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tkktさんの初情スプリンクルの長文感想

ユーザー
tkkt
ゲーム
初情スプリンクル
ブランド
Whirlpool
得点
86
参照数
1445

一言コメント

キャラメイクの上手さ、軽妙洒脱な掛け合い、独特のワードセンス……今作もライターの持ち味が遺憾なく発揮されており、控えめに言ってクソ面白かった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

グラフィック(19/20)
 まみず先生単独原画ということで、大満足ですハイ。欲を言えばSDはこもわた先生だったらなあってところ。ちなみに今作のパッケージ超好き。すごい渋めな紫でカッコイイ。


ストーリー(41/50)
 ※ワールドエレクションのネタバレを含みます。箇条書き形式にします。
 
 1.二次元少女をベースに数滴だけ三次元成分を垂らした味のあるヒロイン
 羽月に関して。このライターさんはよく幼児性を混ぜてヒロインを作る手法を取る方で、今作のその「育児枠」は羽月でしたね。ちなみにワーエレではクルルがこの枠でした。
 この育児枠ってのは(僕が勝手に呼んでるだけですが)結構ガチにわがまま放題やりたい放題させる、いわば三次元の子供から受けるのとほぼ同種のストレスをプレイヤーに与えるのですが、そのストレスを耐えた先に、不意に見せてくれる無邪気な笑顔が愛おしいって寸法です。育児のカタルシスに通じるものがありますよね。「手の掛かる子ほど可愛い」とはよく言ったもので。
 ひとつ象徴的な場面を挙げると……初対面の寺の息子つかまえて、ピカピカして考え事に集中できないから謝れと絡んだ挙句、頭パーンするシーン。多分あの時の彼女は「叩いたらどんな音するんだろう?」以外何も考えてなかったんだろうなってのが手に取るように分かる。本当に三歳児並の思考で、実際、主人公が「赤ちゃんかな?」とツッコミ入れてましたよね。
 ただ三次元の子供と同種と書きましたが、同量のストレスでは無い所がミソなんですよね。本当に数滴だけ。もし本物のガキと同じようなストレス量にすればゲームにならないですからね、流石に。逆に言えばこの配分を間違えると途端に三次元のクソガキ化し、不快ヒロインに成り下がってしまうという事で。そして多分人によってはこれくらいでもアウトな人はアウトだと思います。僕にしても、このライターさんの作品は幾つかやっているので、こういうヒロイン出すってのは分かっていたから大丈夫ってだけで、何の前情報も無しだったら不快に思ったかも知れません。つまり、結構リスキーなキャラ造形でもあるんですよね、この育児枠は。
 だけどそのリスクを取るかわりにメリットもあって……やっぱ生き生きしてるんだよね、この人の書くキャラは。作り物めいた感じがしないっていうか。

 2.少し馴染みの無いお姉ちゃんキャラ
 このライターさんのお姉ちゃんキャラはあんまり記憶になくて少し驚きました。以前の名義でもあまり書いてなかったような気がします。で、肝心の出来は如何にって話ですが……
 良いっすねー。羽月とは好対照で、お母さんっぽさをミックスしてる気がします。家事は大体やってくれるんだけど、「あー、また朝飯はベーコンエッグで昼は素麺かー。皿も片付けないことが多いんだよなー」っていう飯作ってくれてる手前、口には出しにくいけど、少し萎えるっていう要素を持ち合わせてる子なんだよね。お母さんっぽいよね、ホント。怠惰の魔女ってのもミソだよね(専業主婦の皆様に失礼w)、家事が終わったらソファでだらけそうな所とか。何でも出来る完璧生徒会長ってだけではない魅力。

 3.輝くサブキャラたち
 キャラの話でどんだけ書いてんだよwって話だけど、もう少しだけお願いします。
 亀に関しては、1、2と同じで二次元マスコットに三次元的な要素をそっと混ぜて魅力を生み出す手法が取られています。いやさ、ちゃんと女性声優を当てて、モコモコした絵柄でデフォルメさせて……ダンゴムシ食うんだぜアイツww面白すぎんだろ。可愛い子猫がある日ゴキブリの死骸咥えて戻ってくる図とそっくりで、早希姉が思わずファブリーズしてしまう気持ちが分かるんだよなーw
 ハゲに関しては、寺の子という設定を上手く利用して、落ち着いたキャラに仕上げてましたね。相当理不尽な(初対面で頭はたかれる×2とか)扱いを受けながらも仏徒らしい余裕を持って受け流してるのが逆に面白いっていう構図で、ギャグキャラを立派に勤め上げてました。だけど何をしてもノーダメージって事でもなく、主人公が先に童貞捨てたことが判明すると凄まじい声で驚く(声優さんマジ上手いw)年相応の面もあり、本当好き。

 4.声優さんの素晴らしい演技
 ハゲのみならず、早希姉や羽月、モブ役に至るまで、本当に演技がキレキレでしたね。卯衣さんとか超楽しそうでした。ライターさんの注文が細かく行き渡ってたのか、声優さん方に委ねたのか興味がありますね。まあ兎に角、年とってきてギャーギャーうるさいノリのギャグ演技が少し付いていけなくなっている僕には凄くハマリました。勿論まったく叫ばないってわけでもなく、ここぞの場面でしか叫ばないっていうか。だからこそ効果的っていうか。

 5.誰の口からも不意に飛び出すパワーワード
 そして忘れてならないのがライターのワードセンスです。37歳の喪女にアイアンメイデン(鋼鉄の処女)とか、多分現実で言ったら訴えられるレベルな煽りですよ。しれっとこのレベルのパワーワードが飛び交うので、本当にテキストを読み進めるのが楽しかったです。普段テキスト流し読み気味の人も是非、キチンと読んで欲しいなって思う作品ですね。本当さらっと飛び出すんですよね。主人公が吐くセリフにも多いですし。
 もう一例。「そうちゃんの亀ちゃんも甘えんぼかな~?」という小春のパワーワード。今作はエロ満載のお話で、マスコットに亀を使っているわけです。そりゃ、下ネタに使いますよね? と思わせておきながら全然使わないんですよね。で、いつ使うんだろうと思いながら進めて進めて、忘れた頃にやはりサラリと言わせるワケです。しかも一番下ネタから縁遠そうな小春に。多分、小春は渾身の下ネタ言ってやった自覚もないんでしょうね。このセンスですよ、俺が大好きなのは。

 6.真相はコント仕立て
 今作は謎解き要素は皆無です。騒動の犯人はプレイヤーには最初から明かされていますし、奏の正体にしても(公式にプールの場面のCGが上がってましたよね確か)隠されていません。むしろここら辺をコント風のギャグに仕立て上げており、笑いに拍車を掛けてくれました。お姉ちゃんの板挟み生活や、ハゲが奏をホモと断定する場面等は大変面白かったです。
 エロゲやってて、「いやもう犯人とか分かるから。そんな引っ張られても」と萎えた経験は誰しもあるでしょうが、エロゲという媒体においては、絵や声や諸々のせいでプレイヤーに情報を隠すというのは結構難しくて、ガチで隠そうと思えば三人称の硬い文体になったりして、それをシナリオゲー以外でやられても何とも言えない気持ちになりますよね。今作はそこらへんを良く弁えて、ギャグ用と割り切り、それが奏功した形ですね。

 7.非抜きゲー?
 こっからは悪い点になります。
 今作は共通ルート内でも射精があり、まあ所謂抜きゲーっぽい作りを取っているわけですが、これが実に中途半端。主人公の能力の厄介さを表現するためなんだろうけど、そうすると個別入ってからのもう一回が個人的には余計。そこはカラダから入る格好にせず、キチンと恋愛してからにして欲しかった。或いは抜きゲーにしてしまってもっと共通からパコパコしてしまうか。どちらにも振り切れてない感が強いっすね、現状は。設定は明らかに抜き寄りだけど、渦巻で抜きゲーって全然聞かないし、メーカー側からストップかかったのかな。

 8.トゥルーの不存在
 ワーエレのような大きな背景設定とまではいかなくとも、もう少し魔法の根源や亀について迫って欲しかった。小春ルートがそこの入り口くらいの内容だったんだけど、そっからトゥルーがあれば!と思ってしまいました。ワーエレのトゥルーは本当に良かったので、つい期待してしまった俺も悪かったんですけどね。
 まあワーエレもそんな売れてないだろうし、低価格のヤツもあんま利益でたようには見えないし、今作はインストール中の鬼ムズミニゲームも無かったし、色々察してはいるんだけどねw

 9.パロネタの増加
 コレが実は一番僕的にイヤな要素です。ほぼ100パー、ゲーム内の情報だけで笑わせることが出来る数少ないライターさんだと思っている方なので、安易にそっちに向かうのは止めていただきたい。本当にやめてください。世の中にはエロゲくらいしかオタク趣味は無い(他は野球観戦とかギャンブルとかそういう普通のおっさん趣味)人も居るんです。そういう俺みたいなのにも優しいギャグゲーであってくれ、マジで頼む。今作は(多分)ジャンプネタの有名どころをパロ元にしてるんだと思う(多分)んだけど、それでも半分くらいしか分かんなかったんだ。そんなレベルの人間も居るのさ。少し混ぜるくらいなら分からないのも我慢するけど、パロ全開とかには本当に進まないで欲しい。

 さて。こっからは個別ルートについて加筆します(2017年9月18日)

 10.みおルート雑感。「宗太くんはアイアンメイデンって言いません。女性の痛みが分かる人です」
 夢見がちな少女の原風景には亡き母の優しい魔法があって、それを思い出すまでの紆余曲折を描いています。まず魔法少女と陸上を天秤に掛け、陸上を切り捨てます。そして次に芸能界入りを決めます。母と同じ職業につけば何か見えるものがあるのではと考えたわけですが、見えたのは過日の母と正義の魔法。一転して魔法少女として覚醒する。結果は凄く王道的ですが、過程を見てみると面白いですね。この子はサクサクと物事を決めるも、普通に間違うし、普通に他人様に迷惑掛けまくるんですよね。ここら辺やっぱ評価分かれそうだなって思います。思春期のガキは大人に迷惑かけながら成長するのが仕事だろって思えるか、やっぱ二次元少女らしく聖女であって欲しいか。
 ちなみに宗太くんはアイアンメイデンって言いました。みおちゃんの夢見る王子様じゃあないんですよね。煽り倒したし、女性の痛みを突いて利用してました。ギャグセリフなのに、意外と核心ついているようなやり取りでメッチャ好き。

 11.雫ルート雑感。「お前が思ってるより世間って優しいぞ」
 両親の不仲に辟易し困憊していた雫は、宗太が話しかけた時、実は結構限界に近かったんじゃないでしょうか。ホテルなんて単語が出ていたのを考えれば、自棄になりかけていたように思います。孤独に耐えられなくなっていて、強引に扉をこじ開けて引っ張り出してくれる人を必要としていた。そこに現れたナンパ男が、だけど話してみると実は優しく初心で、こんがらがったんだと思います。寂しさを埋めたいような、自暴自棄のような、宗太に惹かれたような、複雑な感情が入り混じって、ワンナイトラブも少し頭に浮かんだんでしょうかね。そういうことを推察しながら読んでいるタイミングでラーメンの歌とか歌うのやめて。本当、絶妙にシリアスに落としきらない匙加減が上手いよね。
 しかしまあ、結果を見れば宗太に一途ラブエンドだけど、過程はトライアンドエラーの連続。そして偽者騒動で世間様に大迷惑を掛けてますねww宗太に手を引かれ、彼の周りの人間くらいとは仲良くなったけど、結局最後は二人の世界に閉じちゃうような結末で、彼女の社交性は結局向上したんだろうか、どうなんだろうかってお話。まあ社交的に如才なく振る舞えることが直ちに成長とは言えないけどね。

 12.羽月ルート雑感。「正義はわたし!」
 1で既にキャラについては書いたけど、ルート展開も本当に彼女の個性を生かしてましたね。素直になれず、そのくせ何とか宗太からの「好き」は引き出したい。だけどその傲慢さを強く咎めると、強い言葉にビビッて弱る。本当にちっちゃい子に接するようにしなきゃいけない面倒くささ。繰り返しになるけど……手の掛かる子ほど可愛い。
 そして問題を先送りにして、結局冥堂家の介入を許し、引き裂かれるかという展開。しかしお母さんまでキャラ立ってますよねww娘が超可愛いんだろうに、傲慢の特性が素直にそれを出すことを許さないから、あんな最後になったんでしょうね。或いは少し主人公の事も試してたのかも?

 13.小春ルート雑感。「そうちゃんのコラ~」
 守っているようで、守られているようで、結局支えあって二人三脚。隙があって、微妙に頼りないお姉ちゃんって最高ですよね。その隙の作り方の上手さについては2で書いたとおり。真面目なこと言いながら結局は宗太かわいさに屈して、普通に職権乱用して魔女狩り部に便宜図っちゃう小春の人間らしさが凄い好き。
 ルート展開に関しても、小春らしい「良心の呵責に耐えかねて」という理由で真相を羽月側に漏らすっていうのがまた良いね。6で書いた通り、緊張感の無い二重スパイ生活だったワケだけど、ばれ方まで締りが悪い。そして結局、大災厄みたいなのを振りまいて、亀と同化してエンド。エピローグではマッチポンプ感満載の警備会社を設立。ちゃっかりしてます。

 14.総評
 個人的に今一番ホットなライターさんとメーカーさんのゲームで、期待を裏切らない出来映えだった。本当げらげら笑った。ワーエレのような明確なテーマ性は無くなり、そのかわりコメディ色をより強めてきた印象。
 迷惑を掛けること、ウザがられる事を恐れずにキャラメイク、ストーリメイクしており、好みはハッキリ分かれると思います。僕自身、正直不快に思うことが無かったわけじゃないです。実際悪い点として幾つか挙げました。けど何ていうか、重箱の隅が気にならん位パワーがあった。ワーエレの時も感じたけど、開き直ってるよね恐らく。どうせ万人に好かれるシナリオなんて神様でもない限り不可能なんだから、少々の短所は気にせず、ギャグセンスとテンポの良さ、キャラメイクの上手さ等の長所で捻じ伏せてくる。
 というわけで万人にオススメ出来る作りではないけど、ワーエレもコレも当たれば場外弾クラスだよ。


エロ(17/20)
 登録枠は6~7あるけど、記述の通り共通で一回、個別入ってからも一回、前戯終了があるので、本番至上主義の僕としてはマイナス2でカウントせざるを得ない。勿体無い。
 尺は結構長め。プニッした手足が大変いやらしく、スケベ乳首も健在。毎回衣装も変えてくれるのも個人的には嬉しいところ。


音楽(9/10)
 OPは糞エモくて、ムービーもセンスの塊。サビ中のキザたらしい「夜空にキス」の歌詞とラーメンの歌の場面の雫をあわせるミスマッチのセンスがたまらない。ED曲も中々。


合計(86/100)