状態が一番可愛かった人ですね。クールなようで主人公が言った「綺麗」という誉め言葉をキチンと覚えていたり、冬休みに入っても当然毎日会う前提で、遊び場所を探したり。懐いてくれた黒猫って感じですかね。
やがて交際を始めた二人、だけど特別なドラマを経なかった事に不安を覚える主人公。ここで再びつづりの箴言が活きますね。いわくキスもセックスも全て自分たちで選択した、そっちの方がドラマよりも尊い、的な。やはりここでも彼女の根底にある対話至上主義、次期ダライ・ラマ当確。メロドラマのような熱に浮かされて進むより、地に足付けて二人で話し合って確認し合って進む道こそ誇るべし、という。
だけど、そうして話し合いながら進んでいても、屋上の閉鎖の件で二人はすれ違います。話したのに、言葉一つ足りないだけで、感情一つ見えなかっただけで、学年一つ違っただけで、すれ違います。ここでもまたまた高僧が取り持ってくれますが、その際も「もっと話し合え」でしたね。言語というのは意思伝達手段としては非常に不完全で、だからこそ現実で向き合って、感情を乗せて話して、補って、それでもすれ違いばかりですね。なら文字が届くだけのネットコミュニケーションでは更に難易度は跳ねあがります。現実でのすれ違いも見せた事により、間接的にSNS上での不寛容の起こり易さを浮き彫りにする。便利さ、気軽さの代わりに失った物。つづりルートと楓ルートは地続きですね。彼女の思想をより感じたいなら両方やった方が良いでしょうね。
ちなみにさ、ここまで書いてみても、「読み取れてないな」「言語化上手く出来てないな」って部分は多々あるだろうし、そんな僕の感想を読んでくれてる人には更に伝わってないかもしれないね。最悪、この人ウンコって書きたいだけじゃないの? って誤解されている可能性まであります。それくらい言葉で何かを伝えるのは難しい。目新しくない哲学ながら、こうも改めてストレートに展開されると、こっちも目新しくない思考をもう一度噛み締めるよね。
正直、感情としてはそこまで好きなタイプじゃない子でしたが、萌えゲーの不文律に抵触しない範囲内で上手く描写して立ち回らせていたのは間違いないので理性で高得点つけさせてもらいました。
エロ(14/20)
全員4回ずつ。連戦があったり、オナニーがあったり。不意の外出しやコンドームはやめて欲しいと再三申し上げています。生中出し派です。前作より回数を減らした分が、恋愛描写の尺になったのは喜ばしいし、僕自身そうした方が良いんじゃないみたいな事も書いたから、非常に申し上げにくいんだけどさ……クリア後の「おまけエッチ」とかで回数補完したら良いんじゃない? 本編中に入れるとテンポや必要描写を阻害する虞がある場合は、そうするゲームも多いよね。最近やったエロゲで言うと、無限煉姦やリドルジョーカーかな。或いは、サブキャラを攻略させてくれても良いけど。頑としてやらないよね、戯画さんは。
まあ文句はこれくらいにして、良かった点を挙げると、ある程度服装はバラけてくれたよね。全員コスプレエッチは完備してたし。あと、中々お目にかからない声優さんの濡れ場を聞けたし、程よい卑語も嬉しい。
音楽(8/10)
BGMは明るめのキラッキラした青春らしい曲調のモノが多かったですね。OP曲は流石のエレガという風情で、キスシリーズの中でもかなり好きな部類の曲になりました。
合計(76/100)