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tkktさんの十六夜のフォルトゥーナの長文感想

ユーザー
tkkt
ゲーム
十六夜のフォルトゥーナ
ブランド
Lapis lazuli
得点
69
参照数
524

一言コメント

和洋の別なく、宗教の垣根も越えた、ごった煮オカルトゲー。ボリュームも長大でエロも激薄なので色々余裕があるときにプレイ推奨。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

グラフィック(16/20)
 季節が変われば背景の木々が紅葉したりと細かい点に気を配ってるのは好感が持てるんだけど、敵勢力、せめて五条の城主くらいは専用グラが欲しかったなって思います。


ストーリー(36/50)
 双子から乙女ちゃんルートまでは一応の統一性があったと思う。身近な死と向き合う話だった双子ルート。遥か昔の死別に寂寥感を覚える乙女ルート。死生観の表現方法に差異はあったけれど、少なくとも九条と五条の宿縁とそれに巻き込まれた人々という構図は崩れてなかったわけです。正直乙女ちゃんルートが終わった時点では、共通や双子ルート内でもう少し伏線を張れたんじゃないかとか、そういうことを考えていた覚えがあります。例えば主人公の能力を未来視じゃなく過去視にしておけば、小出しにユメやカグヤの話を織り交ぜられたんじゃないかとか、そういうことを考えてました。けど全編終わった後だと、確かに伏線張っても意味ないわwって思います。だって乙女ルートがクライマックスじゃないんですよね。いかに巧妙に読み手を誘ってもこのルートに集約するわけじゃなんです。
 そしてその終着点になるはずのルシアルートが、五条も九条も関係なくて、十六夜もサクッと終わっちゃって、これまでの和風な雰囲気もぶった切って……キリスト文化ばりばり方向へ舵切って、サイコホラーと悪魔を混ぜ合わせたような、洋画で言うと「エクソシスト」とか「オーメン」とかの作風に豹変するわけですから結構ポカンだよね。まあ最初からシスターが侍の霊を浄化している異種格闘戦みたいな雰囲気はあった今作ですが、いよいよゴチャ混ぜ色が強くなってきて、このゲームのジャンルを教えて下さいと聞かれても返答に困る事態になっていくわけです。
 本来、こういう何がしたいか分からないルートって酷評対象なんですけど、困ったことにね...…面白いんですよね、このルート。ひたりひたりと忍び寄って来る魔手が教会の住人にも異変として表れ始め、恐怖が浸透して行くっていうホラーものの基本をキッチリ押さえた展開。そして緊張がピークに達した辺りで、一気に襲い掛かる悪魔。その凶手に、最強かと思われたゆり子がやられてしまう。そして母の意思を継いだルシアちゃんが信仰の力で討つ激アツ展開。そして戦いが終わった後、悪魔に人生を乗っ取られた哀れな少女は灰となり、ゆり子は、もとは自らに憑いた悪魔をノエルに押し付けて犠牲にしてしまった業を背負うことになる。この母娘を思うと凄く切なくなる。普通に良い話。
 何て言えば良いのかな、この、コース料理の締めに庶民派ラーメンが出されて、食ってみたら美味かったみたいな。出来たら違う日に食べれたらもっと良かったよ、みたいな。
 
 最後に。このゲームのキャラ設定ツボでした。最初は彼らの個性に慣れるまで四苦八苦しましたが、慣れてからは掛け合いが面白かった。
「薫さん、どこ行くんですか?」
「教会」
「ああ、配給ですか」
「嫌な言い方するな」
 といった具合の会話がそこかしこにあって、プレイ中しょっちゅう笑ってました。主人公が図々しい浮浪者で、小菜ちゃんが割りと何言っても憎まれないお調子者で、ルシアちゃんが見返りもなく飯を恵んでくれる天使じゃなければ成り立たない会話で、このゲームならではと言えます。やっぱ自分は、いかにもギャグゲーですよってヤツより、こういうタイプの笑いの方が好きみたいです。


エロ(7/20)
 まあ純粋に回数不足。何故か乙女ちゃんだけ二回あるけど。比較的完成度が高めの効果音も使う場面が少なすぎちゃ無用の長物ってもんよ。


音楽(10/10)
 OPEDとも楽曲が素晴らしい。BGMも緊張感のあるものから、かぐやのテーマのような雅な雰囲気のものまで揃っていた。


合計(69/100)